休職者への適切な対応と就業規則の整備ポイント〜メンタル疾患と休職制度の実務〜

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

近年、従業員のメンタルヘルス不調による休職が増加傾向にあります。厚生労働省の調査によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は年々増加していますが、実際の休職者対応において適切な対応ができていない企業も少なくありません。特に中小企業では、休職制度の整備が不十分であったり、運用方法が確立されていなかったりするケースが見受けられます。

本記事では、メンタル疾患を抱える休職者への適切な対応と規定のポイントについて、実務的な観点からまとめます。メンタル疾患が疑われる段階での初期対応から、休職発令の手続き、そして職場復帰までの一連のプロセスにおいて、企業が知っておくべき重要ポイントを解説します。近年の裁判例や実務慣行を踏まえながら、人事担当者が現場で活用できる具体的な対応方法をご紹介していきます。

2. メンタル疾患への対応の基本

2-1. メンタル不調者の状況分析

メンタル不調を抱える従業員への対応を検討する際は、まず以下の3つの視点で状況を分析することが重要です。

第一に、本当にメンタル疾患なのかという点です。従業員自身が自覚している場合もあれば、自覚していない場合もあります。また、診断書が提出されたものの、その内容に疑問がある場合もあるでしょう。

第二に、メンタル疾患の原因がどこにあるかという視点です。会社の業務に起因している(と本人が思っている)場合と、既往歴がある場合では対応が異なってきます。業務に起因している場合は、労災認定の可能性も含めて検討する必要があります。

第三に、復帰可能なほどに回復しているかという点です。実際に治療が進み回復している場合もあれば、まだ治っていないのに復職を希望してくる場合もあります。

2-2. 診断書が提出された際の適切な対応

従業員から「うつ病と診断され、1か月の自宅療養が必要」などと診断書が提出された場合、たとえその診断に疑問があったとしても、まずは休ませることが基本です。診断書に記載された内容が事実と異なると考えられる場合でも、診断書を拒否したり、診察した医師に会わなければ認めないといった対応は避けるべきです。

診断書の内容に「職場環境悪化によりうつ病発症」などの原因が記載されている場合でも、その原因に異論があっても、まずは「自宅療養を要する」という医師の見立てに従いましょう。医師が勝手に原因を決めつけているという理由で診断書を認めないという対応は、後々のトラブルになる可能性があります。

会社としては、診断書が出されたら受け取り、本人を休ませたうえで、本人の同意を得て主治医に意見を聞くなどの対応を取るとよいでしょう。なお、診断書を受け取ったからといって、その記載内容をすべて会社が認めたことにはなりません。

3. 休職制度の整備と運用

3-1. 休職規定の重要性

私傷病休職とは、業務以外の理由(怪我や病気)で勤務ができない従業員の就労を一定期間免除し休ませることです。その期間に復帰ができなければ退職となります。重要なのは、休職は労働者の権利ではなく、会社が決めるのが原則であるということです。

休職規定がない場合でも、連続欠勤を理由にすぐに解雇することは難しいでしょう。裁判所は「長期雇用が継続している間には病気をすることもあるだろうから、回復のために一定期間は待つべき」という立場を取る傾向にあります。したがって、休職規定を整備しておくことが企業側にとっても従業員側にとっても重要です。

3-2. 休職発令の要件と手続き

休職を発令する際は、就業規則に定められた要件を満たしているかを確認する必要があります。例えば「私傷病により連続欠勤が〇日を経過した場合」という規定があった場合、欠勤の連続性が問題になることがあります。有給休暇を間に取得した場合や、短時間だけ出社した場合に「連続欠勤」に該当するかどうかが争われることもあります。

このような解釈上の問題を避けるため、「私傷病により暦日連続●日間以上就労がないとき」や「心身の不調により労務提供が不完全であるとき」といった表現で規定しておくことが望ましいでしょう。

休職発令の際は、必ず書面で通知することが重要です。「休職命令書」には、休職期間や注意事項を明記し、休職期間中の義務(療養に専念すること、定期報告、社会保険料の納付など)を明確にしておきましょう。

3-3. 休職期間の設定

休職期間の設定については、企業規模や業種によって異なりますが、一般的には3か月から1年程度が多いようです。裁判例においても、2か月から4か月程度の休職期間であっても、有効と判断されているケースがあります。

休職期間の始期については、欠勤開始時点から遡ってカウントする方法と、正式に休職を命じてからカウントする方法がありますが、自然退職という重大な効果を伴うものであることから、休職発令後の期間でカウントする方が安全でしょう。

また、復職後に同一または類似の事由で再度休職となった場合の通算規定も設けておくと良いでしょう。「従業員が復職後3か月以内に同一ないし類似の事由により欠勤ないし通常の労務提供ができない場合は、復職を取り消し、休職させる。この場合の休職期間は復職前の休職期間の残期間とする」といった規定が一般的です。

4. 休職期間中の対応と管理

休職期間中も、従業員との適切なコミュニケーションを維持することが重要です。休職の原因となった疾病の回復に専念すべきことを伝え、休職期間中の行動について誓約書を取得しておくことも検討しましょう。

定期的な報告を求めることも有効です。1か月に1回程度から始めて、回復状況に応じて頻度を増やす方法が良いでしょう。報告方法も最初はメールなど本人の負担が少ない方法から始め、回復に応じて口頭での報告を求めることも検討します。

ただし、休職期間中の行動に過度の制限を課すことは控えるべきです。例えば、旅行やレジャーなどの活動を一律に禁止することは適切ではありません。うつ病などのメンタル疾患の場合、医師の指示の下で適度な外出や気分転換が治療の一環として推奨されることもあります。裁判例においても、休職中に旅行や外出をしていたことだけをもって療養専念義務違反と認定されなかったケースがあります。

重要なのは、療養に専念するという基本姿勢を維持しつつも、回復のための適切な活動については柔軟に考えることです。ただし、副業や他社での就労など、明らかに療養に反する行為については制限することが認められています。

5. 復職に向けての準備と判断

5-1. 復職可否の判断基準

休職者から「復職したい」という申し出があった場合、まずは復職可能であることを証明する診断書の提出を求めましょう。ただし、診断書だけで判断するのではなく、会社独自の復職プロセスを定めておくことが重要です。

復職可否の判断においては、以下のような点を確認します。
・疾病が治癒または軽快したか
・職場復帰に必要な業務遂行能力が回復しているか
・再発防止と再休職防止のための配慮事項は何か

主治医の「復職可能」という診断だけでなく、産業医の意見や、場合によっては会社が指定する医師の診断も参考にすることが望ましいでしょう。

5-2. 試し出勤(リハビリ勤務)の活用

復職に向けては、「試し出勤」や「リハビリ勤務」を実施することも効果的です。これは、正式な復職前に一定期間、時間短縮や業務制限をしながら勤務してもらい、職場復帰の可能性を判断するものです。

試し出勤については、2023年の裁判例(早稲田大学事件)でも、「産業医の意見に基づき、配慮を要する点について必要な判断をするための試し勤務は合理的」と判断されています。ただし、試し出勤を拒否された場合でも、すぐに不利益取扱いをするのではなく、話し合いを継続することが重要です。

なお、試し出勤中の賃金については、実際に業務を行った場合は最低賃金法の適用を受けるため、適切な賃金を支払う必要があります。業務内容に応じて時給制とすることも可能ですが、金額設定には注意が必要です。

5-3. 条件付き復職への対応

「在宅勤務なら復職可能」「時短勤務なら可能」などの条件付きの復職診断書が提出されることもあります。このような場合、まずはなぜそのような条件が必要なのかを主治医に確認することが大切です。

会社としては、業務の性質上、在宅勤務や時短勤務が可能かどうかを検討する必要があります。基本的な業務が出社を前提としている場合、在宅勤務だけでは会社が求める労務提供とは言えない可能性があります。

このような場合も、いきなり復職を拒否するのではなく、試し出勤を活用するなど、段階的な復職プロセスを検討することが望ましいでしょう。

6. まとめ

メンタル疾患による休職者への対応は、企業にとって悩ましい問題です。しかし、適切な休職制度の整備と運用によって、従業員の健康回復と職場復帰を支援しつつ、企業のリスクを軽減することが可能です。

本記事でご紹介したポイントをまとめると以下のようになります。

・メンタル不調者への対応は、状況分析が重要。疾患の有無、原因、回復状況の3点を確認する
・診断書が提出されたら、まずは受け取り、休ませることを基本とする
・適切な休職規定を整備し、運用手続きを明確化する
・休職期間中も適切なコミュニケーションを維持し、定期的な報告を求める
・復職時には、診断書だけでなく、会社独自のプロセスで判断する
・試し出勤を活用し、段階的な復職を支援する

休職制度は従業員の健康と雇用を守るためのセーフティネットであると同時に、企業にとっても長期的な人材確保の観点から重要な制度です。適切な制度設計と運用を心がけ、従業員と企業の双方にとって最適な結果となるよう取り組みましょう。

なお、個別のケースについては、状況に応じた判断が必要となりますので、専門家(社会保険労務士や弁護士)への相談をお勧めします。

【参考情報】
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
厚生労働省「職場における心の健康づくり〜労働者の心の健康の保持増進のための指針〜」
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf