もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
2025年10月1日、改正育児介護休業法が施行されました。この改正は、仕事と育児の両立支援を大幅に強化する内容となっており、すべての企業に新たな義務が課されています。特に注目すべきは、3歳から小学校就学前の子を持つ従業員に対する「柔軟な働き方を実現するための措置」の義務化です。
施行されたばかりの今、中小企業の経営者や人事担当者の皆様の中には、まだ十分な対応ができていない方もいらっしゃるのではないでしょうか。就業規則の改定や社内体制の整備が未完了の場合でも、早急に対応することで法令違反のリスクを回避できます。
本記事では、改正法の重要ポイントを分かりやすく解説し、企業が取るべき具体的な対応策をご紹介します。法改正への対応は、単なる法令遵守にとどまらず、従業員の定着率向上や企業イメージの向上にもつながる重要な取り組みです。
2. 2025年10月1日施行の改正育児介護休業法とは
2-1. 改正の背景と目的
少子高齢化が進む中、仕事と育児の両立は社会全体の重要課題となっています。特に、育児期にある労働者が柔軟に働ける環境を整備することは、出生率の向上や女性の継続就業、男性の育児参画促進に不可欠です。今回の改正は、育児に関する状況が職業生活に起因する離職を防ぎ、職業生活と家庭生活の両立を円滑にすることを目的としています。
従来の制度では3歳未満の子を持つ労働者への支援が中心でしたが、保育所等への送迎や子どもの体調不良への対応など、小学校就学前までの期間においても柔軟な働き方が求められています。こうした実態を踏まえ、今回の改正では支援対象が拡大されました。
2-2. 主な改正ポイント
今回の改正における育児関連の主な内容は次のとおりです。第一に、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者が選択できる複数の柔軟な働き方の措置を事業主が講じることが義務化されました。第二に、これらの措置に関する個別周知と意向確認が義務付けられています。第三に、妊娠・出産等の申出時と子が3歳になるまでの適切な時期に、仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取と配慮が義務化されました。
さらに、所定外労働の制限対象となる子の範囲が小学校就学前まで拡大され、短時間勤務制度の代替措置も追加されています。従業員300人超の企業には、育児休業取得状況の公表も義務付けられました。
3. 企業が対応すべき「柔軟な働き方を実現するための措置」
3-1. 5つの選択肢から2つ以上を選択
今回の改正で最も重要な対応事項が、柔軟な働き方を実現するための措置です。事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者のために、次の5つの措置の中から2つ以上を選択して講じる必要があります。
一つ目は始業時刻等の変更で、フレックスタイム制または時差出勤制度を指します。二つ目はテレワーク等で、月10日以上利用できるものとし、原則として時間単位での利用を可能とする必要があります。三つ目は保育施設の設置運営等で、これにはベビーシッターの手配及び費用負担も含まれます。四つ目は養育両立支援休暇で、年10日以上利用でき、原則時間単位で取得可能とする必要があります。五つ目は短時間勤務制度で、1日の所定労働時間を原則6時間とする措置を含むものです。
3-2. 各措置の具体的内容
始業時刻等の変更については、1日の所定労働時間を変更せずに始業・終業時刻を繰り上げ・繰り下げする制度が該当します。保育所等への送迎の便宜を考慮した時間設定が求められます。テレワーク等については、自宅での勤務を基本としつつ、事業主が認める場合にはサテライトオフィス等での勤務も含まれます。1週間の所定労働日数が5日の労働者については1か月につき10労働日以上とする必要があります。
保育施設の設置運営等については、自社で保育施設を設置する以外に、ベビーシッター派遣会社と契約して労働者からの希望に応じて派遣を依頼する仕組みや、福利厚生サービス企業と契約してカフェテリアプランの一環としてベビーシッターサービスを選択できるようにすることも該当します。養育両立支援休暇は、就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇で、取得理由は労働者に委ねられています。
3-3. 労使協定による適用除外
労使協定を締結することにより、雇用期間1年未満の者や週所定労働日数2日以下の者については、これらの措置の対象外とすることができます。ただし、日々雇用される者は労使協定がなくても対象外となります。措置を選択する際には、過半数労働組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があることも忘れてはなりません。
4. 個別周知・意向確認の義務化
4-1. 実施時期と対象者
事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期に、柔軟な働き方を実現するための措置に関する個別周知と意向確認を行う必要があります。具体的には、労働者の子が1歳11か月に達する日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日までの1年間のいずれかの時期に実施します。
例えば、3月15日生まれの子の場合、1歳の2月16日から2歳の2月15日までの1年間が対象期間となります。この期間内に確実に実施する必要があります。施行日である2025年10月1日時点で2歳11か月に達する日の翌日を過ぎている場合(2022年10月30日以前生まれの子)には、法律上の義務は生じていません。したがって、2022年10月31日以降に生まれた子を持つ労働者が対象となります。現時点では、2022年10月31日から2023年10月頃までに生まれた子を持つ労働者への対応が急務となっています。
4-2. 周知すべき内容と方法
周知すべき内容は、事業主が選択した対象措置(2つ以上)の内容、対象措置の申出先、所定外労働の制限・時間外労働の制限・深夜業の制限に関する制度です。周知と意向確認の方法は、面談(オンライン面談も可)、書面交付(郵送も可)、FAX、電子メール等のいずれかによります。ただし、FAXと電子メール等については、労働者が希望した場合のみ利用可能です。
第二子の育児休業中であっても、第一子が対象期間に該当する場合は個別周知・意向確認の実施が必要です。育児休業開始直前や終了直前など、コミュニケーションを取りやすいタイミングを工夫して、他の意向聴取と一体的に行うことも考えられます。
5. 仕事と育児の両立に関する個別意向聴取・配慮義務
5-1. 意向聴取のタイミング
事業主は、労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき、および労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、仕事と育児の両立に関する意向を個別に聴取する必要があります。この意向聴取は、従来の育児休業制度等の周知・意向確認とは異なり、より踏み込んで労働者個人の事情を把握するものです。
適切な時期としては、妊娠・出産等の申出時、柔軟な働き方を実現するための措置に係る面談時、育児休業からの復帰時、短時間勤務制度や柔軟な働き方を実現するための措置の利用期間中などに、定期的な面談を行うことが望ましいとされています。
5-2. 聴取内容と配慮の具体例
聴取すべき内容は、勤務時間帯(始業及び終業の時刻)、勤務地(就業の場所)、両立支援制度等の利用期間、仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)です。意向聴取の方法は、個別周知と同様に、面談、書面交付、FAX、電子メール等のいずれかによります。
事業主は、聴取した意向について、自社の状況に応じて配慮する必要があります。配慮の具体例としては、勤務時間帯・勤務地にかかる配置、両立支援制度等の利用期間等の見直し、業務量の調整、労働条件の見直しなどが挙げられます。ただし、配慮とは、聴取した意向の内容を踏まえた検討を行うことが必要となるものの、必ずしも労働者の意向どおりに対応することが義務付けられるものではありません。
労働者の意向に沿った対応が困難な場合には、困難な理由を労働者に丁寧に説明するなど、誠実な対応を行うことが重要です。最高裁判例でも、妊娠中の軽易業務転換に伴う措置について、労働者の自由な意思に基づく承諾があったと認められる合理的な理由が客観的に存在するか、または業務上の必要性から支障がある場合で実質的に法の趣旨に反しないと認められる特段の事情があるかが判断基準とされています。
6. 就業規則の見直しと実務対応のポイント
6-1. 就業規則改定の必要性
今回の改正に対応するためには、就業規則の改定が不可欠です。まだ改定が完了していない企業は、早急に対応する必要があります。事業主が選択した柔軟な働き方を実現するための措置について、その内容、対象者、申出手続、適用除外の範囲などを就業規則に明記する必要があります。フレックスタイム制や時差出勤制度を導入する場合は、それぞれの制度に関する詳細な規定を整備します。
テレワークを措置として選択する場合は、既存のテレワーク規程との整合性を確認し、必要に応じて規程を改定します。養育両立支援休暇を設ける場合は、取得単位、取得方法、給与の取扱いなどを明確にします。また、個別周知・意向確認や個別意向聴取の実施方法についても、社内手続として整備しておくことが望ましいでしょう。
6-2. 労働者とのコミュニケーション
法改正への対応において最も重要なのは、労働者とのコミュニケーションです。制度を整備しただけでは不十分で、労働者が安心して制度を利用できる環境づくりが求められます。個別周知や意向聴取の際には、形式的な対応に終わらせず、労働者の具体的な悩みや希望を丁寧に聞き取ることが大切です。
管理職に対しては、改正法の趣旨や具体的な対応方法について研修を実施し、理解を深めることが必要です。特に、配慮義務の内容について、必ずしも労働者の要望どおりに対応することが求められるものではないものの、検討を行い、困難な場合には丁寧に説明することが重要であることを周知徹底しましょう。
事業主としては、円滑な業務運営や人員の適正配置の確保といった業務上の必要性と、労働者の育児との両立支援という要請のバランスを取りながら、適切な対応を図ることが求められます。
7. まとめ
2025年10月1日に施行された改正育児介護休業法は、企業に対して新たな義務を課すものですが、同時に従業員の定着率向上や優秀な人材の確保につながる重要な機会でもあります。施行から間もない現在、まだ十分な対応ができていない企業も、早急に準備を進めることで法令違反のリスクを回避し、従業員にとって働きやすい環境を整えることができます。
特に重要なのは、どの措置を選択するかを慎重に検討し、自社の業務実態や従業員のニーズに合った制度設計を行うことです。過半数労働組合等との意見交換を通じて、実効性のある制度を構築しましょう。また、個別周知・意向確認や個別意向聴取については、単なる形式的な手続きではなく、従業員一人ひとりと向き合う姿勢が求められます。
どの措置を選択すべきか、就業規則にどう規定すればよいかなど、法改正への対応でお困りの際は、当事務所にお気軽にご相談ください。法改正に対応した適切な規定の整備をサポートいたします。仕事と育児の両立支援を通じて、従業員が安心して働き続けられる職場づくりを共に実現しましょう。
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