2025年度「両立支援等助成金」ガイド~中小企業の働き方改革を加速させるチャンス~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

本年度も引き続き、多くの中小企業が人材確保や定着に苦労されていることと思います。少子高齢化による労働力人口の減少は、もはや避けられない社会課題となっています。そのような状況の中で、従業員が仕事と家庭生活を両立できる環境づくりは、企業の持続的な成長のために不可欠な要素となっています。

厚生労働省では、このような課題に取り組む中小企業を支援するため、「両立支援等助成金」制度を設けています。2025年度の制度内容が発表されましたので、本ブログでは各コースの概要と活用方法についてご紹介いたします。特に今年度は「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」が新設されるなど、ますます充実した内容となっています。

企業の皆様がこれらの助成金を上手に活用し、従業員にとって働きやすい職場環境づくりを進めていただくための一助となれば幸いです。

2. 両立支援等助成金の概要と中小企業の範囲

2-1. 両立支援等助成金とは

両立支援等助成金とは、仕事と育児・介護等の両立を支援する取組を行う中小企業事業主に対して支給される助成金制度です。従業員が仕事と家庭の両立を図りながら継続して就業できる環境の整備を行うことは、企業にとって優秀な人材の確保・定着につながるだけでなく、多様な働き方を実現する「働き方改革」の一環としても重要です。

2025年度の両立支援等助成金は、次の6つのコースで構成されています。

  1. 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
  2. 介護離職防止支援コース
  3. 育児休業等支援コース
  4. 育休中等業務代替支援コース
  5. 柔軟な働き方選択制度等支援コース
  6. 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース(新設)

それぞれのコースは、企業の取組や従業員の利用状況に応じて支給要件や支給額が設定されています。

2-2. 「中小企業」の範囲

両立支援等助成金における「中小企業」の範囲は、業種によって異なります。具体的には以下の通りです。

  • 小売業(飲食業含む):資本金5千万円以下または常時雇用する労働者数50人以下
  • サービス業:資本金5千万円以下または常時雇用する労働者数100人以下
  • 卸売業:資本金1億円以下または常時雇用する労働者数100人以下
  • その他の業種:資本金3億円以下または常時雇用する労働者数300人以下

なお、育休中等業務代替支援コース(手当支給等)については、上記の要件のうち、常時雇用する労働者数は全産業一律300人以下となっています。

自社が中小企業に該当するかどうかは、助成金申請の第一歩です。該当する場合は、以下で紹介する各コースの活用を検討してみましょう。

3. 男性の育児参加を促進する助成金

3-1. 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)の概要

このコースは、男性労働者の育児休業取得を促進するために設けられた助成金です。育児休業を取得しやすい雇用環境整備などを行い、男性労働者が育児休業を取得した事業主に対して支給されます。

このコースには、「第1種(男性労働者の育児休業取得)」と「第2種(男性の育児休業取得率の上昇等)」の2種類があります。

【第1種】の主な要件と支給額:

  1. 育児・介護休業法等に定める雇用環境整備の措置を複数実施していること
  2. 育児休業取得者の業務代替者の業務見直しに係る規定等を策定し、業務体制の整備を実施していること
  3. 男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する一定日数以上の育児休業を取得していること(1人目:5日以上、2人目:10日以上、3人目:14日以上)

支給額は、1人目が20万円、2・3人目が各10万円です。

【第2種】の主な要件と支給額:

  1. 上記の環境整備措置と業務体制の整備を実施していること
  2. 申請年度の前事業年度の男性労働者の育休取得率が、前々事業年度と比較して30%以上上昇し、かつ育休取得率50%以上を達成していること、または、申請年度の前々事業年度で子が出生した男性労働者が5人未満かつ申請前事業年度と前々事業年度の男性労働者の育休取得率が連続70%以上であること

支給額は60万円です。ただし、第2種は1事業主につき1回限りの支給となります。

3-2. 活用のポイント

少子化対策の観点から、政府は男性の育児参加を積極的に推進しています。このコースを活用することで、男性の育児休業取得を促進し、職場における育児に対する理解を深めることができます。

特に中小企業では、男性の育児休業取得に対する抵抗感が強いケースもありますが、この助成金を活用して環境整備を進めることで、徐々に社内の意識改革につなげることができるでしょう。

具体的な活用方法としては、まず社内で育児休業に関する制度や取得方法についての情報提供を行い、男性社員が育児休業を取得しやすい雰囲気づくりを進めることが重要です。また、業務の引継ぎ方法や代替要員の確保についても事前に検討し、男性社員が安心して育児休業を取得できる体制を整えましょう。

4. 介護と仕事の両立を支援する助成金

4-1. 介護離職防止支援コースの概要

このコースは、労働者の円滑な介護休業の取得・職場復帰に取り組み、介護を理由とした離職を防止するための助成金です。

このコースには、「介護休業」、「介護両立支援制度」、「業務代替支援」の3つの種別があります。

【介護休業】の主な要件と支給額:

  1. 介護休業の取得・職場復帰支援に関する方針の社内周知を行っていること
  2. 労働者との面談を実施し、介護支援プランを作成・実施していること
  3. 対象労働者が連続5日以上の介護休業を取得し、復帰後も支給申請日まで継続雇用されていること

支給額は40万円です。

【介護両立支援制度】の主な要件と支給額:

  1. 上記の社内周知と介護支援プランの作成・実施を行っていること
  2. 対象労働者がいずれかの介護両立支援制度を一定基準以上利用し、支給申請日まで継続雇用されていること

支給額は、制度を1つ導入し利用した場合は20万円、制度を2つ以上導入し1つ以上利用した場合は25万円です。

【業務代替支援】の主な要件と支給額:

  1. 介護休業取得者の業務代替要員を新規雇用または派遣で受け入れた場合は20万円
  2. 介護休業取得者の業務代替者に手当を支給した場合は5万円
  3. 介護短時間勤務者の業務代替者に手当を支給した場合は3万円

対象となる介護両立支援制度としては、所定外労働の制限制度、時差出勤制度、深夜業の制限制度、短時間勤務制度、在宅勤務制度、フレックスタイム制度、法を上回る介護休暇制度、介護サービス費用補助制度などがあります。

4-2. 活用のポイント

高齢化社会の進展に伴い、介護と仕事の両立は多くの労働者にとって重要な課題となっています。介護を理由とした離職を防止するためには、企業側の積極的な支援体制の整備が不可欠です。

介護離職防止支援コースを活用する際のポイントとしては、まず社内に介護休業制度や介護両立支援制度を整備し、それらの制度について従業員に周知することが重要です。また、介護支援プランの作成に当たっては、労働者個人の状況に応じた柔軟な対応が求められます。

厚生労働省のホームページには「介護支援プラン策定マニュアル」が掲載されていますので、これを参考にプランを作成するとよいでしょう。また、「仕事と家庭の両立支援プランナー」による無料訪問支援サービスも利用できます。

5. 育児休業取得・職場復帰を支援する助成金

5-1. 育児休業等支援コースの概要

このコースは、労働者の円滑な育児休業の取得・職場復帰に取り組んだ事業主に対して支給される助成金です。

「育休取得時」と「職場復帰時」の2つの種別があり、それぞれ30万円が支給されます。ただし、1事業主当たり無期雇用労働者1人、有期雇用労働者1人の計2人までが対象となります。

【育休取得時】の主な要件:

  1. 育児休業の取得・職場復帰支援に関する方針の社内周知を行っていること
  2. 労働者との面談を実施し、育休復帰支援プランを作成・実施していること
  3. 対象労働者の育児休業の開始日の前日までに、業務の引き継ぎを実施していること
  4. 対象労働者が連続3か月以上の育児休業を取得していること

【職場復帰時】の主な要件:

  1. 対象労働者の育児休業中に職務や業務の情報・資料の提供を実施していること
  2. 育児休業終了前にその上司または人事労務担当者が面談を実施し、面談結果を記録していること
  3. 対象労働者を原則として原職等に復帰させ、申請日までの間6か月以上継続雇用していること

なお、「職場復帰時」は「育休取得時」と同一の育児休業取得者のみが対象となります。

5-2. 育休中等業務代替支援コースの概要

このコースは、育児休業取得者や短時間勤務者の業務を代わりに行う労働者に手当を支給、または代替要員を新規雇用(または派遣で受入)した場合に支給される助成金です。

【手当支給等(育児休業)】の主な要件と支給額:

  1. 代替業務の見直し・効率化の取組を実施していること
  2. 業務を代替する労働者への手当制度等を就業規則等に規定していること
  3. 対象労働者が7日以上の育児休業を取得し、復帰後も支給申請日まで継続雇用されていること
  4. 業務を代替する労働者への手当支給等を行っていること

支給額は最大140万円(業務体制整備費:最大20万円、業務代替手当:最大120万円)で、うち最大30万円を先行支給することができます。

【手当支給等(短時間勤務)】や【新規雇用(育児休業)】についても、同様の要件で支援が受けられます。

5-3. 活用のポイント

育児休業の取得促進は、子育て世代の労働者の継続就業を支援するために非常に重要です。特に女性の育児休業については一定程度普及してきましたが、スムーズな職場復帰支援についてはまだ課題が残っている企業も多いでしょう。

育児休業等支援コースと育休中等業務代替支援コースを活用する際のポイントとしては、単に制度を整備するだけでなく、育児休業を取得する労働者と上司や人事担当者との丁寧なコミュニケーションを図ることが重要です。育休復帰支援プランの作成・実施を通じて、休業前、休業中、復帰後のそれぞれの段階に応じた支援を計画的に行いましょう。

また、育休中等業務代替支援コースを活用する場合は、業務の見直しや効率化も同時に検討することで、組織全体の生産性向上につなげることができます。

6. 働き方の柔軟性を高める助成金

6-1. 柔軟な働き方選択制度等支援コースの概要

このコースは、柔軟な働き方選択制度等を複数導入した上で、対象労働者が制度を利用した場合に支給される助成金です。

主な要件と支給額:

  1. 柔軟な働き方選択制度等を2つ以上導入していること
  2. 柔軟な働き方選択制度等の利用に関する方針の社内周知を行っていること
  3. 労働者との面談を実施し、プランを作成・実施していること
  4. 制度利用開始から6か月間の間に、対象労働者が柔軟な働き方選択制度等を一定基準以上利用していること

支給額は、制度を2つ導入し対象者が制度利用した場合は20万円、制度を3つ以上導入し対象者が制度利用した場合は25万円です。1事業主当たり1年度5人までが対象となります。

対象となる柔軟な働き方選択制度等としては、フレックスタイム制度、時差出勤制度、テレワーク等、短時間勤務制度、保育サービスの手配・費用補助制度、子の養育を容易にするための休暇制度・法を上回る子の看護等休暇制度などがあります。

6-2. 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースの概要

2025年度から新設されたこのコースは、不妊治療、月経(PMS含む)や更年期といった女性の健康課題に対応するための両立支援制度を利用しやすい環境整備に取り組み、労働者が制度を利用した場合に支給される助成金です。

主な要件と支給額:

  1. 不妊治療、月経、更年期それぞれの両立支援制度(休暇制度、所定外労働制限制度、時差出勤制度、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、在宅勤務等)、制度利用の手続きや賃金の取扱い等を就業規則等に規定していること
  2. 労働者からの相談に対応する両立支援担当者を選任していること
  3. 対象労働者が各両立支援制度を合計5日(回)利用していること

支給額は、不妊治療のための両立支援制度を5日(回)利用した場合30万円、月経に起因する症状への対応のための支援制度を5日(回)利用した場合30万円、更年期に起因する症状への対応のための支援制度を5日(回)利用した場合30万円です。それぞれ1事業主当たり1回限りの支給となります。

6-3. 活用のポイント

働き方改革の推進により、多様で柔軟な働き方の実現が求められています。テレワークやフレックスタイム制度などの柔軟な働き方は、育児や介護との両立だけでなく、生産性の向上や従業員の満足度向上にもつながります。

柔軟な働き方選択制度等支援コースを活用する際のポイントとしては、単に制度を導入するだけでなく、実際に利用しやすい職場風土を醸成することが重要です。管理職の理解と協力を得るための研修や、制度利用者の体験談の共有などを通じて、制度の利用促進を図りましょう。

また、新設された不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースについては、まだ企業での取組が進んでいない分野だけに、先進的な取組として注目されます。女性の健康課題への理解を深めるための社内研修や、相談窓口の設置など、女性が働きやすい環境づくりを進めることは、女性の活躍推進にもつながるでしょう。

7. まとめ

2025年度の両立支援等助成金は、従来のコースの充実に加え、新たに「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」が追加されるなど、より幅広い両立支援の取組を後押しする内容となっています。

これらの助成金を活用するためには、まず自社の課題や従業員のニーズを把握し、どのコースを活用するかを検討することが重要です。その上で、必要な規定の整備や制度の導入、社内への周知などを計画的に進めていきましょう。

助成金の申請に当たっては、各コースの支給要件を確認し、必要な書類を準備する必要があります。詳細な支給要件や手続き、申請期間については、厚生労働省のホームページをご参照いただくか、本社等所在地を管轄する都道府県労働局へお問い合わせください。

従業員が仕事と育児・介護等を両立できる職場環境づくりは、人材の確保・定着や企業イメージの向上につながります。ぜひこの機会に、両立支援等助成金を活用した取組を検討してみてはいかがでしょうか。

制度の詳細や両立支援等助成金の活用に関するご相談、申請手続きについてご不明な点がございましたら当事務所までお気軽にご相談ください。

※本記事は2025年4月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や最新情報については、厚生労働省の公式ウェブサイトや最寄りの労働局にてご確認ください。

【参考情報】

・厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
・厚生労働省「2025(令和7)年度 両立支援等助成金のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/content/001472912.pdf
・厚生労働省「育休復帰支援プラン策定のご案内」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000067027.html