従業員の休職・復職判定で失敗しないために―中小企業が押さえるべき法的ポイントと実務対応

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

「従業員が急に出勤しなくなった」「復職したいと言っているが、本当に働ける状態なのか判断できない」――このような相談を受けることが増えていませんか。メンタルヘルス不調による休職者への対応は、今や企業規模を問わず、すべての事業主が直面する可能性のある重要な労務課題となっています。

しかし、休職・復職の判定を誤ると、不当解雇として訴訟に発展するリスクがあります。特に注意が必要なのは、企業が復職を認めずに自然退職や解雇とした場合、労働者側から「労働契約が存在することの地位確認請求」に加え、「解雇後の賃金請求(バックペイ)」の2つの観点から訴えを起こされる恐れがある点です。 万が一、裁判で企業の判断が無効とされれば、解雇期間中の賃金を遡って支払わなければならず、企業経営に甚大な金銭的ダメージを与えることになります。

本記事では、こうした休職・復職に関する法律問題について、裁判例を踏まえながら、中小企業の経営者や人事担当者が押さえておくべき実務上のポイントを分かりやすく解説します。

2. 企業を取り巻くメンタルヘルス問題の深刻化

2-1. 精神障害による労災請求は20年で7倍に

厚生労働省のデータによると、精神障害に関する労災請求件数は2002年度の341件から2021年度には2,346件へと、約7倍に急増しています。さらに2022年度には2,683件と過去最多を更新しており、この傾向は今後も続くと予想されています。

また、仕事に強いストレスを感じている従業員の割合は、40年以上前から「2人に1人」という高い水準が続いており、改善の兆しは見られません。2021年の労働安全衛生調査では、メンタル不調により連続1カ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は8.8パーセント、退職した労働者がいた事業所は4.1パーセントとなっており、いずれも前年度から増加しています。

2-2. 中小企業にこそ求められる休復職制度の整備

このような状況の中で、企業には「病気治療」と「仕事」の両立支援が強く求められています。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によれば、疾病を抱える労働者が職場に希望する配慮事項として、「通院治療のための休暇取得(35パーセント)」「入院・治療等に対応した長期の休職・休暇(34パーセント)」が上位を占めています。

特に中小企業では、人員に余裕がないため休職者への対応が後回しになりがちですが、だからこそ明確なルールを定めておくことが重要です。適切な休職制度を整備することは、従業員の安心感を高めるだけでなく、企業にとっても法的リスクを軽減し、貴重な人材を守ることにつながります。

3. 休職制度の法的位置づけと基本的な考え方

3-1. 休職は「解雇の猶予期間」という性質

休職制度は、労働基準法や労働契約法などで明確に定義されているわけではありません。つまり、企業が独自に設計できる制度であり、就業規則に明記することで運用されます。

労働契約においては、労働者は「使用者に使用されて労働する義務」を負い、使用者は「賃金を支払う義務」を負っています。労働者が私傷病(業務外のケガや病気)により働けなくなった場合、民法上は債務不履行として契約解除(解雇)につながる可能性があります。

しかし、労働契約法第16条の解雇権濫用法理では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効」と定められています。このため、労働者が働けなくなったからといって、企業は即座に解雇することはできません。そこで多くの企業では、解雇を猶予する期間として休職制度を設けているのです。

3-2. 解雇権濫用法理が示す企業の責任

解雇権濫用法理の存在により、企業には従業員の復職に向けた一定の支援義務があると考えられています。単に休職期間が満了したからといって機械的に退職扱いにすることは、後に「実質的な解雇」と判断され、無効とされるリスクがあります。

厚生労働省のモデル就業規則でも、休職制度について「業務外の傷病による欠勤が一定期間を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」に休職とし、「休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる」という規定例が示されています。つまり、休職期間中に回復の可能性を見極め、復職支援をおこなうことが企業の責務といえるのです。

4. 復職判定で問われる3つの基準

4-1. 職種限定の有無がカギを握る

復職判定においてまず確認すべきは、当該従業員の職種が限定されているかどうかです。たとえば、トラック運転手やタクシー運転手のように職種が限定されている場合、その職種に復帰できない限り、基本的には復職は困難と判断されます。

一方、総合職のように職種限定がない契約の場合は、より柔軟な判断が求められます。この場合、裁判所は次の3つの観点から復職可能性を判断する傾向にあります。

4-2. 裁判所が示す復職可能性の判断ポイント

第一に、休職前の職務に復帰可能かどうかです。これが最も基本的な判断基準となります。ただし注意すべきは、休職前にすでに業務を軽減されていた労働者の場合、その軽減された業務ではなく、本来の労務提供を基準として判断すべきとした裁判例(独立行政法人N事件)があることです。

第二に、短期間の軽減業務を経て休職前の職務に復帰可能かどうかです。裁判例では「2から3カ月程度の期間を見ることによって完全に復職することが可能」かどうかという基準が示されています。休職期間満了時点では完全に回復していなくとも、段階的な復職支援により回復が見込めるのであれば、その機会を与えることが望ましいとされています。

第三に、従業員の申出を前提に、休職前の職務以外で配置可能な職務に復帰可能かどうかです。これについては、最高裁判所の重要な判例があります。片山組事件(最高裁平成10年4月9日判決)では、「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供がある」と判断されました。

つまり、職種限定がない場合には、元の職務に戻れなくても、現実的に配置可能な他の職務があれば、そこへの配置を検討する必要があるということです。ただし、「現実的可能性」という言葉が使われているように、他の社員を異動させなければ空きがない場合や、本人の能力的に困難な場合まで、無理に配置する必要はありません。

5. 実務で陥りやすいトラブルと対応策

5-1. 主治医と産業医の見解が異なる場合の対処法

復職判定でよくあるトラブルが、主治医と産業医(または会社指定医)の見解が異なるケースです。主治医は「復職可能」との診断書を出しているのに、産業医が「まだ復職は困難」と判断する場合、企業はどちらを優先すべきでしょうか。

実務上は産業医の見解が優先されるケースが多いですが、それには条件があります。産業医が主治医と綿密にコミュニケーションをとり、日常生活の状況や病状回復の程度などの情報をしっかり把握した上で、職場の状況や組織、具体的な仕事内容と照らし合わせて判断した結果であることが前提となります。

主治医は患者の日常生活における回復状況を重視しますが、必ずしも職場の業務内容や職場環境を詳しく把握しているわけではありません。一方、産業医は職場の実情を踏まえて、実際に業務遂行が可能かを判断します。この違いを理解し、両者の情報を総合的に検討することが重要です。

なお、中小企業で産業医がいない場合でも、外部の医師に意見を求める姿勢が望ましいとされています。都道府県の産業保健総合支援センターでは、産業医の紹介や相談対応をおこなっていますので、活用を検討してください。

5-2. 試し出勤制度の効果的な活用

復職判定の材料として、試し出勤制度(リハビリ勤務、軽減業務、通勤訓練など)を活用する企業が増えています。これは、一定期間、実際に職場に出勤してもらい、業務遂行能力や継続出勤の可否を確認するものです。

試し出勤制度を経ておこなわれた復職判定は、裁判においても合理的と認められやすくなります。ただし、制度を導入する際には、以下の点を明確にしておく必要があります。

期間中の賃金をどう扱うか、労働災害が発生した場合の対応はどうするか、交通費は支給するのか、業務指示命令の対象とするのかといった点です。これらが曖昧だと、後にトラブルの原因となります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、これらのルールを事前に労使間で十分に検討し、定めておくことが推奨されています。

5-3. 合理的配慮とは何か

近年、障害者雇用促進法の観点から、企業には「合理的配慮」の提供義務があることも重要なポイントです。合理的配慮とは、障害者が均等な待遇を確保できるよう、また障害者の能力を有効に発揮できるよう、障害の特性に配慮した必要な措置を講じることを指します。ただし、企業に過重な負担となる場合は除かれます。

裁判例(日本電気事件)では、労働者の復職においても合理的配慮規定の趣旨を考慮すべきとされています。もっとも、「どのような障害でもすべて受け入れなければならない」というわけではなく、従業員との対話を通じて、現実的に可能な範囲での対策を講じることが求められています。

6. 就業規則に盛り込むべき具体的な記載事項

6-1. トラブルを防ぐための6つの規定

休職・復職に関するトラブルを防ぐためには、就業規則に明確な規定を設けることが不可欠です。厚生労働省のモデル就業規則を参考にしつつ、以下の6つの事項を盛り込むことをお勧めします。

第一に、私傷病による欠勤のカウント方法を具体化する規定です。たとえば「業務外の傷病による欠勤が○カ月を超え(断続しているかどうかは問わない)、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき」といった形で明記します。

第二に、事案に応じた対処ができるバスケット条項(包括条項)です。「前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき」といった規定により、想定外の事態にも柔軟に対応できるようにします。

第三に、療養専念義務の規定です。「労働者は、休職期間中、療養に専念しなければならない」と明記することで、休職の趣旨を明確にします。

第四に、復職時に主治医の診断書の提出を義務付ける規定です。「労働者は、休職事由が消滅したとして復職を申し出る場合には、医師の診断書を提出しなければならない」と定めます。

第五に、産業医などの会社指定医への受診を義務付ける規定です。「前項にかかわらず、会社は労働者に対し、会社の指定する医師への面談を命ずることがある」といった規定により、客観的な判断材料を得られるようにします。

第六に、休職期間の通算規定です。「労働者が私傷病による休職から復職後○カ月以内に同一または類似の事由により欠勤した場合は、これを従前の休職期間と通算するものとする」と定めることで、短期間での休職・復職の繰り返しを防ぎます。

6-2. 厳しすぎる休職制度が招くリスク

ただし注意すべきは、厳しすぎる休職制度を作ってしまうと、逆に「解雇権の行使を実質的に容易にさせる」と判断され、裁判所が休職制度を無効にする可能性があることです。

具体的には、休職事由消滅の要件を極めて厳格にする、休職期間や欠勤日数の要件を極めて短くする、休職期間満了時点までに機械的に従業員を退職させるといった対応は、裁判所が介入するリスクを高めます。エール・フランス事件の裁判例では、このような過度に厳格な休職制度の適用が問題視されました。

バランスの取れた休職制度とは、従業員の回復を支援しつつ、企業の経営にも配慮した制度です。専門家である社会保険労務士に相談しながら、自社の実情に合った制度設計をおこなうことをお勧めします。

7. まとめ

従業員の休職・復職判定は、企業にとって非常に難しい判断を迫られる場面です。しかし、適切な法的知識と手続きを踏むことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

本記事で解説したポイントをまとめると、
第一に、休職制度は企業独自の制度であり、就業規則に明確に規定することが重要です。
第二に、復職判定では職種限定の有無を確認し、裁判所が示す3つの基準に沿って判断します。
第三に、主治医と産業医の見解が異なる場合は、両者の情報を総合的に検討します。
第四に、試し出勤制度を活用することで、より客観的な判断が可能になります。
第五に、合理的配慮の観点から、従業員との対話を重視します。
第六に、就業規則には具体的な6つの規定を盛り込みつつ、厳しすぎる制度は避けます。

何より大切なのは、企業が従業員に対して「合理的な支援をおこなったか」というプロセスです。診断書の提出依頼から面談の実施、復職支援の内容まで、すべての記録を残しておくことが、万が一の紛争時に企業を守ることにつながります。

メンタルヘルス問題は今後も増加が予想されます。この機会に、自社の休職制度を見直し、従業員が安心して働ける環境を整備することが、企業の持続的な成長にもつながるはずです。ご不明な点やご相談がありましたら、お気軽に専門家である社会保険労務士にお問い合わせください。


(参考情報・出典)