働き方改革時代の必須知識~労働時間管理の基本ルールと実務対応の完全ガイド~

  この記事の内容をAI「NotebookLM」が音声で解説しています。

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

現在の日本は少子高齢化による労働人口の減少、育児・介護問題、慢性的な長時間労働など、多岐にわたる労働課題に直面しています。このような背景の中、働く人が多様な働き方を選択できる「働き方改革」が積極的に推進され、企業にはテレワークやフレックスタイム制の導入など、従業員が働きやすい環境整備が求められています。

多様な働き方の実現において、適切な労働時間管理は不可欠な要素です。間違った運用をしてしまうと、労働基準監督署からの指導を受けるだけでなく、労働審判や民事訴訟に発展する恐れもあります。特に中小企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、労働時間管理のルールを正しく理解し、適切に運用することは、企業のリスク管理と従業員の健康管理の両面で極めて重要です。

本記事では、労働時間管理の基本的なルールから実務的な対応方法まで、体系的に解説いたします。現在の管理方法に問題がないか確認しながらお読みいただき、より適切な労働時間管理の実現にお役立てください。

2. 労働時間の基本概念と定義

2-1. 労働時間の定義と判断基準

労働時間とは「使用者の指揮命令下に置かれている時間」を指します。これは単に業務に従事している時間だけでなく、労働契約や就業規則に定めがなくても、客観的に見て労働者の行為が使用者(経営者に限らず、直属の上司等を含む)から義務付けられたものと判断されれば労働時間に該当します。

具体的に労働時間に含まれるものとして、会社からの指示・命令による業務に必要な準備行為(着用義務がある制服への着替え時間、業務前の設備や機器の準備時間、業務終了後の掃除や後片付けの時間)、指示があった場合にすぐに業務に従事しなければならない手待ち時間(昼休みの電話当番や顧客対応の時間、労働から離れることが保障されていない待機時間)、会社から指示・命令された業務上必要な研修や教育訓練などがあります。

一方、労働時間に含まれないものとして、業務から離れることが保障されている休憩時間や夜勤中の仮眠時間、業務終了後の業務とは関係のない活動時間(クラブ活動や委員会活動などの業務外活動、業務上の指示のない勉強会、自宅で労働者が自由な時間に勉強する通信教育)があります。

2-2. 労働時間に関する重要な用語の理解

労働時間を適切に管理するには、関連する用語の意味を正しく理解し、それぞれの実働時間を正確にカウントする必要があります。

所定労働時間は、労働契約や就業規則で定められた始業から終業までの時間のうち、休憩時間を除いた労働時間です。法定労働時間は、労働基準法により「1日8時間・週40時間」と定められた労働時間の上限で、特例措置対象事業場(商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業に該当する労働者数が常時10人未満の事業場)に該当する場合は1日8時間・週44時間となります。

法定内残業は、業務上の必要性があるために所定労働時間を超えて労働した時間で、法定外残業を除く時間です。法定外残業(時間外労働)は、業務上の必要性があるために法定労働時間を超えて労働した時間で、割増賃金の対象となります。休日労働は、労働基準法で定められた法定休日に労働した時間で割増賃金の対象となり、深夜労働は22時から翌5時の深夜に労働した時間で同じく割増賃金の対象となります。

法定労働時間の1日8時間・週40時間は、暦日でカウントするのが原則です。1週間は就業規則などで特別な定めがない限り、日曜日から土曜日までの暦週でカウントし、1日は原則0時から24時までの暦日を指しますが、24時をまたいで残業をした場合には、残業時間は始業時間の属する日(前日)の1勤務として取り扱わなければなりません。

3. 休憩・休日の法的ルールと実務対応

3-1. 休憩時間の基本ルール

休憩時間とは、労働から離れることが保障されている自由な時間を指します。1日の労働時間によって、最低限必要な休憩時間が法律で定められています。1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は60分以上の休憩時間を与えなければなりません。

休憩時間は、労働時間の途中に一斉に与えるのが原則です。ただし、運輸交通業、商業、金融・広告業、映画・演劇業、通信業、保健衛生業、接客娯楽業、官公署では、業務の性質を考慮して一斉付与の原則から除外されています。これらの業種以外でも休憩を交代制で与えたい場合には、一斉休憩を与えない労働者の範囲や休憩の与え方を労使協定に定め、締結することで適用の除外が認められます。

3-2. 休日の法的要件と運用方法

休日とは、原則として0時から24時までの暦日で与える労働義務がない日を指します。労働基準法では、少なくとも週1日または4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならないと定められています。

週1日以上の休日付与ではなく4週間を通じて4日以上の休日を設けることを「変形休日制」といい、導入には変形休日制のルール(変形期間の起算日)を就業規則に定める必要があります。また、番方編成による交替制(1日8時間労働の3交替制)の場合は、一定の条件のもとに暦日ではなく継続して24時間の休息時間を与えることで休日とすることができます。

休日と休暇は異なる概念で、休日は労働契約上もともと労働の義務がない日である一方、休暇は労働義務がある日に使用者が労働の義務を免除した日です。また、法定休日は労働基準法で定められた休日で1週間に1日または4週間を通じて4日以上与えられる休日、所定休日は企業が独自に定めた休日で、週休2日制を導入している企業では法定休日以外の休日は所定休日にあたります。

4. 時間外労働と36協定の重要ポイント

4-1. 時間外労働の上限規制

時間外労働(法定外残業)とは、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えて行われる労働を指します。時間外労働を行うには36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。また、時間外労働時間に応じて割増賃金の支払いが発生します。

36協定で定めることのできる時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」です。しかし、特別な事情がある場合に限り、特別条項を定めることでこの上限を超えて労働させることができます。「時間外労働の上限規制」とは、特別条項を定める場合であっても厳守しなければならない「時間外労働の限度時間」のことであり、時間外労働が年720時間以内、時間外・休日労働の合計が月100時間未満、時間外・休日労働の合計について2から6か月の平均がすべて1か月当たり80時間以内、時間外労働が月45時間を超えるのは年6か月が限度、これらすべてを守らなければなりません。

なお、2024年4月から建設業、物流業、医師などの一部業種についても、従来の適用猶予が終了し、時間外労働の上限規制が適用されるようになりました。ただし、一部の業種では例外的に、一般労働者とは異なる規制が適用されています。

4-2. 割増賃金と代替休暇制度

時間外労働には割増賃金の支払いが義務付けられています。60時間以下の時間外労働については25%以上(深夜労働の場合は50%以上)、60時間を超える部分については50%以上(深夜労働の場合は75%以上)の割増賃金率が適用されます。深夜労働とは、22時から翌5時までの労働時間を指します。

月60時間を超える時間外労働に対しては、割増賃金を50%以上支払う代わりに、年次有給休暇とは別に有給の休暇(代替休暇)を与える制度があります。企業は法定割増賃金率で引き上げられた25%を超える部分の賃金を代替休暇に換算し、有給休暇として付与することができます。ただし、実際に代替休暇を取得するかどうかは労働者の意思によって決定され、従業員に対して代替休暇の取得を義務付けることはできません。代替休暇制度を導入するには、就業規則にルールを定めるとともに、労使協定の締結が必要となります。

4-3. 休日労働の特別ルール

休日労働とは、週1日または4週間を通じて4日以上与えられる法定休日に労働することを指します。休日労働をさせる場合には36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出なければなりません。休日労働は割増賃金の対象となり、割増賃金率は35%以上(深夜労働の場合は60%以上)です。

休日労働に関連して、振替休日と代休の違いを理解することが重要です。振替休日は、事前に休日と定められていた日を労働日とし、その代わりに他の労働日を休日とする制度で、振替休日を取得させる場合は就業規則で規定を設けた上で振り替える日を事前に特定し、労働者に通知する必要があります。代休は、事前に休日と定められていた日に労働をした場合に、その代わりとして後から特定の所定労働日を休みとする制度で、休日に労働をした事実に変わりないため、法定休日に出勤した場合は休日労働の、所定休日に出勤した場合は時間外労働の割増賃金が発生します。

5. 年次有給休暇の管理と取得促進

5-1. 年次有給休暇の基本制度

年次有給休暇は、雇入れの日から起算して6か月継続勤務し、全労働日の出勤率が8割以上の労働者に発生します。年次有給休暇は雇入れから半年後の日に付与され、この日が基準日となり以後1年ごとに新しい年次有給休暇を付与しなければなりません。

継続勤務年数に応じた付与日数は、6か月で10日、1年6か月で11日、2年6か月で12日、3年6か月で14日、4年6か月で16日、5年6か月で18日、6年6か月以上で20日となります。パートタイム労働者など所定労働日数が少ない労働者の場合は、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。

年次有給休暇は1日単位の取得が原則となりますが、半日単位で与えることもできます。また、1年で5日分までを限度に時間単位で年次有給休暇を取得できるようにすることも可能です。時間単位年休の制度を設ける場合には、就業規則への記載(労働者数10人以上の事業場の場合)と労使協定の締結が必要です。

5-2. 年5日取得義務と時季指定権

年次有給休暇が10日以上付与される労働者には、年5日の年次有給休暇を取得させることが義務付けられています。時季指定権とは、労働者が年5日の有休を確実に取得できるよう、有休の取得日を指定できる権利です。ただし、労働者自ら請求・取得した有休や計画的付与により取得された有休がある場合には、その日数分は会社が時季指定する必要はなく、また指定することもできません。

厚生労働省では、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」により、2028年までに年休の取得率を70%とすることを政府の目標に掲げており、2022年の年休の取得率は62.1%と過去最高となったものの、目標には届いていない状況です。

5-3. 計画的付与制度と時季変更権

年次有給休暇は労働者が指定した日に与えるのが原則です。ただし、その日に与えると事業の正常な運営を妨げることになる場合には、使用者は他の時季に変更できます。これが時季変更権です。

計画的付与制度は、年次有給休暇のうち5日を除いた日数を対象に、労使協定を締結することで使用者が計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。計画的付与には3つの方式があります。一斉付与方式は事業場全体の休業により一斉に付与する方式、交代制付与方式は班・部署・係・グループ別に交替で付与する方式、計画表による個人別付与方式は年次有給休暇の計画表などを作成し、個人ごとに計画的に付与する方式です。

6. 多様な労働時間制度の活用

6-1. 標準的な働き方(週40時間労働制)

1日8時間・週40時間の法定労働時間を守って行われる労働が、最も一般的な働き方です。この働き方を採用するにあたって特別な手続きは必要なく、就業規則や雇用契約書などに所定労働時間や休日を記載すれば十分です。

「完全週休2日制」とは毎週2日間の休日を必ず設ける働き方を指します。法定労働時間を守るうえでは必ずしも完全週休2日制にする必要はなく、週40時間労働の範囲内で休日を1日設定できれば法令を遵守していることになります。法定労働時間を守るための所定労働時間の設定方法として、1日8時間の完全週休2日制(8時間×5日=40時間)や各日の所定労働時間を短縮する方法(月から金7時間、土5時間労働で働く:7時間×5日+5時間=40時間)があります。

6-2. 変形労働時間制の種類と特徴

変形労働時間制とは、一定の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間以内となるように、特定の日や特定の週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。変形労働時間制の導入には、労使協定の締結または就業規則への定めが必要です。

1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内となるように、特定の日・週において法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。対象業務や対象労働者に制限はなく、対象期間における各日・週の労働時間などを労使協定または就業規則で定め、労使協定で定める場合は労働基準監督署へ届出をします。

1年単位の変形労働時間制は、1か月超1年以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以内となるように、特定の日・週において法定労働時間を超えて労働させることが可能になる制度です。特例措置対象事業場でも1週間の平均労働時間は40時間以内とし、1日10時間・週52時間の労働時間の上限があり、対象期間における労働日・労働日ごとの労働時間数などを労使協定で定め、労働基準監督署へ届出をします。

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、1週間の労働時間が40時間以内となる範囲で、1日10時間を上限に労働させることが可能になる制度で、常時使用する労働者が30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店のみ導入可能です。

フレックスタイム制は、1か月から3か月の一定期間(清算期間)において、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で労働者自身が日々の始業および終業の時刻、労働時間を決められる制度です。対象業務や対象労働者に制限はなく、就業規則にフレックスタイム制を導入する旨を定め、労使協定に必要事項を定めます。

6-3. みなし労働時間制の適用と要件

みなし労働時間制とは、労働者の実労働時間の把握が困難な場合に、就業規則や労使協定、労使委員会の決議などで定めた労働時間数を働いたものとみなす制度です。

専門業務型裁量労働制は、法令等で定められた専門的な業務に従事する労働者に限り(デザイナーやシステムエンジニアなど20の業務に従事する労働者が対象)、業務の性質上、遂行の手段や時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に適用できます。使用者が手段や時間配分の決め方などについて具体的な指示はできません。

企画業務型裁量労働制は、企業の事業運営に関する企画立案・調査・分析の業務に従事する労働者に限り、業務の性質上、遂行の手段や時間配分などを大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に適用できます。労使委員会で必要事項を定め、5分の4以上の多数決で決議し、決議届は労働基準監督署に届出を行います。

事業場外みなし労働時間制は、原則として労働時間の全部または一部を事業場外で行った場合に、所定労働時間労働したものとみなせる制度です。対象業務や対象労働者に制限はなく(労働時間の算定が困難な労働者のみ可能)、労使協定の締結は義務付けられてはいませんが、締結するときは「当該業務の遂行に通常必要とされる時間数」をみなし労働時間として定めます。

7. 労働時間の適正な把握と管理体制

7-1. 企業の労働時間管理義務

企業が従業員の労働時間を適正に把握し、管理することは法律上の義務です。労働者の健康を守る観点からも労働時間の管理は重要であり、管理監督者やみなし労働時間制で働く従業員であっても、企業に労働時間管理の責務があることに変わりはありません。

厚生労働省により策定されたガイドラインでは、労働時間の考え方や管理・把握の方法が明確に記載されています。使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録しなければなりません。

7-2. 労働時間把握の具体的方法

労働時間把握の原則的な方法として、使用者が労働者の始業・終業時刻を自ら確認する方法と、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録など客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する方法があります。

やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合には、ガイドラインに基づき自己申告制の適正な運用や措置などについて十分な説明を行い、自己申告の労働時間と、タイムカードやICカード、パソコンの使用時間などで把握した時間に著しい乖離がある場合は実態調査を実施して補正し、労働者が自己申告できる時間数に上限を設けるなど、自己申告を阻害する措置を講じてはなりません。

タイムカードやICカードなど客観的な記録による把握ができていない場合は、勤怠管理ソフトの導入も視野にいれましょう。クラウド型勤怠管理ソフトなら、効率的な出退勤管理に加え、社員の労働時間をリアルタイムで確認可能です。

8. まとめ

労働時間管理は、企業経営において法的リスクの回避と従業員の健康管理の両面で極めて重要な要素です。労働基準法をはじめとする関係法令は複雑かつ詳細に規定されており、適切な理解と運用が求められます。

特に中小企業においては、人事・労務の専門スタッフが限られる中で、経営者や人事担当者が幅広い知識を持つ必要があります。労働時間の基本的な定義から始まり、休憩・休日のルール、時間外労働の上限規制、年次有給休暇の管理、多様な労働時間制度の活用、そして適正な労働時間把握の方法まで、それぞれのポイントを正確に理解し、自社の実情に応じて適切に運用することが重要です。

働き方改革が進展する中で、労働時間管理に関する法制度も継続的に見直されています。2024年4月からは建設業や物流業などでも時間外労働の上限規制が適用されるなど、新たな対応が求められる場面も増えています。企業としては、最新の法改正情報を常に把握し、必要に応じて就業規則や労使協定の見直しを行うことが不可欠です。

適切な労働時間管理は、従業員の健康とモチベーションの向上、生産性の改善、企業のリスク管理強化など、多面的なメリットをもたらします。本記事でご紹介した内容を参考に、皆様の企業における労働時間管理の改善と適正化にお取り組みいただければ幸いです。

労働時間管理でご不明な点がございましたら、お気軽に当事務所までお問い合わせください。企業の実情に応じた具体的なアドバイスと継続的なサポートを通じて、安心できる労務管理体制の構築をお手伝いいたします。適切な労働時間管理により、従業員が安心して働ける職場環境の実現と、持続可能な企業経営の両立を目指していきましょう。


(参考情報)