中小企業の人材育成を支援!~2025年度「キャリアアップ助成金」の最新情報~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

人材確保が困難な時代において、企業内での人材育成と定着は重要な経営課題となっています。特に非正規雇用労働者のキャリアアップを支援し、企業の人材基盤を強化することは、持続的な企業成長に欠かせません。そこで今回は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するための「キャリアアップ助成金」について、2025年度(令和7年度)の最新情報をご紹介します。

多くの中小企業では「正社員への転換を進めたいがコスト増が懸念される」「非正規社員の処遇改善は必要だが予算的に厳しい」といった課題を抱えています。本記事では、そうした課題解決の一助となるよう、キャリアアップ助成金の概要や申請方法、効果的な活用法について解説します。人材育成と経営の両立を考える際の参考にしていただければ幸いです。

2. キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するために、正社員化や処遇改善の取組を実施した事業主に対して支給される助成金制度です。厚生労働省が所管し、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者などの雇用の安定と処遇の改善を図ることを目的としています。

この助成金は大きく「正社員化支援」と「処遇改善支援」の2つのカテゴリーに分けられており、それぞれの取組に応じたコースが設けられています。

2-1. 制度の概要と目的

キャリアアップ助成金は、企業が非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取組を行った場合に、その費用の一部を助成することで、労働者のキャリア形成と企業の人材育成を支援する制度です。

具体的には、非正規雇用労働者を正社員化することによる雇用の安定化、賃金の引き上げや諸手当の導入などによる処遇改善、人材育成のための教育訓練の実施など、様々な取組に対して助成が行われます。企業にとっては人材確保・定着のコスト軽減につながり、労働者にとっては安定した雇用と処遇改善によるモチベーション向上が期待できます。

2-2. 2025年度の改正ポイント

2025年度のキャリアアップ助成金には、いくつかの重要な変更点があります。特に注目すべきは正社員化コースにおける支給対象の見直しです。

厚生労働省の発表によれば、2025年度の予算概算要求においてキャリアアップ助成金の予算は前年度の当初予算額1,106億円から962億円に減少しており、助成内容にも一部見直しが行われています。特に正社員化コースでは、2期に渡って支給される対象者の条件が明確化されました。

重点支援対象者として以下に該当する場合は従来通り2期分の支給となりますが、それ以外の場合は1期分(つまり半額)のみの支給となります:

  1. 雇入れから3年以上の有期雇用労働者
  2. 雇入れから3年未満で、過去から不安定雇用が継続している有期雇用労働者
  3. 人材開発支援助成金の特定訓練修了者、派遣労働者、母子家庭の母等

これは現行制度からの大きな変更点であり、助成金の活用を検討されている企業は注意が必要です。

3. 主な助成コースの詳細

3-1. 正社員化支援に関するコース

① 正社員化コース

このコースは、有期雇用労働者等を正社員に転換または直接雇用した場合に助成されるコースです。2025年度の助成額は以下の通りです:

  • 有期雇用から正規雇用への転換:
    • 中小企業:重点支援対象者80万円、それ以外40万円
    • 大企業:重点支援対象者60万円、それ以外30万円
  • 無期雇用から正規雇用への転換:
    • 中小企業:重点支援対象者40万円、それ以外20万円
    • 大企業:重点支援対象者30万円、それ以外15万円

また、正社員転換等制度を新たに規定し当該区分に転換等した場合には、1事業所当たり20万円(大企業の場合15万円)が加算されます。さらに、多様な正社員制度(勤務地限定・職務限定・短時間正社員のいずれか1つ以上)を新たに規定し当該区分に転換等した場合には、1事業所当たり40万円(大企業の場合30万円)が加算されます。

重点支援対象者とは上述の通り、雇入れから3年以上の有期雇用労働者、雇入れから3年未満で不安定雇用が継続している有期雇用労働者、人材開発支援助成金の特定訓練修了者、派遣労働者、母子家庭の母等を指します。

※ 正社員転換後6ヶ月間の賃金が正社員転換前6ヶ月間の賃金と比較して3%以上増額していることが要件となります。

② 障害者正社員化コース

障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換した場合に助成されるコースです。障害の種類や転換の形態によって助成額が異なります:

  • 重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者の場合:
    • 有期→正規:中小企業120万円、大企業90万円
    • 有期→無期:中小企業60万円、大企業45万円
    • 無期→正規:中小企業60万円、大企業45万円
  • 上記以外の障害者の場合:
    • 有期→正規:中小企業90万円、大企業67.5万円
    • 有期→無期:中小企業45万円、大企業33万円
    • 無期→正規:中小企業45万円、大企業33万円

※ 助成額が支給対象期間における対象労働者に対する賃金の額を超える場合には、賃金の総額が上限となります。

3-2. 処遇改善支援に関するコース

① 賃金規定等改定コース

このコースは、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、適用した場合に助成されます。増額の割合に応じて以下の助成が受けられます:

  • 3%以上4%未満:中小企業4万円、大企業2.6万円
  • 4%以上5%未満:中小企業5万円、大企業3.3万円
  • 5%以上6%未満:中小企業6.5万円、大企業4.3万円
  • 6%以上:中小企業7万円、大企業4.6万円

「職務評価」の手法を活用して増額改定を実施した場合や、有期雇用労働者等の昇給制度を新たに設けた場合には、それぞれ1事業所当たり20万円(大企業の場合15万円)が加算されます。

② 賃金規定等共通化コース

有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用した場合、1事業所当たり中小企業は60万円、大企業は45万円が支給されます。

③ 賞与・退職金制度導入コース

有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給または積立を実施した場合に助成されるコースです。1事業所当たり中小企業は40万円、大企業は30万円が支給されます。また、賞与・退職金の両方を同時に導入した場合には、中小企業は16.8万円、大企業は12.6万円が加算されます。

④ 社会保険適用時処遇改善コース

短時間労働者に社会保険を適用する際の処遇改善に関するコースです。新たに社会保険の被保険者となった際の手当支給・賃上げ・労働時間延長などの取組や、労働時間を延長して新たに社会保険の被保険者とした場合に助成されます:

  • 手当等支給メニュー:中小企業50万円、大企業37.5万円
  • 併用メニュー:中小企業50万円、大企業37.5万円
  • 労働時間延長メニュー:中小企業30万円、大企業22.5万円

4. 申請までの流れと必要な準備

キャリアアップ助成金を受給するためには、事前準備から申請まで適切な手続きが必要です。ここでは、その流れと必要な準備について解説します。

4-1. キャリアアップ計画の作成・提出

キャリアアップ助成金の活用にあたっては、各コースの実施日の前日までに「キャリアアップ計画」を作成し、都道府県労働局またはハローワークに提出することが必要です。この計画では、非正規雇用労働者のキャリアアップに向けた取組内容や実施期間、対象者などを記載します。

キャリアアップ計画の作成にあたっては、まず企業の現状と課題を明確にし、それに基づいてキャリアアップの具体的な目標を設定しましょう。次に、その目標達成のための取組内容と実施スケジュールを明確にし、対象となる労働者を特定します。また、計画の策定にあたっては労働組合等の意見を聴取することも重要です。これにより、従業員の理解と協力を得やすくなります。

計画書の様式は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。2025年4月1日以降に正社員転換等の取組を行う場合は、最新の様式を使用する必要がありますので注意しましょう。不明な点があれば、最寄りの労働局やハローワークに相談することをお勧めします。

4-2. 取組実施と支給申請

キャリアアップ計画の受理後、計画に基づいて取組を実施します。取組の内容によって手続きは異なりますが、大まかな流れは以下の通りです。

正社員化支援に関するコースでは、まず就業規則等を改定して転換規定を整備する必要があります。既に規定がある場合はそのまま活用できます。次に、就業規則等に基づいて対象者を正社員へ転換し、転換後6か月分の賃金を支払います。この際、正社員転換前6か月と比較して3%以上の賃金増額が条件となりますので、計画的な賃金設計が必要です。

一方、処遇改善支援に関するコースでは、まず就業規則の改定など取組を実施し、その後、取組後6か月分の賃金を支払います。賃金規定等改定コースでは基本給の増額率に応じて助成額が変わりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。

いずれのコースでも、支給申請は取組後6か月の賃金を支払った日の翌日から起算して2か月以内に行う必要があります。申請の際には、キャリアアップ計画書、就業規則、賃金台帳、出勤簿など、取組内容に応じた書類の提出が必要となります。書類の不備があると審査に時間がかかったり、支給決定に影響したりする場合がありますので、早めの準備と専門家のチェックを受けることをお勧めします。

5. 活用事例と効果的な導入ポイント

キャリアアップ助成金を効果的に活用した企業の事例をご紹介します。

5-1. 活用事例

事例1:製造業A社(従業員50名)

A社では、熟練技術を持つ有期契約社員を正社員化することで、技術の継承と人材の定着を図りたいと考えていました。キャリアアップ助成金の正社員化コースを活用し、勤続3年以上の契約社員5名を正社員に登用。その結果、技術継承がスムーズに進み、離職率も低下しました。助成金の支給により、賃金アップに伴う人件費増の負担も軽減されました。

事例2:小売業B社(従業員30名)

B社では、パートタイム労働者のモチベーション向上と人材確保を目的に、賃金体系の見直しを検討していました。賃金規定等改定コースを活用し、パート従業員の賃金を一律5%引き上げるとともに、新たに昇給制度を導入。その結果、従業員の満足度が向上し、採用応募者も増加しました。助成金によって初期コストの負担が軽減され、スムーズな制度導入が実現しました。

5-2. 効果的な導入ポイント

キャリアアップ助成金を効果的に活用するためには、いくつかの重要なポイントがあります。まず、助成金活用は単なる補助金の獲得ではなく、企業の人材育成戦略の一環として位置づけることが大切です。中長期的な視点で従業員のキャリア形成と企業の成長を見据えた計画を立てましょう。

また、制度変更を行う際には、従業員との丁寧な対話が欠かせません。制度変更の目的や内容、メリットなどを分かりやすく説明し、従業員の理解と協力を得ることで、スムーズな導入と高い効果が期待できます。特に正社員化や賃金体系の見直しは従業員の働き方や生活に大きく影響するため、十分なコミュニケーションを心がけましょう。

制度設計や申請手続きについては、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、自社に最適な制度設計や円滑な申請手続きが可能になります。また、企業の状況に応じて複数のコースを組み合わせることで、より効果的な人材育成が実現できる場合もあります。

最後に、助成金活用を一時的な取組で終わらせるのではなく、継続的な人材育成・処遇改善の仕組みとして定着させることが重要です。助成金を活用して導入した制度を基盤として、さらなる人材育成や企業文化の醸成につなげていくことで、長期的な企業価値の向上につながるでしょう。

6. まとめ

2025年度(令和7年度)のキャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者のキャリアアップを支援する重要な制度です。特に正社員化コースにおける支給対象の見直しは重要な変更点ですので、助成金の活用を検討されている企業は注意が必要です。

企業にとって人材の確保・育成は重要な経営課題であり、キャリアアップ助成金はその取組を財政面から支援する有効なツールとなります。特に中小企業においては、限られた予算の中で効果的に人材育成を進めるためにも、本制度の活用をご検討ください。

ただし、助成金の申請には適切な計画作成や書類準備が必要です。不明点や疑問点がありましたら、最寄りの都道府県労働局・ハローワークへお問い合わせください。

また、制度の詳細やキャリアアップ助成金の活用に関するご相談、申請手続きについてご不明な点がございましたら当事務所までお気軽にご相談ください。企業の人材育成戦略と連動させながら、効果的な助成金活用をサポートさせていただきます。

※本記事は2025年4月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や最新情報については、厚生労働省の公式ウェブサイトや最寄りの労働局にてご確認ください。


【参考情報】