【2025年4月施行】 次世代育成支援対策推進法改正~中小企業が知っておくべき育児支援の新ルールと認定制度活用法~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

少子化が急速に進む日本において、仕事と子育ての両立支援は企業にとって避けて通れない重要課題となっています。特に中小企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、優秀な人材の確保と定着は事業継続の生命線とも言えるでしょう。

このような中、2025年4月1日から次世代育成支援対策推進法が改正され、企業に求められる取り組みが大きく変わりました。今回の改正では、男性の育児参加促進を軸とした数値目標の設定が義務化されるなど、これまで以上に具体的な行動が求められることになりました。

本記事では、法改正の内容を詳しく解説するとともに、中小企業がこの変化をチャンスに変え、「くるみん認定」などの認定制度を活用して企業価値を高める方法について、実務的な観点からご紹介いたします。

2. 次世代育成支援対策推進法改正の3つのポイント

2-1. 育児休業取得状況の把握と数値目標設定の義務化

2025年4月1日以降、常時雇用する労働者が101人以上の企業では、一般事業主行動計画を策定・変更する際に、新たに2つの重要な義務が課されました。

第一に、男性労働者の育児休業等取得率または育児休業等及び育児目的休暇の取得率を把握することです。これは単なる現状把握にとどまらず、自社の課題を明確にし、改善への道筋を立てるための重要なステップとなります。

第二に、フルタイム労働者一人当たりの各月ごとの法定時間外労働及び法定休日労働の合計時間数等の労働時間の状況を把握することです。長時間労働は育児参加の大きな障壁となるため、この把握は働き方改革と表裏一体の取り組みといえるでしょう。

そして最も重要なのは、これらの把握結果に基づいて具体的な数値目標を設定しなければならないという点です。例えば「男性の育児休業取得率を50%以上にする」「フルタイム労働者の時間外労働を月30時間未満にする」といった明確な目標設定が求められます。

2-2. 法律の有効期限の10年延長

今回の改正により、2025年3月31日までとなっていた法律の有効期限が2035年3月31日まで10年間延長されました。これは国が次世代育成支援を長期的な視点で推進していく強い意志の表れといえます。

企業にとっては、一時的な対応ではなく、持続可能な仕組みづくりが求められることを意味します。中長期的な人材戦略の中に、育児支援を組み込んでいく必要があるでしょう。

2-3. 認定基準の大幅な引き上げ

くるみん認定、プラチナくるみん認定、トライくるみん認定の基準が大幅に引き上げられました。特に注目すべきは男性の育児休業等取得率の基準です。

くるみん認定では、従来10%以上だった男性の育児休業等取得率が30%以上に引き上げられました。プラチナくるみん認定では30%以上から50%以上へ、トライくるみん認定でも7%以上から10%以上へと、いずれも大幅な引き上げとなっています。

また、労働時間の基準も厳格化され、全フルタイム労働者の時間外・休日労働が月45時間未満から30時間未満に変更されました。ただし、25歳から39歳の労働者については月45時間未満という選択肢も残されており、企業の実情に応じた対応が可能となっています。

3. 中小企業における行動計画策定の実践的アプローチ

3-1. PDCAサイクルによる計画策定と実施

行動計画の策定は、単に書類を作成して提出すれば終わりというものではありません。重要なのは、PDCAサイクルを確立し、継続的な改善を図ることです。

まず現状把握から始めます。自社の男性育児休業取得率はどの程度か、労働時間の実態はどうか、労働者のニーズは何かを詳細に調査します。アンケート調査や個別面談を通じて、生の声を集めることが大切です。

次に課題分析を行います。なぜ男性の育児休業取得が進まないのか、長時間労働の原因は何か、職場風土に問題はないかなど、多角的に分析します。表面的な問題だけでなく、根本的な原因を探ることが重要です。

そして具体的な目標と対策を設定します。目標は実現可能でありながらも、一定のチャレンジが必要なレベルに設定することが望ましいでしょう。対策は、制度整備だけでなく、意識改革や業務改善など総合的なアプローチが必要です。

3-2. 100人以下の企業の対応策

常時雇用する労働者が100人以下の企業については、行動計画の策定は努力義務となっていますが、だからといって何もしなくてよいわけではありません。

むしろ中小企業こそ、育児支援に積極的に取り組むことで、大企業との差別化を図り、優秀な人材を確保するチャンスと捉えるべきです。特に若い世代は、給与水準だけでなく、働きやすさや仕事と生活の調和を重視する傾向が強まっています。

100人以下の企業でも、くるみん認定を取得することは可能です。認定を受けることで、企業イメージの向上、採用活動での優位性、公共調達での加点、各種助成金の活用など、多くのメリットを享受できます。

4. 認定制度を活用した企業価値向上戦略

4-1. くるみん認定取得のメリットと具体的な活用方法

くるみん認定を取得することで、企業は「子育てサポート企業」として公的なお墨付きを得ることができます。この認定マークは、商品、広告、求人広告、名刺、ホームページなど、様々な場面で使用可能です。

採用活動においては、特に大きな効果を発揮します。求職者、特に子育て世代やこれから家庭を持とうとする若い世代にとって、くるみん認定企業であることは重要な判断材料となります。実際、認定企業の多くが「応募者の質が向上した」「内定辞退率が下がった」といった効果を報告しています。

また、公共調達における加点評価も見逃せません。総合評価落札方式や企画競争による調達において、くるみん認定企業は加点を受けることができます。配点は調達内容により異なりますが、総配点の2%から5%程度の加点が一般的です。

(出典:厚生労働省ホームページ)

4-2. 助成金・融資制度の戦略的活用

くるみん認定を受けた中小企業(常時雇用する労働者が300人以下)は、「くるみん助成金」として最大50万円の助成を受けることができます。この助成金は2027年3月まで実施予定で、認定取得のインセンティブとなっています。

さらに、両立支援等助成金の育休中等業務代替支援コースでは、くるみん認定企業は通常の上限人数にかかわらず、2029年度まで延べ50人まで受給可能という優遇措置があります。育児休業取得者の代替要員確保は中小企業にとって大きな課題ですが、この助成金により負担を軽減できます。

日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」では、くるみん認定企業は基準利率からの引き下げを受けることができます。設備投資や運転資金の調達において有利な条件で融資を受けられるため、事業拡大のチャンスにもなります。

5. 成功する育児支援制度構築のポイント

5-1. 経営トップのコミットメントと職場風土改革

育児支援制度を成功させる最も重要な要素は、経営トップの強いコミットメントです。トップ自らが「男女ともに育児参加することが当たり前」というメッセージを発信し、管理職の意識改革を主導することが不可欠です。

特に中小企業では、経営者の考え方が組織全体に与える影響が大きいため、トップの姿勢が成功の鍵を握ります。例えば、男性社員が育児休業を取得する際に、社長自らが「おめでとう、しっかり子育てを楽しんできてください」と声をかけるだけでも、職場の雰囲気は大きく変わります。

また、育児休業取得者を「迷惑をかける存在」ではなく「組織の業務効率化を進めるきっかけ」と捉える発想の転換も重要です。一人が休んでも業務が回る体制づくりは、属人化の解消や業務の標準化につながり、結果的に組織力の向上をもたらします。

5-2. 実効性のある制度設計と運用の工夫

制度を作っても利用されなければ意味がありません。実効性のある制度にするためには、労働者のニーズを的確に把握し、使いやすい制度設計を心がける必要があります。

例えば、男性の育児休業取得を促進するには、短期間でも取得しやすい仕組みが効果的です。「最初の5日間を有給扱いにする」「1週間単位で分割取得を認める」といった工夫により、取得のハードルを下げることができます。

また、代替要員の確保や業務の引き継ぎ体制の整備も重要です。「誰が休んでも大丈夫」な体制を平時から構築しておくことで、気兼ねなく休暇を取得できる環境が生まれます。業務の見える化、マニュアル化、複数担当制の導入など、具体的な施策を進めていく必要があります。

さらに、育児休業取得者だけでなく、その業務をカバーする周囲の社員への配慮も忘れてはいけません。代替業務手当の支給や、人事評価での加点など、協力者が報われる仕組みを作ることで、組織全体で支え合う文化が醸成されます。

6. まとめ

2025年4月から施行された次世代育成支援対策推進法の改正は、中小企業にとって大きな転換点となります。男性の育児休業取得率の数値目標設定や労働時間管理の強化など、一見すると負担が増えるように見えるかもしれません。

しかし、これをピンチではなくチャンスと捉えることが重要です。少子高齢化により労働力人口が減少する中、優秀な人材を確保し定着させることは、企業の持続的成長に不可欠です。育児支援に積極的な企業というブランディングは、採用競争力を高め、既存社員のモチベーション向上にもつながります。

くるみん認定制度を活用すれば、取り組みを対外的にアピールでき、各種の優遇措置も受けられます。特に中小企業向けの助成金や融資制度は充実しており、取り組みに必要な投資を支援する仕組みが整っています。

大切なのは、法律への対応という受け身の姿勢ではなく、自社の成長戦略の一環として育児支援に取り組むことです。男女ともに働きやすい職場環境の構築は、イノベーションの創出や生産性の向上にもつながります。

今こそ、次世代育成支援を通じて、企業と従業員がともに成長する好循環を生み出すチャンスです。まずは自社の現状を把握し、できることから一歩ずつ始めてみてはいかがでしょうか。私たち社会保険労務士も、皆様の取り組みを全力でサポートしてまいります。

(参考情報)

・厚生労働省「次世代育成支援対策推進法」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11367.html
・厚生労働省「くるみんマーク・プラチナくるみんマーク・トライくるみんマークについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/kurumin/index.html