2025年4月スタート!~新たな育児支援給付金制度で企業の両立支援が変わる~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

2025年4月から導入される新たな育児支援給付金制度についてご案内いたします。今回スタートする「出生後休業支援給付金」と「育児時短就業給付金」は、従業員の仕事と育児の両立支援を大きく前進させる画期的な制度となっています。新しい制度の開始にあたり、企業として必要な準備と対応について、実務的な観点から解説させていただきます。

<2025年4月からの育児休業等給付の概要>

育児休業等給付として、子の年齢や養育の状況に応じて、要件を満たす場合に出生時育児休業給付金、育児休業給付金、出生後休業支援給付金、育児時短就業給付金が支給されます。出生後休業支援給付金、育児時短就業給付金は、令和7年4月1日から創設される給付金です。

※厚生労働省ホームページより引用

2. 新制度導入の背景と目的

2-1. 共働き世帯の増加と育児支援の課題

厚生労働省の統計によれば、共働き世帯数は2022年時点で約1,300万世帯に達し、専業主婦(夫)世帯の約2倍となっています。特に、子育て世代における共働き世帯の増加は顕著であり、仕事と育児の両立支援は企業にとって重要な経営課題となっています。一方で、第1子出産後の女性の就業継続率は依然として53.1%に留まっており、特に子どもが2歳未満の時期における両立支援の充実が求められています。

2-2. 政府の取り組みと新制度の狙い

政府は「新しい資本主義」の実現に向けて、包摂的な子育て支援を重要施策として位置づけています。特に、男性の育児休業取得率を2025年度までに30%とする目標を掲げており、今回の新制度は、この目標達成に向けた具体的な施策の一つとなっています。さらに、育児期における多様な働き方の実現は、人材確保や従業員のエンゲージメント向上にもつながる重要な取り組みとして注目されています。

3. 出生後休業支援給付金制度について

3-1. 制度の概要と支給要件

出生後休業支援給付金は、子の出生直後の期間における両親での育児参加を経済的に支援する新しい給付金制度です。本制度は、既存の育児休業給付金に上乗せして支給されることで、実質的に休業前の手取り賃金と同程度の給付を実現します。

支給要件として、被保険者本人が14日以上の育児休業を取得することが必要です。また、原則として配偶者も14日以上の育児休業を取得することが求められますが、配偶者が専業主婦(夫)や自営業者である場合など、一定の場合には配偶者の育児休業取得は要件とされません。具体的には、配偶者が無業者である場合、自営業者やフリーランスなど雇用される労働者でない場合、産後休業中である場合などが該当します。

対象期間は、子の出生日または出産予定日のいずれか早い日から、原則として8週間を経過する日の翌日までとなります。なお、被保険者が産後休業を取得する場合(母親が育児休業を取得する場合)は、16週間を経過する日の翌日までが対象期間となります。

3-2. 給付金の計算方法と実務上の注意点

給付額は、休業開始時賃金日額に休業期間日数(最大28日)を乗じ、さらに給付率13%を乗じて計算されます。この給付金は、既存の育児休業給付金(67%)と合わせることで、給付率が80%となるよう設計されています。休業開始時賃金日額については、2025年4月1日時点での上限額が15,690円とされており、この金額は毎年8月1日に改定される予定です。

実務上の重要な注意点として、2025年4月1日より前から継続して育児休業を取得している場合でも、要件を満たせば給付対象となります。この場合、2025年4月1日を基準として要件を確認することになります。

4. 育児時短就業給付金制度について

4-1. 制度の概要と支給要件

育児時短就業給付金は、2歳未満の子を養育するために時短勤務を利用する従業員の収入減少を補填する新しい給付金制度です。この制度は、育児期における柔軟な働き方の選択肢を広げることを目的としています。

支給要件として、まず対象となる従業員は雇用保険の被保険者(一般被保険者及び高年齢被保険者)である必要があります。さらに、育児休業給付の対象となる育児休業から引き続いて時短勤務を開始する場合、または時短勤務開始前2年間に被保険者期間が12か月以上ある場合に受給資格が認められます。ここでいう被保険者期間とは、賃金支払基礎日数が11日以上ある月、または賃金の支払いの基礎となった時間が80時間以上ある月を指します。

支給対象となる期間は、育児時短就業を開始した日の属する月から、子が2歳に達する日の前日、または育児時短就業を終了した日の属する月までとなります。ただし、産前産後休業、育児休業、介護休業を開始した場合や、別の子について育児時短就業を開始した場合は、その前日の属する月までが支給対象期間となります。

4-2. 給付金の計算方法と実務上の注意点

給付額は、原則として育児時短就業中に支払われた賃金額の10%相当額として計算されます。ただし、育児時短就業開始時の賃金水準を超えないように調整が行われます。具体的には、育児時短就業開始前6か月に支払われた賃金(臨時に支払われる賃金と3か月を超える期間ごとに支払われる賃金を除く)の総額を180で除して得た額に30を乗じた額が基準となります。

支給限度額は2025年7月31日までは月額459,000円と定められており、以後毎年8月1日に改定される予定です。また、最低限度額として2,295円が設定されており、計算された給付額がこの金額以下となる場合は支給されません。

実務上の重要なポイントとして、2025年4月1日より前から2歳未満の子を養育するために時短勤務を行っている場合も、要件を満たせば2025年4月1日以降の期間について給付対象となります。この経過措置により、既に時短勤務を利用している従業員も新制度の恩恵を受けることができます。

5. 企業に求められる対応

5-1. 就業規則等の見直し

新制度の導入に向けて、まず就業規則や育児・介護休業規程の見直しが必要となります。具体的には、育児休業制度における両親での取得促進に関する規定の整備が求められます。これには、制度の利用要件、申請手続き、給付金の取り扱い等を明確に定める必要があります。

また、時短勤務制度についても、2歳未満の子を養育する従業員の利用を促進する観点から、制度の利用要件や運用方法を再検討する必要があります。特に、業務の引継ぎや代替要員の確保など、実務的な運用方法についても規定しておくことが望ましいでしょう。

5-2. 従業員への周知と活用促進

新制度を効果的に運用するためには、従業員への丁寧な周知と理解促進が不可欠です。特に育児休業については、出産予定日の1年以上前から具体的な取得計画を立てることが望ましいため、早期からの情報提供が重要となります。

周知にあたっては、制度の概要だけでなく、具体的な申請手続きや給付金の支給額の試算例なども含めて説明することで、従業員の理解を深めることができます。また、管理職向けの研修も重要です。部下から育児休業や時短勤務の相談を受けた際の対応方法や、業務調整の具体的な進め方などについて、実践的な研修を実施することをお勧めします。

既に多くの企業で導入されている育児休業制度や時短勤務制度ですが、新制度の導入を機に、より使いやすい制度として再整備することで、従業員の働きやすさを向上させることができます。特に中小企業においては、人材確保・定着の観点からも、制度の積極的な活用を検討する価値があるでしょう。

6. まとめ

2025年4月からスタートする2つの新しい給付金制度は、出産・育児期の従業員支援を強化し、よりきめ細かな両立支援を実現するものです。特に、出生後休業支援給付金は、子の出生直後の時期における両親での育児参加を促進する画期的な制度といえます。また、育児時短就業給付金は、育児期の柔軟な働き方を経済的に支援することで、従業員の就業継続を後押しする効果が期待されます。

企業としては、新制度の導入に向けて、就業規則等の整備や従業員への周知など、必要な準備を計画的に進めていく必要があります。特に、申請手続きについては実務上の負担も予想されることから、人事労務担当者の体制整備も重要な検討課題となるでしょう。

新制度への対応にあたっては、就業規則の改定や社内規定の整備など、専門的な対応が必要となる場面も想定されます。お困りの点がございましたら、社会保険労務士にお気軽にご相談ください。皆様の両立支援への取り組みを全力でサポートさせていただきます。

本制度が、皆様の企業における仕事と育児の両立支援の充実につながることを願っております。今後とも、労務管理に関する最新情報を随時ご提供させていただきます。

出典:厚生労働省ホームページ

出典:厚生労働省ホームページ