2025年度版 高齢者雇用を支える助成金活用ガイド ~65歳超雇用推進助成金の仕組みと申請方法~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

少子高齢化が急速に進む日本社会において、高年齢者の活躍の場を広げることは企業の持続的な成長と社会保障制度の安定のために不可欠となっています。これに対応すべく、政府は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正を重ね、高齢者雇用を推進する取り組みを強化してきました。

こうした政策の一環として設けられているのが「65歳超雇用推進助成金」です。本制度は高年齢者の雇用環境整備に取り組む企業を経済的に支援するもので、2025年度(令和7年度)も引き続き実施されています。

本記事では社会保険労務士の立場から、2025年4月1日現在の65歳超雇用推進助成金の最新情報を分かりやすく解説します。特に今年度から導入された電子申請システムなど、新たな変更点についても詳しく紹介していきます。人事担当者の皆様がこの制度を活用して、高年齢者の活躍推進と人材確保の両立を実現するための一助となれば幸いです。

2. 高齢者雇用推進の社会背景

日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少を続けており、労働力不足は多くの産業で深刻な課題となっています。一方で、医療の進歩や健康意識の高まりにより、高年齢者の心身の健康状態は以前に比べて格段に向上しています。65歳以降も働く意欲と能力を持つ方々は増加傾向にあり、こうした高年齢者の就労ニーズと企業の人材確保ニーズをマッチングさせることが社会的に重要となっています。

法制度面では、2021年4月から「70歳就業機会確保措置」が努力義務化され、企業には65歳までの雇用確保に加え、70歳までの就業機会確保への取り組みが求められるようになりました。こうした流れを受け、65歳超雇用推進助成金は高年齢者の継続雇用体制を整備する企業を支援する重要なツールとなっています。

3. 65歳超雇用推進助成金の概要

3-1. 3つのコースの特徴

65歳超雇用推進助成金は、高年齢者の雇用促進を目的とした制度で、大きく分けて3つのコースが用意されています。各コースの特徴は以下の通りです。

65歳超継続雇用促進コース
定年の引上げや廃止、継続雇用制度の導入など、65歳以上の高年齢者の雇用環境を整備する企業向けのコースです。雇用環境整備の内容によって30万円から160万円の助成金が支給されます。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
高年齢者が働きやすい環境を整えるため、賃金制度や健康管理制度などの雇用管理制度を導入・改善する企業向けのコースです。支給対象経費の60%(中小企業以外は45%)が助成されます。

高年齢者無期雇用転換コース
50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用に転換する制度を導入し、実際に転換を行った企業向けのコースです。転換した労働者1人につき30万円(中小企業以外は23万円)が支給されます。

3-2. 共通の支給要件

これら3つのコースには共通する要件があります。まず、申請事業主は雇用保険適用事業所である必要があり、支給申請日及び支給決定日の時点で雇用保険被保険者が在籍していなければなりません。また、助成金の審査に必要な書類を適切に整備・保管していることも求められます。

さらに、審査過程では書類の提出や実地調査への協力が必要となります。重要な点として、高年齢者雇用安定法の規定に従っていることが挙げられます。具体的には、同法第8条に基づき60歳以上の定年を定めていること、第9条第1項に基づき65歳以上の定年または希望者全員を対象とした65歳までの継続雇用制度など、65歳までの安定した雇用を確保するための措置を適切に講じていることが求められます。これらの要件を満たさない場合は助成対象外となるため、申請前に自社の規定を確認することが重要です。

4. 各コースの詳細解説

4-1. 65歳超継続雇用促進コース

このコースは、65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入、または他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施した事業主に対して助成するものです。

支給額は、実施した制度改正の内容や対象者数によって異なります。例えば、定年を65歳に引き上げた場合、対象被保険者数が1~3人の企業では15万円、10人以上の企業では30万円が支給されます。また、定年を70歳以上に引き上げた場合は、対象被保険者数1~3人で30万円、10人以上で105万円と、より高額な助成が受けられます。

他社による継続雇用制度の導入の場合は、66~69歳までなら10万円、70歳未満から70歳以上への引上げの場合は15万円が上限となります。ただし、この場合は他社の就業規則等の改正に要した経費の2分の1と上限額のどちらか低い方が支給されます。

主な支給要件として、制度の実施(就業規則等での確認)、対象被保険者(改正前規則の定年前無期雇用労働者または定年後継続雇用者であり、改正後規則が適用されていること)、対象経費の発生(社会保険労務士等への委託費等)、高年齢者雇用管理に関する措置の実施(高年齢者雇用等推進者の選任など)があります。

申請期間は、定年引上げ等の制度を実施した日の属する月の翌月から起算して4か月以内となっています。

4-2. 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース

このコースは、高年齢者の雇用推進を図るために雇用管理制度の整備に取り組む企業を支援するものです。対象となる雇用管理制度には、賃金・人事処遇制度、労働時間制度、在宅勤務制度、研修制度、高年齢者向けの専門職制度、健康管理制度などがあります。

支給額は、制度導入等に必要な専門家への委託費やコンサルタント費用、制度実施に伴う機器等の導入費用などの支給対象経費(上限50万円)に対して、中小企業事業主は60%、中小企業以外は45%が助成されます。初回の支給対象経費については、当該措置の実施に50万円の費用を要したものとみなされます。

主な支給要件として、雇用管理整備計画書の提出・認定(計画開始日の6か月前~3か月前までに提出)、高年齢者雇用管理整備の措置の実施、支給対象被保険者(60歳以上の雇用保険被保険者で制度が適用され、計画終了後6か月以上継続雇用されていること)、対象経費の支払いなどがあります。

申請の流れとしては、まず計画申請を行い、認定を受けた後に計画を実施します。計画実施期間(1年以内)の後、6か月の確認期間を経て、支給申請を行います。例えば、2026年2月から2027年1月まで計画を実施する場合、支給申請は2027年8月から9月までとなります。

4-3. 高年齢者無期雇用転換コース

このコースは、50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した企業に対して助成するものです。

支給額は、対象労働者1人につき30万円(中小企業以外は23万円)で、1支給申請年度(4月から翌3月)1適用事業所あたり10人までが対象となります。

対象となる労働者は、有期契約労働者として6か月以上5年以内雇用されており、50歳以上かつ定年年齢未満で、無期雇用転換後に65歳以上まで雇用される見込みがある者です。また、転換日において64歳以上でないこと、派遣労働者でないこと、労働契約法第18条に基づく申込みによる転換でないことなどの条件があります。

申請手続きとしては、まず計画申請が必要で、無期雇用転換計画(2~3年の期間)を提出し認定を受けます。その後、計画に基づいて転換を実施し、転換後6か月以上継続雇用して6か月分の賃金を支払った後、支給申請を行います。

5. 申請手続きと新たな電子申請システム

5-1. 申請から支給までの流れ

65歳超雇用推進助成金の申請から支給までの流れは以下の通りです。まず、申請者は必要書類を揃えて都道府県支部の高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)へ提出します。提出方法は持参・郵送のほか、2025年4月からは電子申請も可能になりました。

提出された書類は都道府県支部で点検され、不備がないことが確認されると、本部での詳細な審査に移ります。この段階で申請内容についての確認や質問が行われることもあるため、適宜対応できるよう準備しておくことが重要です。

審査が完了すると、申請内容に応じて計画認定通知や支給決定通知が発行されます。支給が決定した場合は、申請時に指定した金融機関口座に助成金が振り込まれます。なお、高年齢者評価制度等雇用管理改善コースと高年齢者無期雇用転換コースでは、最初に計画申請を行い認定を受けてから、実際の制度導入や転換を実施する流れとなりますので、計画的な申請が求められます。

5-2. 2025年度からの電子申請の活用法

2025年(令和7年)4月から、65歳超雇用推進助成金はe-Gov電子申請システムを利用して申請することが可能になりました。この新システムの導入により、申請手続きの利便性が大幅に向上しています。

電子申請の最大の魅力は、時間や場所に縛られずに手続きができる点です。24時間365日いつでも申請が可能なため、企業の業務時間内に書類を作成し提出する必要がなくなりました。また、インターネット環境さえあればどこからでも申請できるため、地理的な制約も解消されています。

さらに、申請状況の管理も容易になりました。マイページ機能により、処理状況や通知内容をオンラインで確認できるため、「申請書が届いているか」「審査がどこまで進んでいるか」といった不安を解消できます。移動時間や窓口での待ち時間も不要となり、企業の事務負担軽減につながる点も大きなメリットです。

電子申請を利用する際は、申請先の都道府県支部を正確に選択することや、申請期限を厳守すること、書類の不備や入力ミスがないよう注意することが重要です。不明点がある場合は、e-Gov利用者サポートデスク(TEL:050-3786-2225)に問い合わせるか、電子申請サービスの「初めてお使いの方へ」のページを参照するとよいでしょう。

6. 申請時のポイントと注意事項

65歳超雇用推進助成金を申請する際のポイントと注意事項をいくつか紹介します。

まず、各コースの「支給申請の手引き」を必ず確認してください。概要だけでなく、詳細な要件や必要書類を把握することが重要です。手引きや申請様式は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構のホームページからダウンロードできます。

次に、就業規則の改定については、高年齢者雇用安定法に準拠した内容になっているか確認してください。特に65歳までの安定した雇用を確保するための措置が適切に定められているかがポイントです。

また、対象となる経費については、社会保険労務士等の専門家への委託費など、実際に発生した費用のみが対象となります。自社で就業規則の改正を行うなど経費が発生しない場合は、支給対象とならない点に注意が必要です。

申請書類については、一度提出された後の差し替えや訂正はできませんので、提出前に慎重に確認することをお勧めします。また、添付書類は原本から転記や別途作成したものではなく、実際に使用しているものや原本を複写したものである必要があります。

さらに、対象となる被保険者については、雇用形態(無期雇用か有期雇用か)や年齢など、各コースの要件を満たしているか確認してください。特に「高年齢者無期雇用転換コース」では、転換する労働者が制度の対象となるかの確認が重要です。

7. まとめ

本記事では、2025年度(令和7年度)の65歳超雇用推進助成金について解説しました。この助成金は、高年齢者の雇用を推進するための「65歳超継続雇用促進コース」「高年齢者評価制度等雇用管理改善コース」「高年齢者無期雇用転換コース」の3つのコースがあり、企業の取り組み内容に応じて活用できる制度となっています。

特に注目すべき点として、2025年4月から導入された電子申請システムがあります。これにより、24時間365日いつでもどこからでも申請が可能となり、企業の事務負担軽減につながることが期待されます。

高齢化が進む日本社会において、高年齢者の活躍の場を広げることは、企業の持続的成長と社会保障制度の安定の両面から重要です。この助成金制度を上手に活用して、高年齢者が働きやすい環境づくりを進めることで、人材不足の解消と社会的責任の遂行を両立させることができるでしょう。

※本記事の情報は2025年4月1日現在のものです。助成金の支給額や申請要件などは変更される可能性がありますので、実際に申請を検討される際には、必ず独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の最新情報をご確認ください。また、不明点がある場合は社会保険労務士などの専門家にご相談されることをお勧めします。

【参考資料】
・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「65歳超雇用推進助成金制度のご案内」
https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/om5ru80000002trp-att/ledngs000000eszq.pdf
・厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001242274.pdf
・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構ホームページ
https://www.jeed.go.jp/