2025年度新設「特定求職者雇用開発助成金」(中高年層安定雇用支援コース)~就職氷河期世代を含む中高年層採用で最大60万円助成~

1.はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

2025年4月から、特定求職者雇用開発助成金に新たな「中高年層安定雇用支援コース」が創設されました。これは、従来の就職氷河期世代安定雇用実現コースを拡充・見直したもので、35歳から60歳未満の中高年層の正規雇用を促進する画期的な制度です。本記事では、社会保険労務士の視点から、この制度の概要と活用方法について詳しく解説いたします。

2.制度創設の背景と目的

バブル崩壊後の厳しい雇用環境の中で就職活動を強いられた、いわゆる就職氷河期世代の方々の中には、希望する職に就けず、不本意ながら非正規雇用として働き続けている方が多くいらっしゃいます。こうした方々を含む中高年層の正規雇用への転換を強力に支援するため、今回の制度が創設されました。

この制度は、単に就職氷河期世代に限定せず、より幅広い35歳から60歳未満の中高年層を対象としており、就職の機会を逃したことで十分なキャリア形成がなされなかった方々の安定雇用を促進することを目的としています。人手不足が深刻化する中、豊富な社会経験を持つ中高年層の採用は、企業にとっても大きなメリットがあります。

3.対象労働者と事業主の要件

3-1.対象となる労働者の要件

本制度の対象となる労働者は、以下の要件をすべて満たす必要があります。

まず、年齢要件として35歳以上60歳未満である必要があります。さらに、正規雇用経験が少ないことも要件となっており、具体的には雇入れ日の前日から過去5年間に正規雇用労働者として雇用された期間を通算した期間が1年以下である必要があります。また、雇入れの日の前日から起算して過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない、または事業主都合による解雇等で離職した方が対象となります。

加えて、ハローワーク等で個別支援等の就労に向けた支援を受けており、正規雇用労働者として雇用されることを希望している必要があります。紹介日において安定した職業に就いていない方が対象です。

特筆すべき点として、この制度では自営業者やフリーランス、特定の資格保有者であっても、正規雇用労働者と同等以上の職業能力が必要な職業に従事していた期間を正規雇用期間として通算できる場合があります。ただし、就労を希望する職業で過去の専門知識を活用できない場合は除外されます。

3-2.事業主が受給するための要件

助成金を受給するためには、事業主側にも一定の要件が求められます。

まず、雇用保険の適用事業主であることが必要です。そして、対象労働者の雇入れ日の前後6か月間に事業主都合による解雇等を行っていないことが求められます。これは基準期間と呼ばれ、安定した雇用環境を維持している事業主に限定することで、制度の趣旨を実現しようという意図があります。

また、対象労働者を正規雇用労働者として、かつ一般被保険者として雇用する必要があります。正規雇用労働者とは、期間の定めのない労働契約を締結し、週30時間以上の所定労働時間で働き、賞与や退職金等の長期雇用を前提とした待遇が適用されている労働者を指します。ただし、短時間正社員の場合は週30時間未満でも対象となる場合があります。

さらに、特定受給資格者となる離職理由による離職者が、雇入れ日における被保険者数の6%を超えていないことも要件となっています。出勤簿や賃金台帳、労働者名簿等の必要書類を整備・保管していることも求められます。

4.支給額と申請手続き

4-1.支給額と支給期間

助成金の支給額は、企業規模によって異なります。中小企業事業主の場合は総額60万円で、第1期30万円、第2期30万円の2回に分けて支給されます。中小企業事業主以外(大企業)の場合は総額50万円で、第1期25万円、第2期25万円となります。

支給対象期間は、対象労働者の雇入れ日から起算して1年間です。賃金締切日が定められている場合は、雇入れ日直後の賃金締切日の翌日が起算日となります。第1期は起算日から6か月、第2期はその後の6か月です。

ただし、支給額には条件があります。各支給対象期において、対象労働者の平均実労働時間が週30時間の8割である24時間未満となる場合は、月単位で支給額が減額されます。このため、適切な労働時間管理が極めて重要です。また、支給額が賃金総額を超える場合は、賃金総額が上限となります。

4-2.支給申請の手続き

支給申請は、各支給対象期の末日の翌日から2か月以内に行う必要があります。申請書類として、対象労働者の労働時間と賃金が確認できる賃金台帳や出勤簿、雇用契約書、本人確認書類等が必要となります。

第1期の支給申請時に提出した書類で、内容に変更がない場合は、第2期の申請時に添付を省略することができます。また、賃金支払日が到達していない部分については、後日提出することも可能です。

申請の際には、対象労働者雇用状況等申立書の提出も必要です。この申立書では、紹介前に選考を開始していないこと、過去の雇用関係の有無、親族関係の有無等を申告する必要があります。

5.活用のポイントと注意点

5-1.制度活用のメリット

この制度の最大のメリットは、中高年層の豊富な社会経験や専門知識を活かしながら、採用コストの一部を助成金で賄えることです。特に中小企業においては、60万円という助成額は採用活動における大きな支援となります。

また、正規雇用への転換を促進することで、労働者のモチベーション向上や定着率の改善も期待できます。就職氷河期世代を含む中高年層は、仕事への責任感や会社への帰属意識が高い傾向にあり、組織の中核を担う人材として活躍が期待できます。

5-2.受給できないケースと注意点

受給できないケースとしては、以下のような場合があります。

紹介以前に選考を開始していた場合、過去3年間に雇用関係や請負関係、3か月を超える職場実習等の関係があった場合、事業主や取締役の3親等以内の親族の場合、賃金の支払いが遅延している場合などです。また、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主も対象外となります。

特に注意が必要なのは、関係事業主との関連性です。資本的・経済的・組織的関連性がある事業主間での雇用は対象外となるため、グループ会社間での人材移動などは慎重に検討する必要があります。

5-3.他の助成金との併給調整

中高年層安定雇用支援コースは、他の雇用関係助成金との併給に制限がある場合があります。例えば、特定求職者雇用開発助成金の他のコースとの併給はできません。他の助成金を選択し、支給申請したものの支給決定に至らなかった場合は、それが初回の支給申請であるものに限り、中高年層安定雇用支援コースの支給を受けることが可能です。

6.申請から受給までの流れ

助成金の申請から受給までの流れについて説明します。まず、事業主がハローワーク等に求人を申し込み、対象労働者の紹介を受けます。その後、対象労働者を正規雇用労働者として雇い入れます。

雇入れから6か月経過後、第1期支給申請を行います。この申請は、支給対象期の末日の翌日から2か月以内に行う必要があります。管轄労働局での審査を経て支給決定がなされると、第1期分の助成金を受給できます。

さらに雇入れから12か月経過後、同様に第2期支給申請を行います。こちらも支給対象期の末日の翌日から2か月以内が申請期限です。労働局による審査・支給決定を経て、第2期分の助成金を受給します。

なお、雇入れ後には管轄労働局から「制度周知文」が送付されます。これは、雇入れ時点で支給要件を満たしていることを確認した上で送付されるものです。この通知を受け取った後に支給申請を行うことになります。

7.まとめ

2025年4月から始まる中高年層安定雇用支援コースは、中高年層の正規雇用を強力に後押しする画期的な制度です。中小企業では最大60万円、大企業でも50万円の助成を受けることができ、企業の採用コスト負担を軽減しながら、経験豊富な人材を確保することができます。

制度の活用にあたっては、対象労働者の要件確認や適切な労務管理が重要となります。また、申請に必要な書類の準備や期限内の手続きにも注意が必要です。

本制度は、単なる雇用促進策にとどまらず、社会全体の課題解決につながる重要な施策といえます。就職氷河期世代を含む中高年層の安定雇用は、本人の生活安定や社会保障制度の持続可能性にも大きく貢献します。企業にとっても、人手不足の解消や組織の多様性向上など、多くのメリットをもたらすことでしょう。

制度の詳細や申請手続きについてご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。社会保険労務士として、制度の適切な活用をサポートし、中高年層の安定雇用促進に貢献してまいります。

※本記事は2025年4月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や最新情報については、厚生労働省の公式ウェブサイトや最寄りの労働局にてご確認ください。

【出典・参考資料】