もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
毎年4月は多くの法改正が施行される時期ですが、2025年度も企業の人事労務に大きな影響を与える法改正が予定されています。特に育児・介護休業法を中心に、高齢者雇用安定法、雇用保険法、障害者雇用促進法などにおいて重要な変更点があります。
これらの法改正は「働きやすい職場環境の整備」と「多様な働き方の推進」を目的としており、企業には適切な対応が求められます。本記事では、2025年度に施行される人事関連の主な法改正について、企業が押さえるべきポイントと実務対応について解説します。
2. 育児・介護休業法の改正(2025年4月1日施行)
2025年4月1日から施行される育児・介護休業法の改正は、育児や介護と仕事の両立支援をさらに進めるものです。この改正は男女問わず育児や介護と仕事の両立ができる社会の実現を目指しています。具体的にどのような変更があるのか、主要なポイントを見ていきましょう。
2-1. 子の看護休暇制度の拡充
現在、小学校就学前の子を育てる労働者が利用できる「子の看護休暇」は、子が病気やけがをした場合に加え、予防接種や健康診断を受けさせる場合にも取得できる制度です。2025年4月からは以下の点が変更されます。
まず、対象となる子の範囲が「小学校3年生修了まで」に拡大されます。また、取得理由も拡充され、従来の理由に加えて「感染症による学級閉鎖等」や「入園(入学)式、卒園(卒業)式」への出席も新たに認められるようになります。制度の名称も「子の看護等休暇」に変更されます。
さらに、労使協定による適用除外の範囲も変更されます。これまでは「継続雇用期間6カ月未満の従業員」を適用除外とすることが可能でしたが、この規定が廃止されます。なお、「週の所定労働日数が2日以下の従業員」については引き続き適用除外とすることが可能です。
取得可能日数は従来どおり、1年間に5日(子が2人以上の場合は10日)です。企業は就業規則の変更と従業員への周知が必要となるほか、労使協定で除外対象者を定めている場合は、労使協定を改めて締結し直す必要があります。
2-2. 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
所定外労働の制限(残業免除)制度は、対象となる労働者の所定外労働時間を制限する制度です。現行では「3歳未満の子を養育する労働者」のみが対象でしたが、法改正後は「小学校就学前の子を養育する労働者」にまで対象が拡大されます。
この変更に伴い、企業は対象者の範囲を拡大した就業規則の改定と従業員への周知を行う必要があります。
2-3. 短時間勤務制度の代替措置としてのテレワーク導入
現行の育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する労働者に対して、所定労働時間を6時間までに短縮する「短時間勤務制度」を提供することが事業主に義務づけられています。ただし、業務の性質上、短時間勤務が難しい場合には、労使協定を締結したうえで代替措置を講じることになっています。
今回の法改正では、この代替措置のメニューに「テレワーク」が新たに追加されます。企業は業務内容や従業員のニーズに応じて、テレワークを選択肢として提供することが可能になります。
2-4. 育児・介護のためのテレワーク導入の努力義務化
3歳未満の子を養育する労働者に対し、テレワークを選択肢として提供することが企業の「努力義務」となります。同様に、要介護状態の家族を介護する従業員についても、テレワークを選択肢として提供することが努力義務化されます。
将来的には義務化される可能性もあるため、企業としては今のうちからテレワーク導入に向けた環境整備や規程の整備を進めておくことが望ましいでしょう。
2-5. 育児休業取得状況の公表義務適用拡大
これまで従業員数1,000人以上の企業に限定されていた「男性の育児休業取得状況の公表義務」が、従業員数300人以上の企業にまで拡大されます。該当する企業は、インターネットなどで一般に閲覧可能な形式で、年1回以上、男性の育児休業取得状況を公表する必要があります。
2-6. 介護休暇・介護休業制度の拡充
介護に関する制度も大幅に拡充されます。まず、介護休暇を取得できる労働者の要件が緩和され、「継続雇用期間6カ月未満の労働者」を除外する規定が廃止されます。企業は労使協定・就業規則の見直しが必要になります。
また、介護による離職を防止するための環境整備として、企業には研修の実施、相談窓口の設置、事例の収集・提供、制度利用促進に関する方針の周知といった措置を講じることが義務づけられます。
さらに、介護に関する個別の周知・意向確認も必要になります。従業員から介護に関する相談があった場合、企業は個別に面談等を行い、介護休業制度について説明するとともに、利用意向を確認しなければなりません。加えて、従業員が40歳に達する段階で、介護制度に関する情報提供を行うことも求められます。
3. 育児・介護休業法の改正(2025年10月1日施行)
2025年10月1日からは、さらに育児・介護休業法の一部が改正されます。特に注目すべき点は以下の2つです。
3-1. 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置
3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、企業は以下の5つの選択肢から2つ以上の措置を選択し、制度化することが義務づけられます。
また、これらの措置を選択する際には、対象となる従業員に対して個別に周知し、意向確認を行う必要があります。
3-2. 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
従業員本人または配偶者の妊娠・出産の申し出があった際、また子が3歳になる前に、企業は個別に仕事と育児の両立に関する意向を確認する必要があります。
確認すべき内容としては、
①勤務時間帯(始業および終業の時刻)
②勤務地(就業の場所)
③両立支援制度等の利用期間
④仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)
が挙げられます。
さらに、確認した意向に応じて、勤務地や時間帯の変更、業務量の調整、労働条件の見直しなど、適切な配慮を行うことが求められます。
4. 高齢者雇用安定法の改正(2025年4月1日施行)
高齢者雇用安定法についても2025年4月1日から重要な改正が施行されます。これまで継続雇用制度の適用対象者を労使協定で限定できる経過措置がありましたが、この経過措置が2025年3月31日をもって終了となります。
これにより、企業は高年齢者雇用確保措置として以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
5. その他の主要な法改正
5-1. 雇用保険法の改正(2025年4月1日施行)
高年齢雇用継続給付金は、雇用保険被保険者期間が5年以上の60歳以上65歳未満の労働者を対象とする給付金です。2025年4月1日から、支給額の上限が従来の賃金の15%から10%に引き下げられます。
高齢者雇用安定法の改正と併せて、高齢者の就労が促進される一方で、給付金は縮小される方向にあることに注意が必要です。将来的には、この給付金が廃止される可能性もあります。
5-2. 障害者雇用促進法の改正
障害者雇用促進法についても段階的な改正が行われています。2024年4月には法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられました。そして2025年4月1日からは、障害者雇用の除外率が一律10ポイント引き下げられます。
さらに将来的には、2026年4月以降に法定雇用率が2.7%に引き上げられる予定です。また、障害者雇用義務の対象事業主も、従業員数37.5人以上の企業に拡大される予定です。
このような流れを受けて、従来は障害者雇用義務がなかった企業でも、障害者が働きやすい環境整備が求められることになります。
6. まとめ
2025年度の法改正は、育児・介護と仕事の両立支援の強化、高齢者雇用の促進、障害者雇用の拡大など、多様な働き方の実現に向けた内容となっています。特に育児・介護休業法の改正は多岐にわたり、企業には様々な対応が求められます。
企業として必要な対応をまとめると以下のようになります。
これらの法改正は、少子高齢化や人手不足、多様な働き方のニーズに対応するためのものです。企業にとっては負担に感じる面もあるかもしれませんが、こうした制度を活用することで、優秀な人材の確保や定着、生産性の向上にもつながります。
当事務所では、今後も法改正の動向を注視しながら、企業の皆様に必要な情報提供や支援を行ってまいります。法改正への対応でお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。
【参考資料】