2025年度「賃上げ支援助成金パッケージ」の活用ガイド〜中小企業の賃上げと生産性向上を支援する制度を徹底解説〜

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

2025年4月現在、多くの企業が直面している課題の一つに「賃上げへの対応」があります。政府は継続的な賃上げを促進する方針を掲げ、企業に対して賃上げへの取り組みを強く求めています。特に中小企業においては、賃上げの必要性を感じながらも、その原資確保に苦慮しているケースが少なくありません。

そこで今回は、厚生労働省が提供する「賃上げ支援助成金パッケージ」について詳しく解説します。この制度を活用することで、設備投資や人材育成を通じた生産性向上と、それに伴う賃上げの実現を図ることができます。2025年度(令和7年度)の最新情報をもとに、各助成金の概要や申請方法、活用のポイントを分かりやすくお伝えしますので、ぜひ企業経営にお役立てください。

2. 賃上げ支援助成金パッケージとは

厚生労働省の「賃上げ支援助成金パッケージ」は、中小企業を中心に賃上げと生産性向上の両立を支援するための総合的な助成制度です。具体的には「生産性向上(設備・人への投資等)」「非正規雇用労働者の処遇改善」「より高い処遇への労働移動等」の3つの柱から構成されています。

これらの助成金を活用することで、企業は設備投資や従業員の能力開発にかかるコストの一部を国から助成してもらいながら、生産性向上に取り組むことができます。その結果として実現する収益増を原資に、従業員の賃金引き上げを行うことが可能になります。

以下では、主要な助成金について詳しく解説します。

3. 業務改善助成金

3-1. 概要と特徴

業務改善助成金は、生産性向上のための設備投資等を行いながら、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた中小企業に対して、その設備投資等の費用の一部を助成する制度です。

2025年度の業務改善助成金では、賃金引き上げ額に応じて30円コース、45円コース、60円コース、90円コースの4つが設定されています。各コースでは引き上げる労働者数に応じて助成上限額が変動し、より多くの労働者の賃金を引き上げるほど助成額も大きくなります。なお、この助成金は今後実施する設備投資や賃金引き上げが対象となりますので、申請前に実施したものは対象外となる点に注意が必要です。

3-2. 対象となる事業主と要件

業務改善助成金の対象となるのは、事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内である中小企業事業主です。対象事業主は事業場内最低賃金を一定額以上引き上げるとともに、生産性向上のための設備投資等を行う必要があります。また、解雇や賃金引き下げなどの不交付事由がないことも要件となります。これらの条件を満たすことで、設備投資等にかかった費用の一部について助成を受けることが可能となります。

3-3. 助成額と助成率

コース区分と引き上げる労働者数に応じて、助成上限額は変動します。30円コースでは30万円から最大130万円、45円コースでは45万円から最大180万円、60円コースでは60万円から最大300万円、そして90円コースでは90万円から最大600万円の助成を受けることができます。特に労働者数が多い事業所でより高い賃金引き上げを実施する場合、大きな支援を受けられる仕組みとなっています。

具体例として、従業員が30人の事業場で、事業場内最低賃金の労働者5人の時給を45円引き上げた場合、設備投資にかかった費用に対し最大100万円が助成されます。このように、自社の規模や賃上げ計画に合わせて最適なコースを選択することが重要です。

3-4. 申請方法と流れ

業務改善助成金の申請から受給までの流れは以下のようになります。まず、賃上げと設備投資等を含む生産性向上計画を作成し、労働局へ交付申請書を提出します。労働局による審査を経て交付決定を受けた後、計画に沿って設備投資等を実施します。その後、賃金引き上げを実施し、事業実績報告書を提出。最終的に労働局による確認を経て助成金が支給されます。

2025年度の公募は、第1期(4月から7月頃)と第2期(8月から11月頃)に分けて行われる予定です。申請を検討されている事業主の方は、計画的に準備を進めることをお勧めします。なお、詳細なスケジュールや申請様式は厚生労働省のホームページで随時更新されますので、最新情報を確認するようにしましょう。

4. キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

4-1. 概要と特徴

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)は、非正規雇用労働者(パートタイム労働者、有期雇用労働者など)の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用した場合に助成される制度です。

2025年度からは、賃上げ率に応じて細分化された助成体系となりました。これにより、より高い賃上げを実施する企業ほど手厚い支援を受けられるように設計されています。賃上げ率の区分が従来の2区分から4区分に細分化され、賃上げ率が高いほど助成額も増える仕組みとなっています。これは企業の賃上げ意欲を高め、非正規雇用労働者の処遇改善を一層促進することを目的としています。

4-2. 対象となる事業主と要件

この助成金の対象となるためには、まず有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定することが必要です。そして、改定後の賃金規定等を実際に適用し、労働者の賃金を引き上げなければなりません。また、原則として事業所内の全ての有期雇用労働者等の賃金規定等を増額改定することが求められます。さらに、改定日の前日までに「キャリアアップ計画」(賃金規定等改定内容含む)を作成し、都道府県労働局に提出することも必要な要件となっています。これらの条件をすべて満たすことで、助成金の支給対象となります。

4-3. 助成額

2025年度の賃上げ率区分と助成額(1人当たり)は以下のように設定されています。3%以上4%未満の賃上げの場合は4万円(大企業は2.6万円)、4%以上5%未満の場合は5万円(大企業は3.3万円)、5%以上6%未満の場合は6.5万円(大企業は4.3万円)、そして6%以上の賃上げを実施した場合は7万円(大企業は4.6万円)の助成金が支給されます。

さらに、職務評価の手法を活用して賃金規定等を増額改定した場合や、昇給制度を新たに規定した場合には、基本の助成額に加えて追加の助成金が加算(それぞれ1事業所当たり20万円(大企業の場合15万円))される仕組みになっています。この加算措置を活用することで、より効果的な処遇改善と人材定着を図ることができるでしょう。

4-4. 申請方法と流れ

キャリアアップ助成金の申請手続きは、まずキャリアアップ計画の作成から始まります。この計画には賃金規定等の増額改定に関する内容を含める必要があります。作成した計画は、賃金規定等改定日の前日までに労働局へ提出します。その後、実際に賃金規定等の増額改定を実施し、改定後の規定を労働者に適用します。

改定後、6か月分の賃金を支払った日の翌日から2か月以内に支給申請書を提出することが必要です。2025年度からは申請手続きの一部簡素化も図られており、電子申請にも対応しているため、より申請しやすくなっています。これにより、事業主の負担軽減と手続きの迅速化が期待できます。

5. 働き方改革推進支援助成金

5-1. 概要と特徴

働き方改革推進支援助成金は、労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進など、働き方改革に取り組む中小企業事業主を支援する制度です。外部専門家によるコンサルティングの実施や労働能率の増進に資する設備・機器の導入等を行い、成果を上げた場合に助成金が支給されます。

この助成金の特徴として、労働時間削減等の取組と合わせて賃上げを実施した企業には助成額が加算される点が挙げられます。つまり、労働環境の改善と賃金アップの双方に取り組む企業が、より手厚い支援を受けられる仕組みになっています。これにより、働き方改革と賃上げの一体的な推進が期待できます。

5-2. 対象となるコース

働き方改革推進支援助成金には、業種や取組内容によって複数のコースが設けられています。業種別課題対応コースは、建設業や運送業など特定業種の特性に応じた労働時間削減等の取組を支援するものです。労働時間短縮・年休促進支援コースは、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組む企業を支援します。また、勤務間インターバル導入コースでは、勤務と勤務の間に一定時間の休息を確保する勤務間インターバル制度の導入を目指す企業を支援します。これらのコースから、自社の課題や目標に最も合致するものを選択することで、効果的な働き方改革を進めることができます。

5-3. 助成額

助成金の支給額はコース区分によって異なります。業種別課題対応コースでは基本部分として25万円から550万円が支給され、賃上げを達成した場合には6万円から360万円の加算が受けられます。労働時間短縮・年休促進支援コースでは25万円から200万円、勤務間インターバル導入コースでは50万円から120万円が助成されます。

具体例として、建設業の事業場が設備投資等を実施して36協定で設定する時間外・休日労働時間数の上限を引き下げた場合、設備投資等にかかった費用に対し最大25万円から550万円が助成されます。さらに、労働者数が30人以下の事業場では倍額加算の対象となるため、より小規模な事業所ほど手厚い支援を受けられる仕組みになっています。

5-4. 申請方法と流れ

働き方改革推進支援助成金の申請から受給までの流れは以下のようになります。まず、自社の課題に対応した労働時間削減等の取組計画を作成します。これを労働局へ提出し、審査・交付決定を受けた後に計画に沿った取組を実施します。取組完了後には事業実績報告書を提出し、労働局による確認を経て助成金が支給されます。

2025年度の申請受付期間は4月から始まり、11月28日までとなっています。ただし、この制度は予算に制約があるため、11月28日よりも前に締め切られる可能性もあります。申請をお考えの場合は、早めの準備と提出をお勧めします。また、申請方法は窓口への持参だけでなく、郵送やjGrantsによる電子申請も利用できますので、自社に合った方法で申請することが可能です。

6. 人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)

6-1. 概要と特徴

人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)は、人材確保のために雇用管理改善につながる制度の導入や従業員の作業負担を軽減する機器等の導入を行い、その結果として離職率の低下を実現した事業主に対して助成するものです。

対象となる雇用管理改善制度には、賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度、職場活性化制度、健康づくり制度などが含まれます。これらの制度導入に加えて、対象労働者の賃上げを5%以上実施した場合には、基本の助成額に上乗せして助成額が加算されます。このように、人材の定着と処遇改善の両面から企業の人材確保を支援する仕組みとなっています。

6-2. 助成額

導入する雇用管理制度や機器の種類によって、助成額は異なります。賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度などを導入した場合、賃上げを実施すれば50万円(賃上げなしの場合は40万円)の助成を受けることができます。職場活性化制度や健康づくり制度の導入では、賃上げ実施で25万円(賃上げなしの場合は20万円)が助成されます。また、作業負担を軽減する機器等を導入した場合には、導入経費の62.5%(賃上げなしの場合は50%)が助成対象となります。

企業が複数の雇用管理制度や作業負担軽減機器を導入し、さらに対象労働者の賃上げ(5%以上)を行った場合、最大287.5万円という高額な助成金を受けることも可能です。この制度を活用することで、人材確保のための環境整備と賃上げの両立を図ることができるでしょう。

6-3. 申請方法と流れ

人材確保等支援助成金の申請から受給までの流れとしては、まず雇用管理制度または作業負担を軽減する機器の導入計画を作成します。この計画書を労働局へ提出し、審査・認定を受けた後、計画に沿って制度や機器の導入を実施します。導入前と導入後の離職率を測定し、離職率の低下が確認できれば支給申請書を提出します。最終的に労働局による確認を経て助成金が支給されます。

この制度の特徴は、単に制度や機器を導入するだけでなく、その結果として実際に離職率が低下したことが支給の条件となっている点です。つまり、形式的な制度導入ではなく、実効性のある取組を促進することを目的としています。計画的に進めながら、従業員の定着状況をモニタリングすることが重要になるでしょう。

7. 人材開発支援助成金

7-1. 概要と特徴

人材開発支援助成金は、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。企業内の人材育成を経済的に支援することで、従業員のスキルアップと企業全体の生産性向上を図ることを目的としています。

2025年度からは、特に非正規雇用労働者に対する職業訓練の助成率が引き上げられるなど、制度の拡充が図られています。これは、正規雇用者だけでなく非正規雇用者のスキルアップも積極的に支援することで、労働市場全体の底上げを目指す政策の一環です。また、訓練後の賃上げと連動したインセンティブも設けられており、人材育成と処遇改善の好循環を促進する設計になっています。

7-2. 主な助成内容

人材開発支援助成金では、複数の観点から企業の人材育成活動を支援しています。賃金助成として、訓練を受ける労働者1人1時間あたり500円から1000円を助成します。また、訓練に必要な経費については、訓練の種類や企業規模等に応じて45%から100%の範囲で助成されます。さらに、OJT(実地訓練)を実施する場合には、1人1コースあたり12万円から25万円の助成金が支給されます。

この助成金の大きな特徴として、訓練終了後に対象者の賃上げを行った場合には助成額が上乗せされる点が挙げられます。具体的には、5%以上の賃上げを実施した場合や、資格等手当を支給して3%以上の賃上げを実現した場合に加算措置が適用されます。例えば、中小企業事業主が正規雇用労働者1人に対して10時間の人材育成訓練(訓練経費10万円)を受講させ、訓練終了後に賃上げを行った場合、7万円の助成金を受け取ることができます。この仕組みにより、スキルアップと賃上げを連動させた人材育成戦略を推進することが可能になります。

7-3. 申請方法と流れ

人材開発支援助成金を申請するには、まず職業訓練実施計画を作成することから始めます。この計画書は訓練開始前までに労働局へ提出する必要があります。提出後は計画に沿って実際に訓練を実施し、訓練終了後2か月以内に支給申請書を提出します。その後、労働局による確認審査を経て助成金が支給される流れとなります。

2025年度からは申請手続きの簡素化が進められており、計画届と支給申請時の書類の重複提出が解消されるなど、事業主の負担軽減が図られています。具体的には、従来は計画届と支給申請の両方で提出が必要だった書類が、支給申請時にまとめて提出する形に整理され、計画届の段階では内容確認ではなく「受付のみ」となるよう変更されました。これにより申請手続きがスムーズになり、より多くの企業が制度を活用しやすくなっています。また、雇用関係助成金ポータルを通じた電子申請にも対応しており、オンラインで手続きを完結させることも可能です。

8. より高い処遇への労働移動等への支援

賃上げ支援助成金パッケージには、これまで紹介した助成金のほかにも、より高い処遇への労働移動を促進するための制度があります。

8-1. 特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)

高年齢者や障害者、就職氷河期世代を含む中高年層などの就職困難者を継続して雇用する事業主に対して30万円~240万円が助成されます。さらに、成長分野(デジタル、グリーン)の業務に従事させる場合や、人材育成および雇入れから3年以内に5%賃上げを実施した場合は、1.5倍の助成金が支給されます。

8-2. 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース、中途採用拡大コース)

事業規模の縮小等に伴い離職を余儀なくされる労働者を早期に無期雇用で雇入れ、雇入れ前と比較して5%以上賃上げした場合や、中途採用率を一定以上拡大させ、45歳以上の者を雇入れ前と比較して5%以上賃上げした場合に助成されます。

8-3. 産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース)

在籍型出向により労働者をスキルアップさせ、復帰後の賃金を復帰前と比較し5%以上増加させた場合に助成されます(上限額8,635円/1人1日あたり、1事業主あたり1,000万円)。

9. 賃上げ支援助成金の効果的な活用方法

これまで紹介した各種助成金を効果的に活用するためのポイントをご紹介します。

9-1. 複数の助成金の組み合わせ

複数の助成金を組み合わせて活用することで、より大きな効果を得ることができます。例えば、業務改善助成金で設備投資を行い、人材開発支援助成金で従業員の教育訓練を実施するといった組み合わせが可能です。

9-2. 中長期的な視点での計画策定

助成金の活用は単年度の取り組みで終わるのではなく、中長期的な経営計画の中に位置づけるとよいでしょう。計画的に生産性向上と賃上げを進めることで、持続可能な企業成長を実現できます。

9-3. 専門家への相談

助成金の申請は要件が複雑で、申請書類の作成にも専門的な知識が必要な場合があります。社会保険労務士などの専門家に相談することで、適切な助成金選びから申請手続きまで、スムーズに進めることができます。

10. まとめ

本稿では、2025年度の賃上げ支援助成金パッケージについて解説しました。業務改善助成金、キャリアアップ助成金、働き方改革推進支援助成金など、様々な助成制度を活用することで、生産性向上とそれに伴う賃上げの実現を図ることができます。

助成金はそれぞれに要件や申請手続きが異なりますので、自社に適した制度を選び、計画的に活用することが重要です。また、申請期限や予算枠には限りがありますので、早めの準備・申請をお勧めします。

当事務所では、各種助成金の申請支援も行っておりますので、ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。皆様の企業がより良い労働環境づくりと持続的な成長を実現されることを願っております。


※本記事は2025年4月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や最新情報については、厚生労働省の公式ウェブサイトや最寄りの労働局にてご確認ください。

参考情報