2025年度「両立支援等助成金」に新設!~不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースの概要と活用のポイント~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

2025年(令和7年)4月から「両立支援等助成金」に新たに「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」が加わりました。これは従来の「不妊治療のための休暇制度」を大幅に拡充し、さらに女性の健康課題に対応するための支援を追加したものです。

従来の不妊治療のための休暇コースでは、休暇制度のみが対象でしたが、今回の新設コースでは時差出勤や在宅勤務など多様な働き方に対応した制度が対象となり、より申請しやすくなっています。この助成金を活用することで、多様な人材が働きやすい職場環境づくりを進め、人材確保や定着率向上につなげることができます。

本記事では、この新設コースの概要や申請方法、活用のポイントについて詳しく解説します。

2. 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コースの概要

2-1. 新設コースの趣旨と目的

この助成金は、不妊治療と仕事の両立または女性の健康課題(月経・更年期)への対応と仕事の両立に資する職場環境の整備に取り組み、利用可能な制度を導入して労働者に利用させた中小企業事業主を支援するものです。

目的は、職業生活と家庭生活との両立支援の取組を促進し、労働者の雇用安定に寄与することにあります。少子高齢化や労働力人口減少が進む中、多様な人材が働きやすい環境を整えることは企業の持続的発展にとって非常に重要です。

2-2. 助成金の種類と支給額

この助成金制度は不妊治療コース女性の健康課題対応(月経)コース女性の健康課題対応(更年期)コースの3種類に分かれています。各コースの支給額はいずれも30万円で、1つの中小企業事業主が各コースについて受給できるのは1回限りです。ただし、同一年度内(各年の4月1日から翌年3月31日まで)であれば、異なるコースを組み合わせて受給することが可能です。例えば、同じ年度内に不妊治療コースと月経コースの両方を申請することができます。これは同一の労働者が異なるコースの制度を利用した場合でも適用されます。このように、企業の状況や従業員のニーズに応じて、複数の側面から両立支援に取り組むことができる設計になっています。

3. 対象となる制度と支給要件

3-1. 対象となる両立支援制度

各コースで対象となる両立支援制度は、大きく分けて6種類あります。まず、不妊治療や女性の健康課題に対応するための「休暇制度」があります。これは年次有給休暇とは別の特別休暇として設定されるもので、多目的休暇や目的を限定しない休暇も含まれます。また「所定外労働制限制度」では残業を免除することで、治療や体調管理に必要な時間を確保します。さらに、「時差出勤制度」によって通院しやすい時間帯に勤務時間をずらしたり、「短時間勤務制度」で1日の労働時間そのものを短縮したりすることも可能です。より柔軟性の高い選択肢として「フレックスタイム制」もあり、始業・終業時刻を自ら決められるようにすることで、治療スケジュールに合わせた勤務が可能になります。そして、通勤による負担を軽減する「在宅勤務等」も対象となります。これらの制度は労働協約または就業規則に規定する必要がありますが、常時10人未満の事業所では、制度を明文化して全労働者に周知することで対応可能です。

3-2. 主な支給要件

助成金の支給を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。まず申請者は中小企業事業主であることが前提条件です。次に、上記の両立支援制度のいずれかを労働協約または就業規則に明確に規定し、あわせて制度利用に関する手続きや賃金の取扱い等についても定めておく必要があります。また、不妊治療や女性の健康課題に関する相談に応じる「両立支援担当者」を選任し、対象労働者が制度を利用し始める前日までに配置しておくことも求められます。実際の制度利用については、対象労働者が両立支援制度を合計5日(回)以上利用(※時間単位で利用した場合は、その合計時間数を所定労働時間数で割って日数に換算)していることが条件となっており、全体の利用期間は制度利用開始日から1年以内に収める必要があります。さらに、制度を利用した対象労働者は、制度利用開始日から助成金申請日まで雇用保険被保険者として継続雇用されていることも求められます。これらの要件を満たすことで、職場環境の整備と労働者の雇用安定を促進する取り組みとして、助成金の支給対象となります。

4. 各コースの特徴と詳細要件

4-1. 不妊治療コース

不妊治療コースでは、性別や雇用形態を問わず、不妊治療を行う労働者が制度を利用できるようにする必要があります。不妊治療には、妊娠を希望しても一定期間妊娠しない男女労働者が行う医学的治療のほか、不妊治療のための検査や原因となる疾患の治療、通院・移動、治療後の体調不良への対応なども含まれます。

具体的な要件として、休暇制度の場合は労働基準法の年次有給休暇は対象外ですが、失効年次有給休暇を活用する制度は対象です。短時間勤務制度の場合は、1日の所定労働時間を1時間以上短縮し、制度利用期間中の時間当たりの基本給等が制度利用前より下回らないこと、正規雇用労働者が制度利用によって雇用形態を変更されないことが必要です。

4-2. 女性の健康課題対応(月経)コース

月経コースでは、雇用形態を問わず、月経に起因する症状への対応を図る女性である者が利用できる制度である必要があります。労働基準法第68条の生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置義務は対象外ですが、この措置に対して年次有給休暇と同等の給与を支給する「有給の生理休暇」は対象となります。

月経に起因する症状への対応には、治療や通院だけでなく、体を休めることや勤務形態・時間の変更による就業継続も含まれます。制度利用の際には、月経に起因する症状への対応のために利用したことが確認できる必要があります。

4-3. 女性の健康課題対応(更年期)コース

更年期コースでは、少なくとも女性である者が利用できる制度である必要がありますが、すべての労働者が利用できる制度であれば、より望ましいとされています。更年期における心身の不調への対応には、治療や通院だけでなく、体を休めることや勤務形態・時間の変更による就業継続も含まれます。

他のコースと同様に、休暇制度、所定外労働制限制度、時差出勤制度、短時間勤務制度、フレックスタイム制、在宅勤務等の6つの制度が対象となります。制度利用の際には、更年期における心身の不調への対応のために利用したことが確認できる必要があります。

5. 申請方法と実務のポイント

5-1. 申請期間と必要書類

申請は、対象労働者の両立支援制度の利用期間が合計して5日を経過する日の翌日から2ヶ月以内に行う必要があります。申請書類は、本社等の人事労務管理機能を有する部署が属する事業所の所在地を管轄する労働局長に提出します。

申請時には、以下のような書類が必要です。

  1. 支給申請書
  2. 支給要件確認申立書
  3. 労働協約または就業規則と関連する労使協定
  4. 対象労働者の制度利用実績が確認できる書類
  5. 対象労働者の雇用形態と制度利用期間の所定労働日が確認できる書類
  6. 短時間勤務制度や有給の生理休暇制度を利用した場合は、賃金に関する書類

小規模事業場で就業規則を作成していない場合は、制度が明文化され全労働者に周知されていることを証明する書類(メール送信記録、回覧記録、掲示写真など)が必要です。

5-2. 制度導入・運用のポイント

助成金の活用に向けて、以下のポイントに注意しましょう。

  • 制度の周知と理解促進:制度を作るだけでなく、利用しやすい雰囲気づくりが重要です。特に管理職への研修を行い、理解を促進しましょう。
  • プライバシーへの配慮:不妊治療や女性の健康課題は非常にプライベートな問題です。相談窓口の設置や情報管理の徹底など、プライバシーに配慮した運用が必要です。
  • 両立支援担当者の適切な選任:制度を効果的に運用するためには、両立支援担当者の選任が重要です。社内で選任することも、社会保険労務士や産業医等の外部専門家に依頼することも可能です。
  • 記録の適切な管理:助成金申請に必要な書類(利用申請書、タイムカード、出退勤記録簿など)を適切に保管しておきましょう。特に、制度利用の目的が不妊治療や女性の健康課題対応であることが確認できる記録が重要です。

6. 助成金活用のメリットと企業への効果

6-1. 企業にとってのメリット

この助成金制度を活用することには、以下のようなメリットがあります。

  • 人材確保の面での差別化
    不妊治療や女性の健康課題に配慮した職場として企業イメージが向上し、求人活動に有利に働きます。特に、多様な働き方を求める優秀な人材の確保につながります。
  • 従業員の定着率向上
    従業員が体調不良でも働き続けられる環境を整備することで、貴重な人材の離職を防ぎ、長期的な人材育成が可能になります。
  • 職場環境の改善
    制度の導入と運用を通じて、管理者や同僚の意識が変わり、互いに配慮し合う風通しの良い職場環境が形成されます。
  • 生産性の向上
    従業員が無理をせず適切に休息をとることで、長期的には生産性向上につながります。

6-2. 企業における導入事例と効果

実際に同様の制度を導入した企業では、以下のような効果が報告されています。

例えば、フレックスタイム制と在宅勤務を組み合わせた制度を導入したA社では、不妊治療中の社員が治療スケジュールに合わせて柔軟に働けるようになり、離職を防ぐことができました。また、制度の運用を通じて社内の理解が深まり、他の社員のワークライフバランスにも好影響を与えています。

B社では、月経症状への対応のための休暇制度を導入し、女性社員の体調管理がしやすくなったことで、長期的には欠勤率の低下や業務効率の向上につながっています。また、女性が働きやすい職場として評判が広がり、女性の応募者が増加しました。

7. まとめ

2025年度から新設された「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」は、従来の不妊治療のための休暇制度を大幅に拡充し、多様な働き方に対応した支援策となっています。前年度までは不妊治療のための休暇のみが対象であり、要件も厳しかったため、活用しづらい面がありましたが、今回の改正で申請のハードルが下がりました。

この助成金を活用して両立支援制度を導入することは、単に助成金を受け取るだけでなく、多様な人材が活躍できる職場環境を整備することにつながります。それは求人活動での他社との差別化や、優秀な人材の確保・定着にも効果的です。

また、従業員にとっても、プライベートな健康課題を抱えながらも安心して働ける環境が整備されることで、離職を防ぎ、長期的なキャリア形成が可能になります。さらに、制度の導入・運用を通じて管理者や同僚の意識が変わり、互いに配慮し合う風通しの良い組織文化の醸成にもつながるでしょう。

人手不足が深刻化する中、すべての人材が能力を発揮できる職場づくりは経営課題の一つです。この助成金制度を上手に活用し、働きやすい職場環境の整備に取り組んでみてはいかがでしょうか。

当事務所では、両立支援等助成金の申請サポートを行っております。ご不明な点やご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は2025年4月時点の情報に基づいて作成しています。制度の詳細や最新情報については、厚生労働省の公式ウェブサイトや最寄りの労働局にてご確認ください。

【参考資料】

・厚生労働省「2025年度 両立支援等助成金のご案内(リーフレット)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001472912.pdf
・厚生労働省「2025年度版 両立支援等助成金支給申請の手引き(パンフレット)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001476364.pdf
・厚生労働省「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース支給要領」(https://www.mhlw.go.jp/content/001470797.pdf