もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
2024年度も残すところあと1ヶ月余りとなりました。本年度は働き方改革関連法の最終段階として、建設業・運送業・医師に対する時間外労働の上限規制が開始されるなど、重要な法改正が数多く実施された年でした。
また、2024年4月からは労働条件明示に関する新たなルールが導入され、10月には短時間労働者への社会保険適用が更に拡大されるなど、人事労務管理において大きな転換点となった年でもあります。
そこで今回は、今年度実施された主要な法改正について総点検をおこなうとともに、2025年度に向けた準備のポイントについてお伝えしたいと思います。
2. 労働条件明示の新ルールは適切に運用されていますか
2-1. 全従業員への就業場所・業務範囲の明示
2024年4月から、すべての労働者に対して就業場所と業務変更の範囲を明示することが義務付けられました。この規定は2024年4月1日以降に締結・更新する労働契約に適用されています。
実務上のポイントとして、就業場所については「○○支店」といった具体的な場所だけでなく、「会社が定める事業所」のような形で変更可能性を示すことも認められています。同様に、業務内容についても「営業職」といった具体的な職種に加えて、「会社が定める業務」といった記載も可能です。
2-2. 有期契約社員への更新上限明示
有期契約労働者については、契約更新の都度、更新上限を明示することが必要となりました。特に重要なのは、新たに更新上限を設定する場合や、既存の上限を短縮する場合には、その理由を事前に説明することが求められている点です。
説明は書面を交付したうえで面談等をおこない、労働者の理解を得ることが望ましいとされています。このプロセスを適切に実施することで、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。
2-3. 無期転換申込権の明示
無期転換申込権を持つ有期契約労働者に対しては、その権利について書面またはメールでの明示が必要となりました。実務上は、次の3点に留意する必要があります。
第一に、制度の事前周知です。更新時期を待つことなく、無期転換制度の存在を積極的に周知することが求められています。
第二に、転換後の労働条件の説明です。特に、他の正社員との処遇の違いについては、その理由も含めて丁寧な説明が必要です。
第三に、意向確認です。単なる権利の通知に留まらず、従業員の希望を確認し、必要に応じて相談に応じる体制を整えることが重要です。
3. 時間外労働の上限規制への対応は万全ですか
3-1. 建設業・運送業・医師の特別ルール
2024年4月から、建設業、自動車運転業務、医師について、時間外労働の上限規制が本格適用されました。しかし、各業界の特性を考慮して、一般則とは異なる特別なルールが設けられています。
建設業については、災害復旧・復興事業を除き、年960時間を上限とする規制が適用されています。運送業では、年間960時間という上限に加えて、改善基準告示による拘束時間の制限も同時に守る必要があります。医師については、一般勤務医(A水準)、救急医療従事者(B水準)、研修医(C水準)といった区分に応じて、異なる上限時間が設定されています。
3-2. 各業界における実務上の注意点
実務対応として特に重要なのは、適切な労働時間管理体制の構築です。例えば、建設業では現場ごとの労働時間を正確に把握し、年間を通じた調整が必要となります。運送業では、運行記録計の管理に加えて、拘束時間の適切な管理が求められます。
医療機関では、医師の区分(A・B・C水準)を適切に把握し、それぞれの上限時間を遵守する体制を整備する必要があります。特に、面接指導等の健康確保措置は確実に実施することが求められます。
4. 社会保険・労働保険の制度改正への対応状況
4-1. 障害者雇用率の引き上げ対応
2024年4月から障害者の法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられ、対象となる事業主の範囲も従業員43.5人以上から40人以上に拡大されました。
実務上の対応として、まず現在の雇用状況を確認し、必要に応じて採用計画を立てる必要があります。また、重度障害者や精神障害者の短時間勤務に関する算定方法も変更されていますので、雇用率の再計算が必要かもしれません。
4-2. 労災保険料率の改定と実務
2024年4月からは労災保険料率が改定され、54業種中20業種で変更がありました。このうち17業種で引き下げ、3業種で引き上げとなっています。例えば、食料品製造業では6/1000から5.5/1000に引き下げられ、電気機械器具製造業では2.5/1000から3/1000に引き上げられています。
実務上は、適用される保険料率の確認と、必要に応じた算定基礎届の修正が必要です。特に、年度途中での業種変更がある場合は、月割での計算が必要となりますので注意が必要です。
4-3. 短時間労働者の社会保険適用拡大
2024年10月から、従業員51人以上の企業において、一定の要件を満たす短時間労働者への社会保険の適用が義務化されました。具体的には、週20時間以上勤務で、月額賃金8.8万円以上、2ヶ月を超える雇用見込みがある非学生の労働者が対象となります。
本制度改正への対応として、対象者の適切な把握と、必要な手続きの実施が重要です。特に、労働者の働き方や賃金の変更に伴い、適用対象となるケースもありますので、継続的なモニタリングが必要です。
5. 2025年度に向けた準備のポイント
5-1. 65歳継続雇用制度の完全義務化
2025年4月からは、65歳までの継続雇用確保措置が完全義務化されます。これまでの制度からの主な変更点は、継続雇用を希望する労働者全員を65歳まで雇用することが必要となる点です。
実務上の準備として、就業規則の改定や、継続雇用時の労働条件の整備が必要です。特に、賃金制度や評価制度について、60歳以降の従業員の戦力化を見据えた見直しを検討する必要があるでしょう。
5-2. 高年齢雇用継続給付の見直し
65歳までの継続雇用義務化に伴い、高年齢雇用継続給付も見直されます。具体的には、支給率が賃金の最大15%から最大10%に縮小されます。
この変更により、60歳以降の従業員の実収入に影響が出る可能性があります。人材確保の観点からも、自社の賃金制度の見直しを検討する必要があるかもしれません。
5-3. 障害者雇用除外率の引き下げ
2025年4月からは、障害者雇用の除外率が全業種で10ポイント引き下げられます。この変更により、実質的な障害者雇用義務数が増加する事業所も出てくることが予想されます。
早めに自社への影響を確認し、必要に応じて採用計画や職場環境の整備を進めることをお勧めします。
6. まとめ
2024年度は働き方改革の総仕上げの年として、様々な法改正が実施されました。各企業におかれましては、これらの改正への対応状況を今一度確認していただければと思います。
また、2025年度に向けては、特に高年齢者雇用に関する制度改正への準備が重要となります。自社の実情に応じた制度設計と、計画的な準備を進めていただければと思います。
なお、本記事でご紹介した内容についてご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。今後とも、皆様の人事労務管理のお役に立てるよう、最新の情報提供に努めてまいります。