この記事の内容をAI「Gemini Notebook」が音声で解説しています。
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
日本の労働市場では、60歳を超えても現役で働き続ける人が年々増えています。それに伴い、企業にとって高年齢の従業員が安全に、そして長く活躍できる職場環境を整えることは、避けて通れない経営課題になりつつあります。厚生労働省では、こうした状況を踏まえ、中小企業事業者が高年齢労働者の労働災害防止に取り組む際の経費を補助する制度を毎年度実施しています。本記事では、2026年度に実施される「エイジフレンドリー補助金」の内容を、実務担当者の視点でわかりやすく整理してご紹介します。
2. 高年齢労働者の労働災害はなぜ増えているのか
厚生労働省が公表している労働災害発生状況によれば、労働災害の発生率は年齢が上がるほど高くなる傾向があり、特に転倒や墜落・転落、動作の反動や無理な動作による災害は加齢とともに増加する傾向が明らかになっています。ある労働局の分析でも、50歳以上の労働者が被災した災害が全体の半数を超え、60歳以上の労働者だけでも約3割を占めるとされており、高齢化が進む職場ほど、この課題への対応は急務といえます。
こうした背景から、国は「高年齢者の労働災害防止のための指針」を定め、安全衛生管理体制の確立や職場環境の改善、体力の状況把握など5つの柱に沿った取り組みを企業に促しています。今回ご紹介する補助金は、この指針に沿った具体的な対策を後押しするための資金支援策と位置づけられています。

3. 2026年度エイジフレンドリー補助金の概要
3-1. 対象となる事業者の要件
この補助金の対象となるのは、1年以上事業を継続しており、役員を除いた自社の労災保険適用の高年齢労働者(60歳以上)が常時1名以上就労している中小企業事業者です。ここでいう中小企業の範囲は業種ごとに定められており、たとえば製造業や建設業などは資本金3億円以下または常時使用する労働者300人以下、小売業であれば資本金5千万円以下または労働者50人以下といった基準が設けられています。自社が対象に該当するかどうかは、業種と規模の両面から確認しておく必要があります。
なお、交付は1つの事業者につき年度内1回限りとされており、複数のコースを同時に申請することはできません。また過去に同一の対策で補助を受けている場合、同じ内容での再申請は認められない点にも注意が必要です。
3-2. 用意されている3つの支援コース
補助制度は大きく3つのコースで構成されています。1つ目は、外部の専門家によるリスクアセクスメントとその結果を踏まえた職場環境改善や運動指導等を支援する「専門家総合対策コース」です。2つ目は、暑熱な環境下での熱中症予防のための機器導入を支援する「熱中症対策コース」、3つ目は、医療保険者と連携した健康保持増進の取り組みを支援する「コラボヘルスコース」です。それぞれ補助率や上限額が異なるため、自社の課題に合ったコースを選ぶことが重要です。

4. 専門家総合対策コースの活用ポイント
4-1. 第1段階:リスクアセスメントの実施
専門家総合対策コースは二段階に分かれています。第1段階では、労働安全コンサルタントや労働衛生コンサルタントなど、労働安全衛生に係る専門家に依頼し、高年齢労働者の特性を考慮したリスクアセスメントを受けます。この段階の経費については補助率5分の4、上限100万円という手厚い支援が設けられています。なお、外部専門家に依頼せず、自社の安全管理者や衛生管理者などがリスクアセスメントを実施し、安全衛生委員会等で審議した記録を残すことで、この第1段階を経ずに直接第2段階から申請することも可能です。ただし、その場合は自社実施分の経費は補助対象になりません。 また、本補助金の全体的な交付申請の受付期限は10月31日ですが、この「第1段階」の申請期限に限っては8月31日と早く設定されています。活用をご検討の企業様は、特に早めのスケジュール調整が必要です。
4-2. 第2段階:職場環境改善・運動指導等の実施
第2段階では、第1段階のリスクアセスメント結果を踏まえて、優先順位の高い労働災害防止対策を実施します。具体的には、通路の段差解消や滑り止め対策、手すりの設置といった転倒・墜落防止対策、重量物搬送機器やアシストスーツの導入といった重量物取扱いや介護作業における負担軽減対策、業務用車両への踏み間違い防止装置の導入などが対象となります。補助率は2分の1で、上限は第1段階と合わせて100万円です。
また、リスクアセスメントの結果を踏まえて、高年齢労働者を含む全ての労働者を対象にした転倒防止・腰痛予防のための運動指導を行う場合も、このコースの対象になります。専門家による身体機能のチェック、それに基づく運動指導、そして効果確認のための再チェックという一連の流れをすべて対面で実施することが条件とされており、オンラインでの実施やマッサージ等の施術は対象外となる点は押さえておきたいポイントです。
5. 熱中症対策コースとコラボヘルスコースのポイント
熱中症対策コースは、屋外作業や、温湿度調整を行ってもなお室温31度またはWBGT28度を超える屋内作業に従事する60歳以上の労働者を対象に、体温を下げる機能のある作業服やスポットクーラー、アイススラリーを保冷するための専用ストッカーなどの導入経費を補助率2分の1、上限100万円で支援するものです。一般的な保冷剤や扇風機、大容量のエアコンなどは対象外とされているため、製品選びの際には注意が必要です。さらに屋内作業で申請する場合、「炉があるため空間全体での温湿度調整ができない」など、温湿度調整を行っても基準を下回らない具体的な理由を説明する必要があります。
一方コラボヘルスコースは、事業主が実施した健康診断結果を医療保険者に提供していることを前提に、その結果を活用した禁煙指導やメンタルヘルス対策等の健康教育、栄養・保健指導、健康診断データを電磁的に管理するシステムの導入初期費用などを補助率4分の3、上限30万円で支援します。単なる健康診断そのものの実施費用や、パソコンなどの電子機器の購入費は対象にならない点も確認しておきましょう。
6. 申請にあたって注意しておきたいこと
この補助金で最も注意すべき点は、交付決定を受ける前に発注や契約、購入を行うと、いかなる理由があっても補助対象外になってしまうことです。また、取組が完了する前に代金を支払ういわゆる前払いも認められません。申請から交付決定までには一定の期間を要するため、機器の導入や工事を急ぎたい場合ほど、早めに準備を始めることが大切です。加えて、予算額に達した時点で受付期間の途中であっても申請受付が終了する可能性がある点も踏まえ、計画的なスケジュール管理を心がけたいところです。 また、交付決定後に機器の導入等を終えた後は、2027年1月31日(当日消印有効)までに「実績報告書及び精算払請求書」を提出して精算手続きを行う必要があります。期限を過ぎると補助金が支払われないため、最後まで注意が必要です。
申請書類の提出は、電子申請システムまたは郵送により事業者自身が行う必要があり、機器の販売業者や工事の施工業者による代理提出は認められていません。また、私たち社会保険労務士が提出を代行することも不可とされていますので、ご注意ください。書類の不備や、交付決定内容と実際の取組内容に相違があると補助金が支払われないケースもあるため、社内の総務・経理部門も含めた体制で、慎重に準備を進めることをおすすめします。

7. まとめ
高年齢労働者が安心して長く働ける職場をつくることは、人材確保が難しくなる中で企業の競争力にも直結するテーマです。今回ご紹介した補助金は、リスクアセスメントから設備改善、熱中症対策、健康増進の取り組みまで幅広くカバーしており、自社の職場環境を見直すよい機会になるはずです。制度の詳細や最新の様式については、必ず厚生労働省および補助金事務センターの公式ホームページをご確認のうえ、計画的に検討を進めていただければと思います。
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