もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
今回は、景気の変動や産業構造の変化などの経済上の理由により事業活動の一時的な縮小を余儀なくされた事業主の方が、生産性向上に資する取組を行い、そのために必要な新たな人材を雇い入れる場合に活用できる「産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)」についてご紹介いたします。
この助成金は、企業の生産性向上の取組と人材確保を同時に支援する制度で、特に事業再構築や生産性向上を図ろうとしている中小企業の方々にとって有益な制度です。2025年度も継続して実施されている本制度について、助成金の対象となる事業主や労働者の要件、助成内容、申請手続きなどを詳しく解説します。
2. 産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)の概要
2-1. 制度の目的と背景
産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)は、企業が経済情勢の変化に対応しながら生産性向上に取り組む際の人材確保を支援するための制度です。特に、事業再構築補助金やものづくり補助金の採択を受けた企業が、その計画実施に必要な専門人材を確保する場合に、その人件費の一部を助成することで、企業の競争力強化と雇用創出の両立を図ることを目的としています。
近年の経済環境の変化や技術革新の加速に伴い、企業には事業転換やデジタル化など、生産性向上に向けた取組が求められています。このような背景から、厚生労働省ではこの助成金を通じて、企業の生産性向上のための投資と専門人材の確保を一体的に支援しています。
2-2. 制度の全体像と他の助成金との関係
この産業連携人材確保等支援コースは、産業雇用安定助成金の一つのコースとして位置づけられています。特徴的なのは、事業再構築補助金やものづくり補助金という「投資支援」と連携している点です。つまり、設備投資や事業転換のための補助金を受けつつ、それを実行するための人材確保も支援する、という2段階の支援策となっています。
企業が生産性向上や事業再構築に取り組む際には、設備投資だけでなく、それを実現するための人材確保も重要な課題です。この助成金は、そのような企業の人材面での負担を軽減し、より効果的に事業変革を進めることができるよう設計されています。既存の雇用関係助成金とは異なり、企業の成長戦略に直結した人材確保を支援する点が大きな特徴と言えるでしょう。
3. 助成金の対象となる事業主の要件
この助成金を受給するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
まず第一に、独立行政法人中小企業基盤整備機構の実施する「事業再構築補助金」の第12回・第13回公募における「成長分野進出枠(通常類型)」、またはものづくり補助金事務局の実施する「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の第17次以降の「製品・サービス高付加価値化枠」の事業計画書の申請を行い、交付決定を受けていることが必要です。ただし、事業計画に記載する「実施体制」の中に人材確保に関する事項を記載している場合に限ります。
次に、補助金の申請日の属する月の前々々月から前月の3か月間の月平均値で、生産量、販売量、売上高等の事業活動を示す指標が、前年同期と比べて10%以上減少していることが条件となります。
また、雇用保険の一般被保険者または高年齢被保険者として、期間の定めのない労働契約で労働者(パートタイム労働者は除く)を雇い入れることが必要です。この雇入れは、事業再構築補助金またはものづくり補助金の補助事業実施期間内に行う必要があります。
さらに、対象労働者に対して1年間(助成対象期間)に350万円以上の賃金を支払っていることや、雇入れ日前6か月から本助成金の支給申請までの期間に雇用する労働者を解雇等していないことなど、複数の要件を満たす必要があります。
4. 助成金の対象となる労働者の要件
助成金の対象となる労働者は、事業再構築補助金またはものづくり補助金の交付決定を受けた生産性向上等に係る業務に就く者である必要があります。具体的には、専門的な知識や技術が必要となる企画・立案業務に従事する方や、教育訓練などの指導に携わる方が対象となります。また、部下を指揮監督する業務に従事する方であれば、係長相当職以上(名称にかかわらず、その方の部下として1階職以上の従業員を有する立場)の方も対象となります。
これらの対象労働者には、年間を通じて十分な処遇が確保されていることも重要です。具体的には、1年間に350万円以上の賃金が支払われることが条件となります。この賃金には時間外手当と休日手当は含まれず、毎月決まって支払われる基本給と諸手当に限定されます。企業が専門人材や管理職人材に対して適切な処遇を行うことを前提とした助成制度となっているのです。
5. 助成金の支給額と支給方法
助成金の支給額は、対象労働者に支払われた賃金の一部に相当する額として、一人当たり以下の金額が支給されます。
ここで言う「中小企業」とは、業種によって以下のように定義されています。
助成金は、雇入れから6か月を支給対象期の第1期、次の6か月を第2期として、6か月ごとに2回に分けて支給されます。一事業主あたり5人分の支給が上限となります。
6. 助成金の申請手続きと注意点
6-1. 申請の流れ
助成金の申請手続きは、まず事業再構築補助金またはものづくり補助金の事業計画書を申請し、その採択・交付決定を受けることから始まります。交付決定後、補助事業実施期間内に対象労働者を雇い入れます。雇入れから6か月経過後、第1期の支給申請を行うことができます。申請書類は事業所の所在地を管轄する労働局またはハローワークに提出します。
提出された申請書類は、労働局等で内容の調査・確認が行われ、要件を満たしていると判断されれば支給決定となり、指定の口座に助成金が振り込まれます。第1期の支給決定後、さらに6か月経過した時点で第2期の支給申請を行うことができます。なお、支給申請の期限は、各支給対象期の末日の翌日から2か月以内となっていますので、期限を過ぎないよう注意が必要です。
6-2. 申請時の注意点
申請時には以下の点に注意が必要です。
第1期支給対象期の支給申請は、助成対象期間を通じて支給要件を満たすことを前提としたものです。そのため、第1期支給対象期の支給決定後に、助成対象期間に支払われた賃金額が350万円に満たなかった場合など、支給要件を満たさないことが判明した場合は、既に支給された助成金の返還が必要となります。
また、支給決定までの間に対象労働者が離職した場合は、原則不支給となります。第1期支給対象期の支給決定後に対象労働者が離職した場合も、既に支給された助成金の返還が必要となりますので注意が必要です。
7. 助成金を受給できない場合(不支給要件)
助成金の対象事業主の要件を満たしていても、特定の状況では受給できない場合があります。例えば、雇入れ日の前日から過去3年間に雇用関係があった方を再雇用する場合や、対象労働者が事業主または取締役の3親等以内の親族(配偶者、3親等以内の血族や姻族)である場合は助成金の対象外となります。また、賃金の支払いが期日までに行われていない場合も支給されません。
過去に雇用関係助成金で不正受給があった事業主や、労働関係法令違反で送検処分を受けた事業主も対象外です。さらに、風俗営業等関係事業主や、暴力団関係事業主、申請時に倒産している事業主なども受給できません。
これらの不支給要件は多岐にわたるため、申請前に自社が該当しないかを十分に確認することが重要です。不明な点がある場合は、事前に労働局やハローワークに相談することをお勧めします。
8. まとめ
産業雇用安定助成金(産業連携人材確保等支援コース)は、事業再構築や生産性向上に取り組む企業が、そのために必要な専門人材を確保する際の支援制度です。中小企業の場合、一人当たり最大250万円の助成を受けることができます。
この助成金を活用するためには、事業再構築補助金やものづくり補助金の交付決定を受けていることが前提条件となりますので、まずはそれらの補助金の申請を検討されるとよいでしょう。また、専門的な知識や技術が必要な業務に従事する人材、または管理職として部下を指揮監督する人材を雇い入れることが条件となっています。
申請手続きや要件の詳細については、お近くの労働局やハローワークにお問い合わせいただくか、厚生労働省のホームページでご確認ください。生産性向上と人材確保を同時に支援するこの制度を、ぜひ企業の成長戦略に活用していただければと思います。
※本記事の内容は2025年4月現在の情報に基づいています。制度は予告なく変更されることがありますので、最新の情報については必ず厚生労働省、都道府県労働局、ハローワークのホームページなどでご確認ください。
【参考情報】