正社員化で会社も従業員も強くなる~2026年度版キャリアアップ助成金活用ガイド~

 この記事の内容をAI「Gemini Notebook」が音声で解説しています。

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

人手不足が続くなか、パートや契約社員として働く従業員に長く活躍してもらうために、正社員登用や待遇改善を検討している企業は少なくありません。しかし「正社員転換や賃上げをすると人件費負担が重くなる」と二の足を踏むケースも多いはずです。

こうした取り組みを後押しする国の制度が「キャリアアップ助成金」です。有期雇用労働者やパートタイマー、派遣労働者といった非正規雇用の従業員を正社員に転換したり、賃金規定を整備して待遇を改善したりした事業主に対して、費用の一部が助成されます。本記事では、2026年度版(厚生労働省パンフレットに基づく令和8年4月8日時点の内容)の制度概要を、経営者や人事担当者の方に向けて整理してご紹介します。

2. 制度の全体像を理解する

2-1. キャリアアップ助成金とはどのような制度か

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者の企業内での処遇改善やキャリアアップを促進するために設けられた助成制度です。財源は全額事業主負担の雇用保険二事業でまかなわれており、正社員転換や賃金の引き上げ、共通の賃金規定の整備、賞与・退職金制度の導入、短時間労働者の労働時間延長といった取り組みに対して支給されます。

対象となる事業主には、雇用保険適用事業所であること、事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置していること、対象労働者に関する「キャリアアップ計画」を作成し労働局へ提出していることなど、いくつかの共通要件があります。一方で、労働保険料を滞納している事業主や、申請日の前日から過去1年間に労働関係法令違反があった事業主などは対象外となる点にも注意が必要です。

2-2. 2026年度版で押さえておきたいポイント

2026年4月8日以降の取り組みからは、正社員転換に関する情報を自社のウェブサイトや厚生労働省の運営する「職場情報総合サイト(しょくばらぼ)」で公開した場合に加算を受けられる「情報公表加算」が新設されました。転換制度の概要や直近3事業年度の転換実績、転換までの平均期間などを公表することが要件となっており、中小企業では1事業所あたり20万円(大企業は15万円)が加算されます。情報開示を通じた企業の透明性向上を後押しする狙いがあるとみられます。

3. 活用できる5つのコース

3-1. 正社員化コース

就業規則や労働協約に定めた制度に基づいて、有期雇用労働者などを正社員に転換した場合に助成されるコースです。助成額は転換前の雇用形態や企業規模、対象者の属性によって異なり、雇い入れから3年以上勤務しているなど「重点支援対象者」に該当する場合は支給額が手厚くなります。中小企業が有期雇用労働者を重点支援対象者として正社員化した場合、最大80万円(40万円を2期に分けて支給)が支給される仕組みです。

このほか、正社員転換制度を新たに規定した場合や、勤務地限定・職務限定・短時間正社員といった多様な正社員制度を新設した場合には、それぞれ加算措置も用意されています。支給を受けるには、転換後6か月間の基本給および固定手当などの賃金総額を転換前6か月間と比べて3%以上増額させる必要がある点は、特に注意しておきたいポイントです。

3-2. 賃金規定等改定コース

有期雇用労働者などの基本給に関する賃金規定を3%以上増額改定し、実際に適用した場合に助成されるコースです。賃金の引き上げ率に応じて支給額が段階的に設定されており、引き上げ率が高いほど支給額も大きくなります。また、職務の内容や責任の程度を客観的に評価する「職務評価」の手法を用いて賃金規定を改定した場合や、新たに昇給制度を規定した場合には、それぞれ追加の加算を受けることができます。

3-3. 賃金規定等共通化コース

有期雇用労働者などに対して、正社員と共通の基準に基づく賃金規定を新たに作成し適用した場合に助成されるコースです。正社員と非正規雇用労働者の賃金区分をそれぞれ3区分以上設け、うち2区分以上を共通化することなどが要件となります。中小企業であれば1事業所あたり60万円が支給されます。

3-4. 賞与・退職金制度導入コース

すべての有期雇用労働者などを対象に、賞与または退職金制度を新たに設け、実際に一定額以上の賞与の支給または退職金の積み立てを行った場合に助成されるコースです。賞与・退職金のいずれか一方を導入した場合と、両方を同時に導入した場合とで支給額が異なり、同時導入のほうがより高い金額が支給されます。退職金制度については、積立や拠出にかかる費用を全額事業主が負担する仕組みであることが要件となる点に留意が必要です。

3-5. 短時間労働者労働時間延長支援コース

短時間労働者を新たに社会保険に加入させるとともに、週の所定労働時間を延長するなどの取り組みを行った場合に助成されるコースです。1年目の取り組みに加えて、2年目にさらに労働時間を延長したり、基本給を増額したりすることで、追加の助成を受けることもできます。いわゆる「年収の壁」を意識して労働時間を抑えていた従業員の働き方を見直すきっかけとしても活用できる制度といえます。

4. 申請の基本的な流れ

いずれのコースも、まず取り組みを始める前日までに「キャリアアップ計画書」を作成し、事業所を管轄する労働局に提出することが前提となります。計画書を提出しないまま取り組みを進めてしまうと、原則として助成金を受けることができないため、この順序を誤らないよう注意が必要です。

計画書の受理後、正社員転換や賃金規定の改定といった取り組みを実際に行い、その後6か月分の賃金を支払った段階で、支給申請書と必要書類を提出します。申請期間は、6か月目の給与が実際に支払われた日の翌日から起算して2か月以内と定められており、期限を過ぎると申請できなくなるため、スケジュール管理が重要です。

なお、近年は「雇用関係助成金ポータル」を通じた電子申請が推奨されており、GビズIDを取得しておくことで、申請の都度、事業所の基本情報を入力する手間を省くことができます。電子申請を利用する場合は、取り組みを始める前にIDの準備を済ませておくとスムーズです。

5. 申請にあたっての注意点

助成金の申請にあたっては、いくつか気をつけておきたい点があります。まず、非正規雇用労働者の処遇改善という制度趣旨に沿わない取り組みと判断された場合には、不支給となることがあります。たとえば、賃金の引き上げが一時的なものにとどまり、実質的な処遇改善につながっていないと見なされるケースなどが該当します。

また、提出した書類は原則として差し替えができないため、申請前に記載内容や添付書類に誤りがないか十分に確認しておくことが大切です。実際に、担当者や外部の代行者に手続きを任せきりにしていたことが原因で、就業規則や雇用契約書の内容に矛盾が生じ、不正受給と判断されてしまった事例も報告されています。代表者が意図していなかった場合であっても、申請書に事業主の確認印がある以上は事業主としての責任が生じる点は理解しておく必要があります。

支給決定を受けた後も、提出書類の写しなどは支給決定日の翌日から起算して5年間保存する義務があるため、書類管理の体制を整えておくことも欠かせません。制度の詳細や自社の要件への該当状況について疑問がある場合は、管轄の労働局やハローワークに相談できるほか、無料で相談やコンサルティングを受けられる「働き方改革推進支援センター」の活用も選択肢のひとつです。

6. まとめ

キャリアアップ助成金は、非正規雇用の従業員の正社員化や待遇改善に取り組む企業を支援する制度であり、正社員化コースをはじめとした5つのコースがそれぞれ異なる要件と支給額で用意されています。2026年度版では情報公表加算が新設されるなど、内容は年度によって変更が加えられるため、取り組みを検討する際は必ず最新のパンフレットや要領を確認することが重要です。

制度を正しく理解し、計画書の提出から申請までの手順を丁寧に踏むことで、人材の定着や働きやすい職場づくりにつながる取り組みを、無理のない形で進めていくことができるはずです。自社の状況に照らして、どのコースが活用できそうか、まずは要件の確認から始めてみてはいかがでしょうか。


出典・参考情報

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