もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
近年、働き方改革の推進とともに注目を集めているのが女性活躍推進法です。この法律は2016年4月から全面施行され、企業規模に応じて様々な義務が課されています。特に2022年7月からは、常時雇用する労働者が301人以上の企業において男女の賃金格差の公表が義務化されるなど、企業にとってより具体的な対応が求められています。
中小企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、この法律への対応は複雑に感じられるかもしれません。しかし、女性活躍推進は単なる法的義務の履行にとどまらず、人材確保や企業価値向上、生産性向上につながる重要な経営戦略でもあります。本記事では、女性活躍推進法の仕組みから具体的な対応方法まで、実務に役立つ情報を分かりやすく解説いたします。
2. 女性活躍推進法の基本的な仕組み
2-1. 法律制定の背景と目的
女性活躍推進法が制定された背景には、日本が直面する深刻な社会問題があります。急速な少子高齢化により生産年齢人口が減少する中、女性の労働参加率向上は国全体の重要課題となっています。現在でも女性の就業率は上昇傾向にありますが、管理職に占める女性の割合は約11.7%と国際的に見て依然として低い水準にあります。
この法律の正式名称は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」であり、2025年度末までの時限立法として制定されています。法律の目的は、女性が個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することであり、企業にとっては優秀な人材の確保と競争力強化につながる重要な取り組みです。
2-2. 対象事業主と義務内容の違い
女性活躍推進法では、企業規模に応じて義務の内容が段階的に設定されています。常時雇用する労働者数が301人以上の企業には最も包括的な義務が課され、101人以上300人以下の企業には一部の義務が、100人以下の企業には努力義務が課されています。
301人以上の企業では、女性活躍に関する状況把握と課題分析、数値目標を含む一般事業主行動計画の策定、計画の社内周知と公表、都道府県労働局への届出、そして女性活躍に関する情報の公表が義務となります。また、2022年7月からは男女の賃金格差の公表も必須項目として追加されました。
101人以上300人以下の企業についても、基本的には同様の義務が課されますが、情報公表項目数などで一部軽減措置があります。100人以下の中小企業については努力義務となっているものの、公共調達における優遇措置の対象となるため、積極的な取り組みが推奨されています。
3. 中小企業が対応すべき具体的な義務
3-1. 状況把握と課題分析のポイント
女性活躍推進への第一歩は、自社の現状を正確に把握することです。法律では基礎項目として4つの指標の把握が義務付けられています。まず、採用した労働者に占める女性労働者の割合を算出し、男女間で採用に偏りがないかを確認します。次に、男女の平均継続勤務年数の差異を把握し、女性の定着率に問題がないかを分析します。
労働時間の状況把握も重要な要素です。各月の平均残業時間を算出し、長時間労働が女性の活躍を阻害していないかを検証します。最後に、管理職に占める女性労働者の割合を確認し、昇進・登用面での課題を明らかにします。これらの基礎項目に加えて、必要に応じて育児休業取得率や職場風土に関する意識調査なども実施し、より詳細な課題分析を行うことが効果的です。
課題分析では単に数値を把握するだけでなく、なぜその結果になったのかという原因を深掘りすることが重要です。例えば、女性の管理職比率が低い場合、採用時点での女性比率が低いのか、途中での離職率が高いのか、昇進機会が限られているのかなど、段階的に分析を進めます。
3-2. 一般事業主行動計画の策定手順
状況把握と課題分析の結果を踏まえて、具体的な改善に向けた行動計画を策定します。行動計画には計画期間、数値目標、取組内容、実施時期の4つの要素を盛り込む必要があります。計画期間は2年から5年程度で設定し、定期的に進捗を検証しながら改定を行います。
数値目標の設定では、301人以上の企業の場合、「職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備」の両区分から各1項目以上を選択する必要があります。例えば、管理職に占める女性比率を現在の8%から3年後に15%に向上させるといった具体的で測定可能な目標を設定します。
取組内容については、目標達成に向けて実施する具体的な施策を明記します。女性管理職比率向上が目標であれば、女性社員向けキャリア研修の実施、メンター制度の導入、育児と仕事の両立支援制度の充実、長時間労働の是正などを組み合わせた包括的な取り組みを計画します。実施時期も含めて明確に定め、PDCAサイクルを回せる体制を整備することが重要です。
3-3. 情報公表の要件と注意点
策定した行動計画は社内周知と外部公表が義務となります。社内周知では、非正規社員を含む全ての労働者が内容を理解できるよう、適切な方法で周知を行います。外部公表については、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社ホームページを活用して、求職者や投資家、消費者が容易に閲覧できる状態にする必要があります。
情報公表では、301人以上の企業は男女の賃金の差異を含む3項目以上を公表しなければなりません。101人以上300人以下の企業は1項目以上の情報公表が義務、100人以下の企業では努力義務となっています。公表する情報は年1回以上更新し、情報の更新時点を明記することが求められます。単に数値を公表するだけでなく、自社の取り組み状況や改善に向けた方針なども併せて公表することで、企業の姿勢をアピールできます。
4. 男女の賃金格差公表義務への対応
4-1. 公表が義務化された背景
2022年7月から、常時雇用する労働者が301人以上の企業において男女の賃金格差の公表が義務化されました。これは、女性活躍推進の成果を客観的に測定する重要な指標として位置づけられており、諸外国と比較して日本の男女間賃金格差が大きいという課題を受けての措置です。
日本の男女間賃金格差の主な要因は、管理職比率の違い、勤続年数の差、労働時間の違いなどが挙げられています。企業においては、この公表義務を単なる法的要件として捉えるのではなく、自社の人事制度や職場環境を見直す機会として活用することが重要です。
4-2. 算出方法と公表の実務
男女の賃金格差は、全労働者、正規雇用労働者、非正規雇用労働者の3つの区分で算出し、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除した割合(パーセント)で表示します。算出に用いる賃金には、基本給、諸手当、賞与などを含む一方、退職手当や通勤手当は企業の判断で除外することも可能です。
算出の前提となる重要事項として、賃金から除外した手当の具体的名称、各区分に含まれる労働者の定義、対象期間などを明記する必要があります。また、数値だけでは伝わりにくい自社の実情について、女性活躍推進の取り組み状況や格差が生じる背景、改善に向けた取り組み方針などを説明欄で補足することが推奨されています。
公表にあたっては、比較可能な実績を示すことが重要であり、算出方法を変更する場合はその旨と理由を明記する必要があります。この情報は求職者の企業選択に大きな影響を与える可能性があるため、正確で分かりやすい公表を心がけることが重要です。
5. 認定制度の活用メリット
5-1. えるぼし認定とプラチナえるぼし認定
女性活躍推進法では、取り組みが優良な企業を認定する制度が設けられています。「えるぼし」認定は3段階に分かれており、評価基準を満たす項目数に応じて1つ星から3つ星までの認定を受けることができます。さらに、えるぼし認定を受けた企業のうち、特に優良な取り組みを行っている企業は「プラチナえるぼし」認定を受けることができます。
認定基準には、採用における男女の競争倍率、継続就業に関する指標、労働時間の状況、管理職比率、多様なキャリアコースの整備状況の5つの項目があります。プラチナえるぼし認定を受けた企業は、行動計画の策定義務が免除される特例も設けられています。
5-2. 認定取得による企業メリット
認定を取得した企業は、認定マークを商品や広告、求人などに使用することができ、女性活躍推進企業であることを対外的にアピールできます。これにより、優秀な人材の確保や企業イメージの向上、顧客や投資家からの評価向上などの効果が期待できます。
また、公共調達において加点評価の対象となるため、官公庁の入札で有利になる可能性があります。100人以下の中小企業の場合、行動計画を策定・届出するだけでも加点の対象となります。さらに、日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」を通常よりも低金利で利用できるなど、具体的な経済メリットも用意されています。

(出典:厚生労働省ホームページ)
6. まとめ
女性活躍推進法への対応は、単なる法的義務の履行を超えて、企業の持続的成長につながる重要な経営戦略です。少子高齢化により労働力不足が深刻化する中、女性の能力を最大限活用できる企業こそが競争優位を確保できると言えるでしょう。
中小企業においても、段階的なアプローチで着実に取り組みを進めることが重要です。まずは自社の現状を正確に把握し、課題を明確にした上で、実現可能な目標設定と具体的な取り組み計画を策定します。そして、継続的な改善を通じて女性が活躍できる職場環境を整備していくことで、法的要件を満たしながら企業価値の向上も実現できます。
厚生労働省では「民間企業における女性活躍促進事業」として、女性活躍推進アドバイザーによる無料相談や各種セミナーを実施しています。また、中小企業向けの行動計画策定プログラムも提供されているため、これらの支援制度を積極的に活用することをお勧めします。
女性活躍推進は一朝一夕に実現できるものではありませんが、組織全体で継続的に取り組むことで、必ず成果を上げることができます。法的義務への対応を機に、より魅力的で持続可能な職場づくりを進めていただければと思います。私たち社会保険労務士は、皆様の取組を全力でサポートいたします。お困りの際は、ぜひご相談ください。
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