もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
深刻化する人手不足は、多くの業種において重要な経営課題となっています。特に、製造業、建設業、介護、農業などの分野では、新規入職者の確保が困難な状況が続いており、事業の継続に支障が出ているとの声を多く耳にします。
こうした状況の中、外国人材の活用は人手不足解消の有効な手段として注目されています。しかし、外国人材の雇用には在留資格(ビザ)の確認や、適切な労務管理など、日本人材の雇用とは異なる知識や対応が必要となります。
本記事では、特に外国人材の受入れが進んでいる建設業の事例を中心に、技能実習制度と特定技能制度について解説します。なお、ここでご説明する内容の多くは、製造業やサービス業など他の業種にも共通して当てはまるものですので、業種を問わず参考にしていただければ幸いです。
2. 外国人材の受入れ動向と現状
2-1. 在留外国人数の推移
法務省の最新の統計によると、2023年末時点での在留外国人数は約341万人となっています。この数字は、新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に減少した2020年から2021年の期間を経て、その後急速に回復し、さらに増加を続けているものです。
特に注目すべきは、就労目的の在留資格である「技能実習」が約28.1万人、「特定技能」が約20万人と、着実に増加していることです。また、2024年10月の統計では、特定技能の在留外国人数が増加傾向にあることが確認されています。さらに、2025年1月の厚労省の統計によると、日本の外国人労働者数は2024年10月時点で230万人に達し、前年比12.4%増加しています。この背景には、深刻化する人手不足に対応するため、政府が外国人材の受入れ拡大に向けた施策を積極的に進めていることがあります。
2-2. 建設業における人材不足と外国人材の必要性
建設業界の人手不足は、他業種と比較しても特に深刻な状況にあります。国土交通省の調査によれば、建設業就業者の約3割が55歳以上であり、今後10年間で大量の退職が見込まれています。一方で、若手入職者は減少傾向が続いており、このままでは2025年度には建設技能労働者が約77万人不足すると予測されています。
このような状況に対応するため、建設業界では外国人材の活用が進められています。特に、2019年4月に新設された特定技能制度により、より多くの外国人材が建設現場で働けるようになりました。
3. 外国人雇用の基礎知識
3-1. 在留資格制度の概要
外国人を雇用する際に最も重要なのが、在留資格(ビザ)の確認です。在留資格は、その性質によって大きく三つのカテゴリーに分類されます。
まず、「永住者」「日本人の配偶者等」「定住者」といった身分・地位に基づく在留資格があります。これらの在留資格を持つ外国人は、就労に関する制限がなく、建設現場での作業を含め、日本人と同様の働き方が可能です。
次に、「技術・人文知識・国際業務」「技能実習」「特定技能」など、就労が認められる在留資格があります。これらの在留資格では、それぞれ定められた活動範囲内でのみ就労が認められます。例えば、技術・人文知識・国際業務の在留資格では、原則として専門的な知識や技術を活かした業務にのみ従事することができます。
最後に、「留学」「家族滞在」などの在留資格があります。これらの在留資格者は、原則として就労できませんが、入国管理局から「資格外活動許可」を得ることで、週28時間までのアルバイトが認められます。
3-2. 建設業における外国人材の受入れ形態
建設業で働く外国人材の受入れ形態は、主に四つのパターンがあります。
第一に、技能実習生としての受入れです。技能実習制度では、型枠施工や鉄筋施工、とび、左官、配管など、22の職種での受入れが可能です。技能実習生は、最長5年間、実務を通じて技能を修得することができます。この制度の特徴は、実践的な技能習得を通じて、母国の産業発展に貢献することを目的としている点です。
第二に、特定技能外国人としての受入れがあります。2019年4月に新設されたこの制度では、建設分野において、より実践的な技能を持つ外国人材を受け入れることができます。特定技能1号では最長5年、特定技能2号では更新制限なく在留が可能です。
第三に、技術・人文知識・国際業務の在留資格での受入れです。この在留資格では、CADオペレーターや施工管理者として外国人材を雇用することができます。ただし、大学等での専攻と業務内容の関連性が求められ、例えば建築・土木系の学部を卒業していることが条件となります。
第四に、身分系の在留資格(永住者、日本人の配偶者等、定住者)を持つ外国人の雇用です。これらの在留資格者は職種や業務内容に制限がないため、建設現場での単純作業を含め、様々な業務に従事することができます。
3-3. 外国人雇用における実務上の注意点
外国人材を雇用する際には、不法就労の防止に特に注意を払う必要があります。不法就労を防止するための確認事項は、大きく三つあります。
一つ目は、在留カードの確認です。在留カードには、在留資格や在留期限、就労制限の有無などが記載されています。これらの情報を正確に確認し、写しを保管することが必要です。なお、在留カードの確認には、出入国在留管理庁が無料で提供している「在留カード等読取アプリケーション」が便利です。このアプリを使用することで、偽造カードの発見や記載内容の正確な確認が可能となります。
二つ目は、在留期限の管理です。在留期限が切れる前に更新手続きが必要となりますが、更新申請中であっても在留期限から2ヶ月を経過すると原則として就労できなくなります。そのため、期限切れの少なくとも3ヶ月前には更新手続きを開始するよう、外国人従業員に指導することが望ましいでしょう。
三つ目は、就労範囲の確認です。特に就労ビザを持つ外国人材の場合、認められた活動範囲を超えて就労させることは、不法就労を助長したとして処罰の対象となる可能性があります。懲役3年以下または罰金300万円以下という重い罰則が設けられており、過失による場合でも処罰の対象となることに注意が必要です。
4. 技能実習制度の実務ポイント
4-1. 制度の概要と最新動向
技能実習制度は1993年に制度化され、これまで多くの外国人材を受け入れてきました。しかし、2027年(改正法の公布日である2024年6月21日から起算して3年以内)までに新たな「育成就労制度」が開始されることが決定し、技能実習制度は段階的に廃止される予定となっています。
この制度変更の背景には、技能実習制度における様々な課題があります。例えば、監理団体と受入れ企業の関係が密接になりすぎることによる監理の形骸化や、実習生の待遇面での問題などが指摘されてきました。新しい育成就労制度では、これらの課題を解決すべく、外部監査人の設置義務化や、より柔軟な人材活用が可能となる仕組みが導入される予定です。
4-2. 現行制度における実務的留意点
技能実習制度を活用する場合、受入れ企業には様々な義務が課されます。まず、技能実習計画を作成し、認定を受ける必要があります。この計画では、実習内容や指導体制、待遇などを具体的に示さなければなりません。
また、技能実習生への賃金は、最低賃金法で定める金額以上を支払う必要があります。ただし、これは最低ラインであり、同じ職種の日本人従業員との均衡を考慮した賃金設定が望ましいとされています。
さらに、技能実習生に対しては、日本語教育や生活指導なども必要です。特に来日直後は、日本の生活習慣に慣れていないため、住居の確保から銀行口座の開設、健康保険の加入手続きなど、きめ細かなサポートが求められます。
5. 特定技能制度の実務ポイント
5-1. 特定技能制度の特徴
特定技能制度は、深刻化する人手不足に対応するため、2019年4月に新設された制度です。この制度の最大の特徴は、技能実習制度と比較して、より柔軟な人材活用が可能な点にあります。
特定技能には1号と2号があり、それぞれ特徴が異なります。1号は、相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。建設分野では、型枠施工や左官工事など、特定の作業に従事することができます。在留期間は通算で最長5年となっています。
一方、2号は、熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。1号と異なり、在留期間の更新回数に制限がなく、家族の帯同も認められています。ただし、2号への移行には、試験合格や一定の実務経験が必要となります。
5-2. 特定技能における受入れ体制の整備
特定技能制度では、受入れ企業に対して充実した支援体制の整備が求められます。具体的には、外国人材が日本で円滑に生活・就労できるよう、以下のような支援を行う必要があります。
入国前から必要となる支援として、まず事前ガイダンスの実施があります。これは、日本での生活や労働条件、在留に必要な手続きなどについて、母国語で十分な説明を行うものです。また、住居の確保や入国時の空港などでの送迎なども、受入れ企制業の重要な責務となります。
入国後は、生活オリエンテーションの実施や日本語学習の支援、医療機関の受診同行など、きめ細かなサポートが必要です。また、在留資格関連の各種届出についても、適切な支援が求められます。
これらの支援業務は、登録支援機関に委託することも可能です。その場合、1名あたり月額2~3万円程度の費用が発生します。加えて、建設業の場合は、JAC(建設技能人材機構)への会費として1名あたり月額12,500円と年会費が必要となります。
5-3. 特定技能2号への移行に向けた準備
特定技能1号から2号への移行を目指す場合、計画的な準備が重要です。2号への移行には、試験合格または一定の資格(例:1級技能士)の取得が必要となります。特に重要なのが日本語能力の向上です。
技能実習や特定技能1号で来日した外国人材の多くは、日常会話はある程度できても、読み書きが不十分なケースが多く見られます。2号試験では、N3~N2相当の日本語能力が求められるため、計画的な学習支援が必要となります。
6. まとめ
本稿では建設業の事例を中心にご説明してまいりましたが、外国人材の活用における基本的な考え方や注意点は、ほとんどの業種に共通するものです。技能実習制度や特定技能制度は、建設業に限らず、製造業、農業、介護、宿泊業など、多くの分野で活用されています。
外国人材の受入れで特に重要なのは、適切な在留資格の確認と、充実した支援体制の整備です。在留資格の確認を怠ると、業種を問わず不法就労助長罪として厳しい処罰を受ける可能性があります。また、支援体制が不十分な場合、外国人材の定着率低下や労務問題の発生につながりかねません。
また、2027年に予定されている技能実習制度から育成就労制度への移行など、制度面での大きな変更も控えています。これらの動向は、外国人材を受け入れているすべての業種に影響を及ぼす可能性があるため、今後も注意深く情報収集を行う必要があります。
外国人材の活用は、単なる人手不足対策ではありません。異なる文化や価値観を持つ人材を受け入れることで、職場の活性化や新たな視点の獲得、さらにはグローバル化への対応力強化にもつながります。適切な準備と対応を行い、外国人材との Win-Win の関係を築いていくことが、企業の持続的な発展につながるのです。
外国人材の受入れに関する具体的な手続きや、業種ごとの詳細な注意点については、専門家への相談をお勧めします。社会保険労務士や行政書士などの専門家が、各企業の状況や業種特性に応じた適切なアドバイスを提供いたします。