労働時間制度の正しい運用で働き方改革を推進しよう!~フレックスタイム制、裁量労働制、変形労働時間制の実務ポイント~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

近年、働き方改革の推進や新型コロナウイルス感染症の影響により、企業における労働時間管理の重要性が一層高まっています。特に、フレックスタイム制、裁量労働制、変形労働時間制といった柔軟な労働時間制度の活用は、従業員のワークライフバランスの向上や生産性の向上に大きく寄与する一方で、その運用には細心の注意が必要です。

本記事では、各制度の適切な運用方法と実務上の注意点について、人事労務の専門家として解説させていただきます。

2. 多様な働き方を支える労働時間制度

2-1. 労働時間制度の種類と特徴

労働基準法では、原則として1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めています。しかし、業務の特性や従業員のニーズに応じて、より柔軟な労働時間管理を可能とする特別な制度が設けられています。

フレックスタイム制は、一定の期間における総労働時間を定めた上で、従業員が日々の始業・終業時刻を自由に決定できる制度です。裁量労働制は、業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合に、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。変形労働時間制は、繁閑の差が大きい業務において、一定期間を平均して法定労働時間を超えない範囲で、業務の繁閑に応じて労働時間を配分する制度です。

2-2. 制度選択のポイント

これらの制度を導入する際は、単に従業員の働き方の自由度を高めることだけでなく、業務の特性や職場環境、従業員の希望などを総合的に考慮する必要があります。また、各制度には法令で定められた要件があり、これらを満たさない運用は法令違反となる可能性があります。

3. フレックスタイム制を適切に運用する

3-1. 制度導入の基本要件

フレックスタイム制を導入するには、労使協定の締結と就業規則への記載が必要です。労使協定では、対象となる従業員の範囲、清算期間、標準となる1日の労働時間などを定める必要があります。また、コアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)やフレキシブルタイム(出退勤時刻を従業員が自由に選択できる時間帯)を設ける場合は、その時間帯も明確にする必要があります。

3-2. 運用上の注意点

フレックスタイム制の運用で最も重要なのは、従業員が実質的に始業・終業時刻を自由に決定できる環境を整備することです。朝礼や定例会議、顧客対応などにより、実質的に従業員が時間を自由に決められない場合、フレックスタイム制が適正に運用されているとはいえません。

また、コアタイムの不就業時間の賃金控除方法や、フレキシブルタイムの設定時間帯については、従業員の実態に即した適切な設定が必要です。特に、フレキシブルタイムが始業終業前後30分程度と短い場合、実質的な選択の自由が確保されているとは言えない可能性があります。

4. 裁量労働制を正しく理解する

4-1. 専門業務型裁量労働制のポイント

専門業務型裁量労働制は、高度な専門知識を必要とする業務に従事する従業員を対象とした制度です。この制度を導入する際は、対象業務が法令で定められた専門業務に該当するかどうかを慎重に確認する必要があります。また、業務の遂行方法や時間配分について、実質的に従業員に裁量が与えられていることが重要です。

導入にあたっては、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。協定には、対象業務や対象従業員の範囲、みなし労働時間、健康・福祉確保措置などを定める必要があります。特に、みなし労働時間の設定については、実態に即した適切な時間を設定することが重要です。

4-2. みなし労働時間制の適用基準

みなし労働時間制の適用については、単にテレワークを行っているというだけでは該当しません。特に、PCやスマートフォンを貸与している場合、実際の労働時間を算定することが可能なため、「労働時間を算定し難い」という要件を満たさない可能性が高くなります。

また、みなし労働時間と実態の労働時間に大幅な乖離がある場合、みなし時間の妥当性が問われる可能性があります。例えば、1日あたり15時間といった明らかに過大なみなし時間の設定は、適正とは認められません。未払賃金が発覚した場合に、過去に遡って裁量労働制を適用することで未払賃金を圧縮することは認められません。

5. 変形労働時間制を効果的に活用する

5-1. 1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

この制度を導入する際は、労使協定の締結または就業規則への記載が必要です。特に重要なのは、あらかじめ労働日と労働日ごとの労働時間を明確に定めることです。会社の都合により、あらかじめ決められた労働日を頻繁に振り替えることは認められません。

シフトの作成においては、対象期間を平均して1週間あたり40時間以内に収まるように調整する必要があります。また、シフトに入っている従業員が欠勤した場合の対応方法についても、あらかじめルールを定めておくことが望ましいでしょう。

5-2. 1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制は、1年以内の一定期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で、業務の繁閑に応じて労働時間を配分する制度です。

この制度の導入には、労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。協定では、対象期間、対象労働者の範囲、対象期間における労働日数と労働時間数などを定める必要があります。特に、対象期間の起算日は明確に定める必要があります。

シフトの決定は、期初の30日前までに労働者の同意を得て書面で定める必要があります。また、労働時間や労働日数、連続労働日数の限度を遵守することも重要です。中途採用者や退職者が発生した場合の割増賃金の清算方法についても、適切に定めておく必要があります。

6. まとめ

各労働時間制度は、企業と従業員双方にとって有益な制度ですが、その運用には細心の注意が必要です。特に重要なのは、形式的な制度の導入だけでなく、実態に即した適切な運用を行うことです。

制度の導入・運用にあたっては、以下の点に特に注意が必要です。
・労使協定等の法定要件の確実な充足
・実態を伴った運用(特にフレックスタイム制における時間選択の自由)
・適切なみなし労働時間の設定(裁量労働制)
・シフト決定プロセスの適正化(変形労働時間制)

これらの制度を適切に運用することで、従業員の働きやすさと企業の生産性向上の両立を図ることができます。制度の導入や運用でお悩みの際は、お気軽に当事務所にご相談ください。