2025年度「働き方改革推進支援助成金」の解説 ~労働時間短縮と勤務間インターバル導入を支援する制度~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

今回は、中小企業の経営者や人事担当者の方々に特に注目いただきたい令和7年度「働き方改革推進支援助成金」についてご紹介します。

労働時間の削減や働きやすい職場環境の整備は、従業員の健康維持だけでなく、生産性向上や人材確保・定着にも直結する重要な経営課題です。しかし、新たな制度導入や環境整備には一定のコストが伴います。そこで活用したいのが今回ご紹介する助成金制度です。

令和7年度の「働き方改革推進支援助成金」には、「業種別課題対応コース」「労働時間短縮・年休促進支援コース」「勤務間インターバル導入コース」「団体推進コース」の4種類があります。今回は、この中から特に活用機会の多い「労働時間短縮・年休促進支援コース」と「勤務間インターバル導入コース」の2つのコースについて詳しくご紹介します。これらの助成金を活用することで、働き方改革の取り組みを少ない負担で実現できる可能性があります。ぜひ最後までお読みいただき、貴社の働き方改革推進にお役立てください。

2. 働き方改革推進支援助成金の概要と目的

2-1. 助成金創設の背景と目的

働き方改革関連法が施行され、令和2年4月からは中小企業にも時間外労働の上限規制が適用されています。また、平成31年4月からは「勤務間インターバル制度」の導入が企業の努力義務となりました。

これらの法改正に対応するためには、単に残業時間を削減するだけでなく、業務の効率化や生産性向上といった根本的な取り組みが必要です。しかし、多くの中小企業では人的・経済的な制約から、こうした取り組みの実施が難しいという現実があります。

そこで厚生労働省は、中小企業の働き方改革を後押しするために「働き方改革推進支援助成金」を設け、企業の自主的な取り組みを資金面から支援しています。この助成金は、生産性を向上させながら労働時間の削減や休暇取得の促進、勤務間インターバルの導入など、働きやすい職場づくりを目指す中小企業事業主を支援することを目的としています。

2-2. 助成金の対象となる中小企業の定義

本助成金の対象となる「中小企業事業主」とは、以下の条件を満たす事業主です。

業種別に見ると、小売業(飲食店を含む)では資本金5,000万円以下または従業員数50人以下、サービス業では資本金5,000万円以下または従業員数100人以下、卸売業では資本金1億円以下または従業員数100人以下、その他の業種では資本金3億円以下または従業員数300人以下となっています。

なお、医業に従事する医師が勤務する病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院については、常時使用する労働者数が300人以下であれば中小企業事業主に該当します。

また、すべての対象事業主に共通する条件として、労働者災害補償保険の適用を受けていることや、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していることなどが求められます。

3. 労働時間短縮・年休促進支援コースの詳細

3-1. 支援の対象となる取り組み

このコースでは、以下のような取り組みが助成対象となります。

まず、労務管理担当者や労働者に対する研修の実施が挙げられます。これには業務研修も含まれるため、業務効率化のための知識習得や意識改革にも活用できます。また、外部の専門家によるコンサルティングも対象となりますので、客観的な視点から業務の無駄を洗い出し、効率化を図ることができます。

就業規則や労使協定等の作成・変更も対象です。時間外労働の上限規制に対応するための36協定の見直しや、年次有給休暇の計画的付与制度の導入なども、この枠組みで進めることができます。

さらに、人材確保に向けた取り組みや、労務管理用ソフトウェア・機器の導入・更新も対象となります。手書きの勤怠管理からICカードなどのデジタル管理への移行は、正確な労働時間管理と業務量の平準化につながります。

そして、労働能率の増進に資する設備・機器などの導入・更新も対象です。生産工程の自動化や効率化につながる設備投資なども、この助成金を活用して実施することが可能です。

3-2. 成果目標と助成上限額

このコースでは、以下のいずれかの「成果目標」を設定して取り組みを行います。

1つ目は「月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数の縮減」です。具体的には、現に有効な36協定において、月60時間を超える時間外労働と休日労働の合計時間数を設定している事業場が、その時間数を月60時間以下または月80時間以下に設定することを目指します。達成した場合の助成上限額は、設定する時間数や現状によって50万円から150万円となります。

2つ目は「年次有給休暇の計画的付与制度の新規導入」で、上限額は25万円です。

3つ目は「時間単位の年次有給休暇制度と特別休暇の導入」で、こちらも上限額は25万円です。

さらに、これらの成果目標に加えて、「指定する労働者の時間当たりの賃金額を3%以上、5%以上または7%以上引き上げる」ことを成果目標に加えることもできます。この場合、引き上げ率や対象人数に応じて、追加の助成を受けることが可能です。

4. 勤務間インターバル導入コースの詳細

4-1. 勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後から次の勤務開始までの間に、一定時間以上の「休息時間」を設けることを義務付ける制度です。この「休息時間」を確保することで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康維持や過重労働の防止を図ることができます。

例えば、11時間の勤務間インターバルを導入した場合、夜8時に仕事を終えた従業員は、翌朝7時までは次の勤務を開始できないことになります。これにより、深夜までの残業と早朝出勤が連続するような過酷な勤務形態を防止することができます。

平成31年4月からは、この制度の導入が「努力義務」となっていますが、実際の導入には業務の見直しや人員配置の調整など、様々な準備が必要です。勤務間インターバル導入コースは、こうした制度の導入や適用範囲の拡大、休息時間の延長に取り組む中小企業を支援するものです。

4-2. 助成対象となる取り組みと要件

このコースの対象となるためには、36協定を締結しており、原則として過去2年間において月45時間を超える時間外労働の実態があることが条件となります。また、勤務間インターバルを新規に導入する場合のほか、既に導入している場合でも、適用範囲の拡大や休息時間の延長に取り組む場合も対象となります。

助成対象となる取り組みは「労働時間短縮・年休促進支援コース」と同様に、労務管理担当者や労働者に対する研修、外部専門家によるコンサルティング、就業規則・労使協定等の作成・変更、人材確保に向けた取り組み、労務管理用ソフトウェア・機器の導入・更新、労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新などです。

4-3. 成果目標と助成上限額

このコースでは、以下のいずれかの「成果目標」を設定して取り組みを行います。

1つ目は「新規導入」で、新規に所属労働者の半数を超える労働者を対象とする勤務間インターバルを導入することを目指します。

2つ目は「適用範囲の拡大」で、既に休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場において、対象労働者の範囲を拡大し、所属労働者の半数を超える労働者を対象とすることを目指します。

3つ目は「時間延長」で、既に休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場において、所属労働者の半数を超える労働者を対象として休息時間数を2時間以上延長して9時間以上とすることを目指します。

助成上限額は、導入する勤務間インターバルの休息時間数や、新規導入か適用範囲の拡大・時間延長のみかによって異なります。新規導入の場合は9時間以上11時間未満で100万円、11時間以上で120万円、適用範囲の拡大・時間延長のみの場合はそれぞれ半額となります。

また、「労働時間短縮・年休促進支援コース」と同様に、賃金引上げを追加の成果目標とすることで、さらなる助成を受けることが可能です。

5. 助成金の申請方法と注意点

5-1. 申請の流れとスケジュール

助成金の利用には、まず「交付申請書」を企業の所在地を管轄する都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に提出する必要があります。申請の締切は令和7年11月28日(金)となっていますが、予算の制約から締切前に受付が終了する可能性もありますので、早めの申請をお勧めします。

交付決定後は、提出した計画に沿って取り組みを実施します。事業実施は令和8年1月30日(金)までに完了する必要があります。

事業完了後は支給申請を行います。申請期限は、事業実施予定期間が終了した日から起算して30日後の日または令和8年2月6日(金)のいずれか早い日となります。

なお、申請書の記載例を掲載している「申請マニュアル」や「申請様式」は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。また、電子申請システム(J-Grant)による申請も可能です。

5-2. 助成金活用のポイントと成功事例

助成金を効果的に活用するためのポイントをいくつかご紹介します。

まず、成果目標の設定です。自社の現状と課題を踏まえ、達成可能かつ効果的な目標を設定しましょう。単に助成金の獲得を目指すのではなく、自社の働き方改革の一環として取り組むことが重要です。

次に、複合的な取り組みの検討です。例えば、労務管理システムの導入と、それを活用するための研修の実施を組み合わせることで、より効果的な改善が期待できます。

また、外部専門家の活用も検討しましょう。社会保険労務士や中小企業診断士などの専門家の視点を取り入れることで、自社では気づかなかった改善点が見つかることもあります。

成功事例としては、勤怠管理の方法を手書きからICカードに切り替えたことで始業・終業時刻を正確に管理できるようになり、業務量の平準化につながったケースや、外部専門家のアドバイスで業務内容を抜本的に見直し、効率的な業務体制を構築できたケースなどがあります。また、新たな機器・設備の導入によって労働能率が向上し、時間当たりの生産性が向上したケースも報告されています。

6. まとめ

令和7年度「働き方改革推進支援助成金」は、中小企業が働き方改革を進める上で強力な味方となる制度です。4種類あるコースの中から今回ご紹介した「労働時間短縮・年休促進支援コース」と「勤務間インターバル導入コース」の2つのコースを通じて、生産性向上と労働環境改善の両立を支援します。なお、今回は紹介しませんでしたが、「業種別課題対応コース」や「団体推進コース」についても、それぞれの特性に合わせた支援内容がありますので、詳細をお知りになりたい場合はお問い合わせください。

具体的には、労務管理システムの導入、専門家によるコンサルティング、労働能率を向上させる設備投資など、様々な取り組みに対して経費の3/4(条件によっては4/5)が助成されます。

助成金の申請には期限や予算枠があるため、検討されている企業は早めに準備を始めることをお勧めします。また、申請書類の作成や効果的な取り組みの計画には専門的な知識が必要な場合もありますので、お気軽に当事務所にご相談ください。

私たち社会保険労務士は、貴社の働き方改革を実務面からサポートいたします。助成金の活用はもちろん、労働時間管理の適正化や休暇制度の整備、勤務間インターバル導入の検討など、お悩みがありましたらお気軽にご連絡ください。

最後に、働き方改革は単に法令遵守のためだけでなく、従業員の健康と満足度の向上、そして企業の持続的な成長のために重要な取り組みです。この助成金を活用して、貴社ならではの働きやすい職場づくりを進めていただければ幸いです。

【参考資料】
・令和7年度「働き方改革推進支援助成金」労働時間短縮・年休促進支援コースのご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/001467917.pdf
・令和7年度「働き方改革推進支援助成金」勤務間インターバル導入コースのご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/001467929.pdf