令和6年雇用保険法改正のポイント解説 PART3~高年齢雇用継続給付の見直しと企業の実務対応~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

前回までのブログでは、令和6年の雇用保険法改正における人材育成支援の強化や育児休業給付の拡充についてご説明してきました。第3回となる今回は、高年齢雇用継続給付の見直しについて解説いたします。

我が国では、急速な高齢化の進展に伴い、働く意欲のある高齢者がその能力を十分に発揮できる環境整備が重要な課題となっています。そのような中、高年齢者の雇用の安定と就労促進を図るため、雇用保険制度における高年齢雇用継続給付制度が重要な役割を果たしてきました。今回の制度改正は、高齢者の就労を支援しつつ、制度の持続可能性を確保するという観点から行われるものです。

2. 高年齢雇用継続給付制度の概要

2-1.制度の目的と基本的な仕組み

高年齢雇用継続給付は、60歳到達時点と比べて賃金が低下した状態で働き続ける60歳以上65歳未満の方を支援するための給付金制度です。この制度は、60歳以降の賃金が低下することによる収入減少を補填し、高年齢者の就業意欲を維持・喚起することで、65歳までの雇用継続を促進することを目的としています。

制度創設の背景には、日本特有の雇用慣行があります。多くの企業では60歳定年制を採用しており、その後の継続雇用においては賃金が大幅に低下するケースが一般的でした。この賃金低下による高齢者の就労意欲の減退を防ぎ、豊富な経験と技能を持つ高齢者の雇用を促進する観点から、本制度は重要な役割を担ってきました。

2-2.支給要件と対象者

本給付を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。まず、60歳以上65歳未満の一般被保険者であることが基本要件となります。加えて、被保険者であった期間が通算して5年以上あることも求められます。また、60歳以降の賃金が、60歳到達時点の賃金と比較して75%未満に低下していることが条件となります。

ここで重要なポイントは、被保険者であった期間の計算方法です。この期間は、離職等による被保険者資格の喪失から新たな被保険者資格の取得までの間が1年以内である場合、および過去に求職者給付や就業促進手当を受給していない場合は、過去の「被保険者であった期間」として通算されます。

3. 令和7年4月からの改正内容

3-1.支給率の見直し

現行制度における支給額は、60歳時点と比較した賃金の低下率に応じて決定されています。具体的には、賃金の低下率が61%以下の場合は賃金の15%が支給され、61%を超え75%未満の場合は賃金と給付の合計が60歳時点の賃金の75%を超えない範囲で支給されています。

しかし、令和7年4月1日以降は、支給率が以下のように見直されることになりました。賃金の低下率が64%以下の場合、現行の15%から10%に引き下げられます。また、低下率が64%を超え75%未満の場合は、賃金額が増える程度に応じて10%から一定の割合で減じた率が適用されます。75%以上の場合は、従来通り不支給となります。

この改正により、支給限度額についても変更が生じます。具体的には、賃金月額が376,750円以上の場合、給付金は支給されません。また、支給対象月に支払われた賃金額と算定された支給額の合計が376,750円を超える場合は、その超過分が調整されることになります。

3-2.経過措置について

制度改正による影響を考慮し、重要な経過措置が設けられています。令和7年3月31日以前に60歳に達した方については、従来の支給率が維持されます。これは、その時点で被保険者であった期間が5年以上ない方についても、その期間が5年以上となった日において同様の取扱いとなります。

この経過措置により、既に給付を受給している方や受給を予定していた方への急激な影響を緩和し、円滑な制度移行を図ることが意図されています。

4. 実務上の留意点

4-1.申請手続きのポイント

支給申請の手続きは、原則として2か月ごとに行います。初回の申請においては、60歳到達時等賃金証明書及び高年齢雇用継続給付受給資格確認票の提出が必要です。これらの書類は、賃金の低下率を正確に算定するための重要な基礎資料となります。

申請書類の提出先は管轄のハローワークとなりますが、提出期限には特に注意が必要です。最初に支給を受けようとする支給対象月の初日から4か月以内に申請を行わなければなりません。また、2回目以降の申請については、支給申請期間内に確実に手続きを行うことが求められます。

4-2.賃金支払い時の実務対応

実務担当者は、毎月の賃金支払い時に細心の注意を払う必要があります。特に、みなし賃金の取扱いについては慎重な対応が求められます。みなし賃金とは、非行等による休職や、病気・負傷等による欠勤、事業所の休業、育児・介護等による欠勤などにより、賃金の支払いを受けることができなかった場合に考慮される賃金のことです。

また、通勤手当等の諸手当の支給方法が変更となった場合の取扱いについても、適切な管理が必要です。特に、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金については、支給対象月への配分方法に注意が必要となります。

5. 企業に求められる対応

5-1.制度改正の影響と準備

企業としては、まず制度改正による影響を正確に把握することが重要です。対象となる従業員の現状分析を行い、改正後の給付額の試算を行うことで、従業員の処遇への影響を事前に検討する必要があります。

また、給与計算システムの更新や社内規程の見直しなど、実務面での準備も欠かせません。特に、継続雇用制度における賃金設定について、制度改正を踏まえた検討が必要となる可能性があります。

5-2.従業員への説明と配慮

制度改正の内容を従業員に正確に伝えることは、企業の重要な責務です。特に、支給率の低下により給付額が減少する従業員に対しては、丁寧な説明と必要に応じた相談対応が求められます。

また、高齢者の多様な就労ニーズに対応するため、勤務時間や職務内容の柔軟な設定など、働き方の選択肢を広げることも検討に値します。これは、給付金額の減少を補完する意味でも重要な取り組みとなります。

6. まとめ

今回の高年齢雇用継続給付の見直しは、高齢者の就労支援と制度の持続可能性の確保を両立させるための重要な改正です。企業としては、この制度改正を単なる給付金の見直しとしてではなく、高齢者の雇用継続支援の在り方を総合的に検討する機会として捉えることが重要です。

実務面での準備と従業員へのコミュニケーションを適切に行い、円滑な制度移行を図ることが求められます。また、高齢者の就労支援に関する他の助成金制度などと組み合わせることで、より効果的な雇用継続支援を実現することも検討に値するでしょう。

なお、本制度の詳細な運用や個別のケースに関する判断については、管轄のハローワークや社会保険労務士にご相談いただくことをお勧めします。当事務所でも、個別のご相談を承っております。