もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
令和5年12月22日に閣議決定された「こども未来戦略」における「加速化プラン」に基づき、子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律が成立しました。本改正では、育児休業給付制度が大きく拡充され、新たな給付金制度も創設されることとなりました。本稿では、令和7年4月に施行される改正内容を中心に、企業実務に特に影響の大きい事項について、詳しく解説いたします。
2. 改正の背景と全体像
2-1. 改正の目的と基本方針
今回の改正は、若者世代が希望どおり結婚、妊娠・出産、子育てを選択できる社会の実現を目指すものです。特に「共働き・共育て」の推進に重点が置かれており、両親がともに育児に関われる環境整備を目的としています。また、育児期の柔軟な働き方を支援することで、仕事と育児の両立支援を強化する方針が示されています。
2-2. 改正の全体スケジュール
本改正は令和6年10月から令和8年10月にかけて段階的に施行されます。令和6年10月からは児童手当の拡充が、同年11月からは児童扶養手当の見直しが実施されています。令和7年4月からは育児休業給付に関する重要な改正が施行され、令和8年4月からは新たな保育支援制度が開始されます。また、令和8年10月からは自営業者等への支援として、国民年金第1号被保険者の育児期間における保険料免除制度が創設されます。
2-3. 企業実務への影響
本改正により、育児休業制度や時短勤務制度に関する実務が大きく変更となります。特に給付金の申請手続きや社内規程の整備、従業員への周知など、企業の人事担当者には広範な対応が求められることとなります。
3. 出生後休業支援給付金の創設
3-1. 制度創設の目的
<施行期日>2025(令和7)4月1日
出生後休業支援給付金は、子の出生直後の時期における両親での育児を促進することを目的としています。特に父親の育児休業取得を促進し、母親の育児負担を軽減することで、より良い子育て環境の実現を目指しています。
3-2. 具体的な給付内容
子の出生後8週間以内に、被保険者とその配偶者の両方が育児休業を取得する場合、最大28日間について休業開始前賃金の13%相当額が上乗せされます。これにより、既存の育児休業給付金(67%)とあわせて給付率が80%(手取りで10割相当)まで引き上げられます。
3-3. 支給要件と適用除外
給付金の支給要件として、両親それぞれが14日以上の育児休業を取得することが原則となります。ただし、配偶者が専業主婦(夫)の場合や、ひとり親家庭の場合については、配偶者の育児休業取得を要件とせずに給付率が引き上げられます。
3-4. 実務上の留意点
給付金の申請にあたっては、配偶者の育児休業取得を証明する書類が必要となります。また、育児休業の分割取得に関する規定との整合性にも注意が必要です。
4. 育児時短就業給付金の新設
4-1. 制度創設の背景
<施行期日>2025(令和7)4月1日
現状では、育児のための短時間勤務制度を選択し、賃金が低下した労働者に対する支援制度が存在しませんでした。そこで、仕事と育児の両立支援を強化するため、新たに育児時短就業給付が創設されることとなりました。
4-2. 給付金の概要と計算方法
2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合、時短勤務中に支払われた賃金の10%が給付されます。ただし、時短後の賃金と給付金の合計が時短前の賃金を超えないように調整されます。
4-3. 支給要件と適用範囲
給付金の対象となるのは、就業規則等で定められた育児のための短時間勤務制度を利用する被保険者です。対象となる子の年齢は2歳未満に限定されており、時短勤務による賃金低下が支給要件となります。
4-4. 実務上の注意事項
時短勤務制度の利用状況や賃金の変更について、適切な記録管理が必要となります。また、給付金の申請手続きや支給申請期限についても注意が必要です。
5. 企業に求められる対応
5-1. 就業規則等の見直し
新制度への対応にあたり、就業規則や育児・介護休業規程の改定が必要となります。特に出生後の育児休業取得促進に関する規定や、時短勤務制度に関する規定について、見直しが求められます。また、給付金に関する社内規程の整備も検討する必要があります。
5-2. 社内体制の整備
新制度を円滑に運用するため、人事部門の体制整備が重要となります。特に給付金の申請手続きをサポートする体制や、育児休業取得者の代替要員確保に向けた計画的な人員配置が求められます。
5-3. 従業員への周知と教育
改正内容について、全従業員への周知が必要です。特に妊娠・出産予定のある従業員に対しては、新制度の詳細な説明と利用促進に向けた情報提供が重要となります。また、管理職向けの研修等も実施し、制度運用に関する理解促進を図ることが望ましいでしょう。
5-4. 助成金の活用
新制度の導入に伴い、両立支援等助成金等の支給要件が見直される可能性があります。制度の見直しに合わせて、利用可能な助成金の検討も行うことをお勧めします。
6. まとめ
今回の改正は、育児休業給付制度を大きく拡充するものであり、企業の両立支援施策にも大きな影響を与えることが予想されます。特に令和7年4月施行の改正内容については、制度の整備から実務対応まで、計画的な準備を進める必要があります。
当事務所では、本改正に関する情報提供や実務サポートを随時実施してまいります。就業規則の改定や助成金の活用等について、ご不明な点がございましましたら、お気軽にご相談ください。
また、本改正に関する詳細な実務要領等については、今後、厚生労働省から順次公表される予定です。最新情報が発表され次第、改めて実務上の留意点等についてご案内させていただく予定です。