もくじ
1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
昨今の労働市場では、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展や働き方改革の浸透により、働き方の多様化と人材育成の重要性が増しています。このような状況を踏まえ、令和6年5月10日に「雇用保険法等の一部を改正する法律」が成立しました。本改正は、多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築と、人材育成支援の強化を主な目的としています。
本改正は2024年10月から2028年10月までの期間で段階的に施行されます。特に、教育訓練給付の拡充は2024年10月から、教育訓練休暇給付金の新設は2025年10月からと比較的早期に実施されます。企業の皆様には、その他の改正について、それぞれの施行時期に合わせた準備をお願いいたします。
2. 雇用保険の適用拡大
2-1. 短時間労働者への適用拡大
<施行期日>2028(令和10)年10月1日
2028年10月からは、雇用保険の被保険者資格要件が大きく変更されます。現行の「週所定労働時間20時間以上」という基準が「週所定労働時間10時間以上」に緩和されることで、より多くの短時間労働者が雇用保険の対象となります。厚生労働省の統計によると、週20時間未満で働く労働者は約506万人とされており、そのうち週10時間以上20時間未満の労働者が新たに雇用保険の対象となる可能性があります。
2-2. 企業が準備すべきこと
この改正により、企業には新たな実務対応が求められます。具体的には、労働時間管理システムの改修、社会保険関係の事務処理体制の見直し、そして該当する従業員への説明と周知が必要となります。特に、被保険者期間の算定基準も変更され、賃金支払基礎日数が11日以上から6日以上に、労働時間数が80時間以上から40時間以上に変更されることにも注意が必要です。
3. 教育訓練・リスキリング支援の充実
3-1. 自己都合退職者への給付制限緩和
<施行期日>2025(令和7)年4月1日
従来、自己都合退職者には原則として2か月間の給付制限が設けられていましたが、本改正により大きく二つの変更が行われます。一つは、給付制限期間が原則1か月に短縮されること、もう一つは、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を受講する場合には、給付制限が解除されることです。この変更により、転職を考える方々が、より柔軟にキャリアアップを図ることが可能となります。
3-2. 教育訓練給付金の拡充
<施行期日>2024(令和6)年10月1日
専門実践教育訓練給付金については、現行の最大給付率70%から80%へと引き上げられます。具体的には、従来の本体給付50%に加え、資格取得等による追加給付20%が維持され、さらに賃金上昇した場合の追加給付10%が新設されます。また、特定一般教育訓練給付金についても、資格取得等による追加給付10%が新設され、最大給付率が40%から50%に引き上げられます。
3-3. 教育訓練休暇給付金の新設
<施行期日>2025(令和7)年10月1日
2025年10月からは、在職中の従業員の学び直しを支援する新たな給付金制度が創設されます。この制度は、雇用保険の被保険者が教育訓練のために無給の休暇を取得する場合に、基本手当相当額を支給するものです。支給要件として、被保険者期間が5年以上あることが定められており、給付日数は被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかとなります。
4. 育児休業給付制度の財政基盤強化
4-1. 制度改正の内容と背景
<施行期日>2025(令和7)年4月1日
育児休業給付については、近年の取得者数増加に伴い、支給額が年々増加しています。特に、男性の育児休業取得促進に向けた取り組みが強化される中、財政基盤の強化が急務となっていました。そこで本改正では、国庫負担割合を現行の1/80から本則の1/8へと引き上げるとともに、保険料率については0.4%から0.5%への引き上げ可能性を設定しつつ、保険財政の状況に応じて弾力的に調整できる仕組みを導入します。
※国庫負担割合引き上げの施行期日については、公布日又は2024(令和6)年4月1日のいずれか遅い方
4-2. 企業への影響と対応
当面の保険料率は現行の0.4%が維持されますが、今後の保険財政の状況によっては0.5%まで引き上げられる可能性があります。企業としては、この変更に備えた財務計画の見直しと共に、より一層の育児休業取得促進に向けた体制整備が求められます。政府は2025年までに男性の育児休業取得率を50%にする目標を掲げており、企業の積極的な取り組みが期待されています。
5. その他の重要な改正点
5-1. 就業促進手当の見直し
<施行期日>2025(令和7)年4月1日
就業促進手当については、より効果的な再就職支援を目指して制度が見直されます。具体的には、現行の就業手当が廃止される一方で、就業促進定着手当については、上限が支給残日数の40%相当額から20%相当額に引き下げられます。これは、より安定的な再就職を促進するための措置といえます。
5-2. 暫定措置の期間延長
<施行期日>2025(令和7)年4月1日
雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に関する特例や、地域延長給付などの暫定措置について、2年間の延長が決定されました。また、介護休業給付に係る国庫負担の暫定措置についても、令和8年度末までの継続が決定されています。
6. まとめ
本改正は、人材育成支援の強化と雇用のセーフティネット機能の拡充という二つの大きな柱を持っています。特に注目すべきは、教育訓練・リスキリング支援の充実です。企業の皆様には、従業員の能力開発やキャリア形成支援をより積極的に推進していただきたいと考えています。
また、雇用保険の適用拡大に向けた準備や、育児休業制度の運用体制の見直しなど、実務面での対応も重要となってきます。各企業の実情に応じた対応が求められますので、お悩みの際は社会保険労務士にご相談ください。従業員の能力開発支援体制の整備から、各種助成金の活用まで、きめ細かなサポートをさせていただきます。