もくじ
1. はじめに:なぜ今ハラスメント対策が重要なのか
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。近年、職場におけるハラスメント問題が大きな社会的関心を集めています。特に中小企業の皆さまにとって、ハラスメント対策は避けて通れない重要な課題となっています。
厚生労働省の最新統計によると、精神障害の労災認定件数は増加傾向にあり、その原因としてパワーハラスメントが最も多くなっています。さらに、2023年9月には精神障害の労災認定基準が改正され、カスタマーハラスメントも明確に位置づけられました。
このような状況を踏まえ、本日は最新のハラスメント対策について、法的な観点も交えながら、分かりやすくお伝えしていきます。
2. パワーハラスメントの基礎知識
2.1 パワハラとは何か
パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの、
を指します。具体的には、暴行・暴言、過大な要求、人間関係の切り離し、過小な要求、個の侵害、精神的な攻撃などが該当します。
2.2 事業主に求められる法的義務
2020年6月から、パワハラ防止措置が事業主の法的義務となりました(中小企業は2022年4月から)。具体的には以下の義務があります。
2.3 具体的な防止措置
パワハラ防止のために、以下のような具体的な措置を講じる必要があります。
- 就業規則等への規定と周知
- 管理職を含む従業員への研修実施
- 相談窓口の設置と周知
- 相談があった場合の対応手順の整備
- 再発防止策の検討と実施
3. カスタマーハラスメントという新たな課題
3.1 カスハラの定義と特徴
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)とは、顧客等からの著しい迷惑行為により従業員の就業環境が害されることを指します。具体的には、暴言、暴力、執拗なクレーム、わいせつ行為などが該当します。
カスハラの特徴として、従業員が顧客に対して弱い立場にあること、企業としての対応が難しいことなどが挙げられます。
3.2 企業に求められる対応
カスハラに対しても、企業には従業員を保護する安全配慮義務があります。具体的には以下のような対応が求められます。
3.3 裁判例から学ぶポイント
カスハラに関する裁判例を見ると、企業の安全配慮義務が問われるケースがあります。例えば、顧客からの理不尽な要求に対して従業員に謝罪を強制したケースでは、企業の責任が認められました。
一方で、適切な対応マニュアルの整備や従業員サポート体制の構築、メンタルヘルスケアの提供などを行っていた場合、企業の責任が否定されたケースもあります。
これらの裁判例から、企業として以下のポイントに注意する必要があります。
4. ハラスメント対策の実務ポイント
4.1 社内体制の整備
ハラスメント対策の基本は、社内体制の整備です。具体的には以下のような取り組みが重要です。
- 経営トップによるメッセージの発信
- ハラスメント防止規程の整備
- 相談窓口の設置と周知
- 相談対応担当者の育成
- 事案発生時の調査・是正措置の手順策定
4.2 従業員教育の重要性
ハラスメント防止には、全従業員の意識向上が不可欠です。定期的な研修の実施や、ハラスメント防止ハンドブックの配布などを通じて、継続的な教育を行いましょう。特に管理職向けの研修は重要です。
4.3 相談窓口の設置と運用
相談窓口は、単に設置するだけでなく、実効性のある運用が求められます。以下のポイントに注意しましょう。
- 相談しやすい環境づくり(匿名性の確保、複数の窓口設置等)
- 相談対応者のスキルアップ
- 相談者のプライバシー保護
- 相談したことによる不利益取扱いの禁止
また、外部の専門家に相談窓口を委託するのも一案です。
5. まとめ:ハラスメントのない職場づくりに向けて
ハラスメント対策は、法令遵守の観点だけでなく、従業員の心身の健康や生産性の向上、企業イメージの維持向上など、企業経営にとって重要な意味を持ちます。
本日ご紹介した内容を参考に、自社の現状を見直し、必要な対策を講じていただければと思います。ハラスメント対策は、決して難しいものではありません。従業員一人ひとりを大切にする姿勢を持ち、具体的な取り組みを積み重ねていくことが重要です。
ハラスメント対策でお悩みの際は、ぜひ社会保険労務士にご相談ください。皆さまの職場づくりをサポートさせていただきます。