クラウド勤怠管理システム導入後のトラブル防止と運用改善のポイント ~成功事例から学ぶ継続的な改善の進め方~

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。

クラウド勤怠管理システムに関するこれまでの記事では、導入時のポイントや就業規則の整備について解説させていただきました。しかし、システム導入後に様々な課題が浮上し、期待した効果が得られないというケースも少なくありません。

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」においても、使用者には労働時間を適正に記録し管理する責務があるとされています。システムを導入したものの、その運用が形骸化してしまっては、このガイドラインの要件を満たすことはできません。

今回は、システム導入後に発生しがちなトラブルの防止策と、継続的な運用改善の方法について、実際の成功事例を交えながらご説明いたします。

2. システム導入後によく発生する課題

2-1. 従業員からの抵抗と混乱

システム導入直後の最も大きな課題は、従業員からの抵抗です。特に、長年紙の出勤簿やタイムカードを使用してきた従業員からは、「使いづらい」「以前の方が良かった」という声が上がりやすい傾向にあります。

また、在宅勤務やフレックスタイム制など、多様な働き方を導入している企業では、勤務時間の記録漏れや申請忘れといった問題が頻発することがあります。こうした問題への対応が遅れると、従業員の不満が蓄積し、最悪の場合、システムが形骸化してしまうリスクも考えられます。

2-2. 管理者側の運用上の問題

管理者側でも、承認作業の遅延や判断基準のばらつきなど、様々な運用上の問題が発生します。特に複数の部門を持つ企業では、部門ごとに異なる勤務体系が存在することが多く、統一的な運用ルールの確立が困難になりがちです。

例えば、ある部門では残業申請を事前承認制としている一方、別の部門では事後報告を認めているといった運用の違いがあると、システムでの一元管理が難しくなります。また、休日出勤や深夜勤務の取り扱いについても、部門間で異なる基準が存在すると、システムの設定が複雑化し、運用上の混乱を招く原因となります。

2-3. データ活用の課題

多くの企業では、勤怠管理システムのデータを単なる出退勤記録や給与計算のために使用するのみで、業務改善に活用できていないケースが見られます。例えば、残業時間が特定の部門や時期に偏っている場合、その要因を分析し、業務の平準化を図ることが可能です。また、勤怠データを基に長時間労働者を特定し、早期に労務リスクへ対応することもできます。

労働基準法第108条では「賃金台帳の作成義務」が規定されており、労働時間の記録が求められます。また、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に基づき、適正な労働時間管理を行うことが事業主に求められています。これらは単なる記録義務にとどまらず、働き方改革の推進や生産性向上のための重要なデータとなります。しかし、多くの企業では、こうしたデータの分析や活用までには至っていないのが現状です。

3. トラブルを防止するための具体的な対策

3-1. 教育・研修の充実

システムの定着には、単なる操作方法の説明だけでなく、適正な労働時間管理の重要性や、働き方改革の目的についても、従業員の理解を深めることが重要です。

特に管理職に対しては、労働時間管理における使用者の法的責任や、長時間労働が従業員の健康に及ぼす影響について、具体的な事例を交えながら説明することが効果的です。厚生労働省の「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」などの資料を活用し、科学的な知見に基づいた研修を実施することで、管理職の意識改革を促すことができます。

3-2. 段階的な機能展開

システムの全機能を一度に導入するのではなく、基本的な機能から段階的に展開することが、スムーズな運用につながります。まずは出退勤の記録と基本的な勤務時間の管理からスタートし、その後、残業申請や休暇管理、さらには給与計算との連携など、段階を追って機能を追加していく方法が効果的です。

3-3. フィードバックの収集と改善

運用開始後は、システムの利用者である従業員や管理者からの意見や要望を定期的に収集し、改善に活かすことが重要です。特に導入初期の3ヶ月間は、週次で現場の声を集め、運用ルールの調整やシステムの設定変更に反映させることで、より使いやすいシステムへと進化させることができます。

4. 運用改善のためのPDCAサイクル

4-1. データ分析による業務改善

勤怠データの分析は、単なる労務管理の改善だけでなく、経営判断にも活用できる重要な情報源となります。例えば、残業が特定の部署や時期に集中している場合、その原因を分析することで、業務プロセスの見直しや人員配置の最適化につなげることができます。

また、テレワークの増加に伴い、労働時間の管理がより複雑化している現状において、データ分析に基づく客観的な労務管理の重要性は一層高まっています。勤務時間の分布分析や、業務の繁閑状況の把握を通じて、より効率的な働き方の実現に向けた施策を検討することが可能となります。

4-2. コンプライアンスの強化

労働基準法や労働安全衛生法に定められた労働時間管理の要件を確実に満たすため、システムから得られるデータを活用した定期的なチェックが必要です。36協定の上限時間の遵守状況や、休憩時間の適正な取得、年次有給休暇の取得状況などを常時モニタリングすることで、法令違反のリスクを未然に防ぐことができます。

5.成功事例に学ぶ改善のポイント

5-1. 中小製造業A社の事例

従業員50名の製造業A社では、交代制勤務を採用しており、シフト勤務者の勤怠管理に苦慮していました。そこで、現場のリーダーにタブレット端末を配布し、リアルタイムでの勤務状況確認を可能にしました。また、シフトパターンを標準化し、システムに事前登録することで、例外的な勤務への対応もスムーズに行えるようになりました。

さらに、月次で労働時間分析会議を実施し、次のような改善策を導入しました。
・業務量の偏りを可視化し、特定の部署に業務が集中しないようシフト調整を実施
・繁忙期(3月・9月)のデータを分析し、事前に短期アルバイトを手配
・時間外労働の多い従業員の負担軽減策として、業務分担の見直しを実施

これらの取り組みにより、残業時間の30%削減と、労務管理工数の大幅な削減を実現しています。

5-2. サービス業B社の事例

複数の店舗を持つサービス業B社では、店舗ごとの勤務ルールの違いが大きな課題となっていました。この課題を解決するため、まず全店舗共通の基本ルールと、各店舗の特性に応じた独自ルールを明確に区分しました。その上で、店長向けの定期的な研修会を実施し、労働時間管理の重要性と具体的な運用方法について理解を深めました。

また、本部による労働時間の横断的なモニタリング体制を構築し、特定の店舗や従業員に業務が集中していないかを常時確認できる体制を整えました。さらに、効率的な運用を実現している店舗の取り組みを他店舗に展開することで、全社的な業務効率の向上を達成しています。

6. まとめ

クラウド勤怠管理システムの運用改善は、一度限りの取り組みではなく、継続的な改善活動として捉える必要があります。特に重要なのは、システムの利用者である従業員や管理者の声を活かした段階的な改善です。

また、収集したデータの分析と活用を通じて、業務改善や経営判断に役立てることで、システム導入の効果を最大限に引き出すことができます。さらに、法令遵守を基本としながら業務効率の向上を図ることで、持続可能な労務管理体制を構築することが可能となります。

労働関係法令の改正や働き方改革の進展に伴い、労務管理の重要性は今後ますます高まっていくことが予想されます。システム導入後の運用改善について、お悩みやご不安な点がございましたら、お気軽に当事務所にご相談ください。