1. はじめに
皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。
「最近、人が全然採用できない」「若い人がすぐ辞めてしまう」「賃金を上げないと人が採れないけど、経営が厳しくなる」。こんな声を、多くの経営者の方々からお聞きしています。
実は、これからの15~20年は、豊富な経験を持つ50代の団塊ジュニア世代が企業の大きな力になります。今日は、人材確保の現状と、この世代の活用を含めた具体的な対応策について、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。
2. 深刻化する人材不足の実態
2-1. 企業における採用状況の現状
最新の調査によれば、実に64.1%の企業が「人手が足りない」と回答しています。新卒採用については、41.5%の企業が必要な人数の半分も採用できていないという厳しい状況です。
特に中小企業では、大手企業の初任給上昇に対応しきれないことに加え、インターンシップを含む採用活動の長期化により、限られた人事部門のマンパワーでは十分な採用活動が難しくなっています。
中途採用も同様に厳しく、約8割の企業が予定した採用人数を確保できていません。特に、IT関連やデジタル化に対応できる人材の確保が困難となっています。
2-2. 今後の労働力不足の見通し
この人材不足は一時的なものではありません。調査機関の予測によれば、2035年には日本全体で384万人もの労働力が不足すると見込まれています。
出生数が80万人を下回る中、この人材不足は今後さらに深刻化することが予想されます。また、以前は人材確保の有力な手段と考えられていた外国人労働者についても、日本の賃金水準が相対的に低下していることから、優秀な人材の確保が難しくなってきています。
2-3. 中小企業が直面する採用課題
中小企業にとって最も深刻なのが、採用市場における競争力の低下です。新卒市場では、大手企業の初任給上昇に追随できない企業が増加し、その結果、学生からの応募自体が減少しています。
中途採用市場でも状況は厳しく、転職者の多くが現在より良い条件を求めています。実際、調査によれば36.1%の転職者が、転職により給与が10%以上増加しています。このため、十分な処遇改善を提示できない企業では、必要な人材の確保が困難になっています。
3. 避けられない人件費の上昇への対応
3-1. 最低賃金引き上げの方向性
政府は2030年代半ばまでに最低賃金を1,500円にする目標を掲げています。これは単なる目標ではなく、日本の労働力確保と経済力維持のために必要な施策として位置づけられています。
また、地域による最低賃金の格差を縮小する取り組みも進められています。現時点でも、理論的には1,200円程度が適切な水準とされており、今後も継続的な引き上げが予想されます。
3-2. 若手社員の処遇改善の必要性
近年の賃金動向で特徴的なのは、30代前半までの若手社員の賃金上昇率が特に高くなっていることです。これは、初任給の上昇に伴い、若手社員の給与水準を調整する必要が生じているためです。
多くの企業では、ベースアップを「全社員一律分」と「若手重点配分分」に分けて実施しています。これにより、若手の給与水準を適切に保ちながら、社員全体の処遇改善を図っています。
3-3. 賃金上昇が企業経営に与える影響
最低賃金の上昇は、特に中小企業の経営に大きな影響を与えています。例えば、最低賃金が50円上がった場合、月間所定労働時間が173.4時間の従業員一人当たり、月額で8,670円のコストが増加します。
また、新入社員の給与上昇により、中堅社員との給与差が縮まることで、中堅社員のやる気低下や退職リスクが高まるという新たな課題も発生しています。
3-4. 同一労働同一賃金への対応
2021年4月から、中小企業にも同一労働同一賃金の規定が適用されています。これは、正社員とパートタイマーなどの非正規社員との間で、不合理な待遇差をなくすことを求めるものです。
特に、賞与や各種手当の支給については、仕事の内容や責任の程度、人材活用の仕組みなどを踏まえた、合理的な制度設計が必要です。
4. 高年齢者雇用の新たな展開
4-1. 高年齢者雇用の現状
令和5年の調査では、60歳以上の正社員は約457万人となっています。特に注目すべきは、この10年間で70歳以上の労働者が4.7倍に増加していることです。60代前半の1.3倍と比べても、非常に大きな伸びとなっています。
4-2. 制度改正の動向
2025年4月から、60歳以上の方を対象とした高年齢雇用継続給付金の支給率が、最大15%から11%に引き下げられます。さらに2027年度以降は、段階的な引き下げが検討されています。
また、年金を受給しながら働く場合の在職老齢年金についても見直しが進められており、高齢者の就労を促進する方向での制度改革が進んでいます。
4-3. 高年齢者の積極的活用に向けた課題
これからの高齢者雇用は、「福祉的な雇用」から「戦力としての雇用」への転換が重要です。そのためには、以下のような取り組みが必要となります。
①シニア社員の仕事内容の見直し
・今までの「年齢による仕事の軽減」から、「能力に応じた仕事の割り当て」へ
②やる気を維持するための仕組みづくり
・能力に見合った賃金体系の整備
・重要な職種については、現役世代と同等の処遇も検討
・年齢にとらわれない人事評価制度の導入
・状況に応じた定年延長の検討
5. これからの企業に求められる対応
5-1. 生産性向上への取り組み
人件費の上昇が避けられない中、企業には生産性を上げることで収益力を高めることが不可欠です。「中小企業だから大企業のようなことはできない」と諦めるのではなく、できることから取り組むことが重要です。
デジタル化や機械化への投資は、単なる人件費削減ではなく、企業の競争力を高めるための重要な投資として考える必要があります。
5-2. 人材育成・リスキリングの推進
2024年10月から教育訓練給付が拡充され、2025年10月からは教育訓練休暇給付金も新設されます。これらの支援制度を活用しながら、計画的な社員教育を進めることが重要です。
特に、デジタル技術に対応できる人材の育成は、今後の企業発展には欠かせません。社内教育に加えて、外部の研修機会も積極的に活用していくことをお勧めします。
5-3. 多様な働き方の導入
人材の確保と定着のためには、働き方の選択肢を増やすことも重要です。特に、シニア人材の活用では、短時間勤務制度の導入や、これまでの経験を活かした新しい役割の創設なども効果的です。
5-4. 助成金等の支援策の活用
人材の確保や育成、処遇改善については、様々な助成金制度が用意されています。例えば、人材確保等支援助成金や人材開発支援助成金は、企業の取り組みを資金面から支援する重要な制度です。これらの制度を上手に活用することで、企業の負担を軽減することができます。
6. まとめ
人材確保が難しい時代だからこそ、次のような取り組みが重要になります。
特に、これからの15~20年は50代の団塊ジュニア世代の活用が重要なカギとなります。シニア人材を「支援が必要な存在」ではなく「頼れる戦力」として活用する仕組みづくりが、企業の成長につながります。
私ども社会保険労務士は、労務相談から助成金の活用まで、様々な形でお手伝いをさせていただいております。「うちの会社に合った対策を考えたい」「具体的な進め方を相談したい」といったご要望がございましたら、お気軽にご連絡ください。
・生産性を高め、収益力を強化する
・計画的に人材を育成する
・多様な働き方を取り入れる
・各種支援制度を積極的に活用する・計画的に人材を育成する