2025年4月施行「 育児・介護休業法」等の改正で実現する働きやすい職場環境(第3回)

1. はじめに

皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の 山根敦夫です。育児・介護休業法改正に関する連載の最終回となる今回は、次世代育成支援対策の強化と企業の役割について解説いたします。

これまでの2回で、仕事と育児の両立支援強化や男性の育児参加促進、介護離職防止などについてお伝えしてきました。今回は、次世代育成支援対策推進法の改正点を中心に、企業に求められる新たな役割について詳しく見ていきましょう。

2. 次世代育成支援対策推進法の延長

まず、大きな変更点として、次世代育成支援対策推進法の有効期限が延長されることになりました。

現行法:令和7年(2025年)3月31日まで
改正後:令和17年(2035年)3月31日まで

この10年間の延長により、企業は引き続き次世代育成支援対策に取り組むことが求められます。これは、少子化対策や子育て支援の重要性が依然として高いことを示しています。

延長に伴い、「くるみん認定」や「プラチナくるみん認定」といった認定制度も継続されます。ただし、認定基準の一部見直しが予定されているので、詳細が発表されましたら、改めてお知らせいたします。

3. 一般事業主行動計画の新たな要件

次に、一般事業主行動計画の策定に関する新たな要件について説明します。この改正は、企業の取り組みをより実効性のあるものにすることを目的としています。

a) 対象企業の範囲
常時雇用する労働者が100人を超える企業:義務
常時雇用する労働者が100人以下の企業:努力義務

b) 新たな要件 行動計画の策定時に、以下の項目について状況把握と数値目標の設定が義務付けられます。

  1. 育児休業等の取得状況
  2. 労働時間の状況

c) PDCAサイクルの確立 企業は、上記の状況を把握し、改善すべき事情を分析した上で、その分析結果を勘案して新たな行動計画を策定または変更することが求められます。これにより、継続的な改善が期待されます。

4. 育児休業取得等の状況把握と目標設定

それでは、育児休業取得等の状況把握と目標設定について、具体的に見ていきましょう。

a) 育児休業取得状況の把握 男性の育児休業等取得率を把握することが求められます。計算方法は以下の通りです:

育児休業等取得率 = 育児休業等を取得した男性労働者数 ÷ 配偶者が出産した男性労働者数

ここでいう「育児休業等」には、法定の育児休業(産後パパ育休を含む)のほか、法に基づく育児休業に準ずる措置による休業も含まれます。

b) 労働時間の状況把握 フルタイム労働者の各月ごとの時間外労働及び休日労働の合計時間数を把握します。これは、長時間労働の是正や働き方改革の観点から重要な指標となります。

c) 数値目標の設定 把握した状況をもとに、具体的な数値目標を設定します。例えば、「男性の育児休業取得率を〇〇%以上にする」「月平均の時間外労働時間を〇〇時間以下にする」といった目標が考えられます。

重要なのは、現状を正確に把握し、実現可能かつ意欲的な目標を設定することです。

5. PDCAサイクルの実施

PDCAサイクルの実施は、次世代育成支援対策を効果的に推進するための重要なプロセスです。以下の手順で進めていきましょう。

a) Plan(計画)
状況把握と分析結果をもとに、具体的な行動計画を策定します。目標、取り組む内容、実施時期を明確にしましょう。

b) Do(実行)
策定した行動計画に基づいて、具体的な取り組みを実施します。社内への周知や、必要に応じて外部リソースの活用なども検討しましょう。

c) Check(評価)
定期的に取り組みの進捗状況を確認し、目標達成度を評価します。数値目標の達成状況だけでなく、従業員の声なども参考にしましょう。

d) Act(改善)
評価結果をもとに、取り組みの見直しや改善を行います。必要に応じて行動計画自体の修正も検討しましょう。

このサイクルを繰り返すことで、継続的な改善と、より効果的な次世代育成支援対策の実現が可能になります。

6. 事業主に求められる対応と準備

以上の改正内容を踏まえ、事業主の皆様には以下のような対応・準備が求められます:

  1. 現状の把握と分析:
    • 育児休業取得状況や労働時間の実態を正確に把握しましょう。
    • 課題や改善点を明確にし、対策を検討してください。
  2. 行動計画の見直しと策定:
    • 新たな要件に基づいて、既存の行動計画を見直しましょう。
    • 具体的かつ実現可能な数値目標を設定し、達成のための施策を盛り込んでください。
  3. 社内体制の整備:
    • 状況把握や計画実行のための担当者や部署を明確にしましょう。
    • 必要に応じて、外部の専門家(社会保険労務士など)のサポートを受けることも検討してください。
  4. 従業員への周知と理解促進:
    • 行動計画の内容や会社の取り組みについて、従業員に広く周知しましょう。
    • 次世代育成支援の重要性について、研修などを通じて理解を深めてください。
  5. データ管理体制の構築:
    • 育児休業取得状況や労働時間のデータを適切に管理する仕組みを整備しましょう。
    • 定期的なレポート作成など、PDCAサイクルを支援する体制を作ってください。
  6. 柔軟な働き方の推進:
    • テレワークや時差出勤など、多様な働き方を支援する制度の導入・拡充を検討しましょう。
  7. 相談窓口の設置・強化:
    • 従業員が気軽に相談できる窓口を設置または強化し、個々のニーズに対応できる体制を整えましょう。

7. まとめ

今回の育児・介護休業法および次世代育成支援対策推進法の改正は、企業に対してより積極的な次世代育成支援対策を求めるものです。特に、育児休業取得状況や労働時間の把握、数値目標の設定とPDCAサイクルの実施は、多くの企業にとって新たな取り組みとなるでしょう。

これらの対応は一見負担に感じるかもしれませんが、適切に実施することで以下のようなメリットが期待できます:

  1. 優秀な人材の確保・定着
  2. 従業員のワーク・ライフ・バランスの向上
  3. 企業イメージの向上
  4. 生産性の向上
  5. 社会的責任の遂行

2025年4月の施行に向けて、計画的に準備を進めていくことをお勧めします。特に、現状把握と分析、行動計画の策定には時間がかかる場合もありますので、早めの着手が重要です。

本連載では、育児・介護休業法改正の主要なポイントについて解説してきました。詳細についてはまだ省令等で定められていない部分もありますので、今後の情報にも注意を払いつつ、自社の状況に合わせた対応を進めていただければと思います。

皆様の企業が、従業員にとって働きやすく、次世代の育成にも貢献できる素晴らしい職場となることを願っています。今後とも、法改正や制度変更などについて、タイムリーな情報提供を続けてまいりますので、引き続きご注目ください。