皆さん、こんにちは。特定社会保険労務士の山根敦夫です。今回は、中小企業の経営者や人事担当者の皆様にとって非常に有益な「キャリアアップ助成金(正社員化コース)」についてご紹介いたします。
もくじ
1. キャリアアップ助成金(正社員化コース)とは
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、有期雇用労働者、無期雇用労働者、または派遣労働者を正社員に転換または直接雇用した事業主に対して支給される助成金です。この制度は、非正規雇用から正規雇用への移行を促進し、労働者のキャリアアップを支援することを目的としています。
中小企業にとっては、人材の確保・定着が大きな課題となっていますが、この助成金を活用することで、優秀な人材を正社員として迎え入れる際の経済的負担を軽減することができます。
2. 支給額と加算措置
本助成金の支給額は、企業規模や対象となる労働者の雇用形態によって異なります。主な支給額は以下の通りです:
- 有期雇用労働者を正社員化した場合 中小企業:80万円(40万円×2期) 大企業:60万円(30万円×2期)
- 無期雇用労働者を正社員化した場合 中小企業:40万円(20万円×2期) 大企業:30万円(15万円×2期)
さらに、以下のような場合には加算措置があります:
- 派遣労働者を正社員として直接雇用する場合:28.5万円加算
- 母子家庭の母等または父子家庭の父を正社員化した場合:加算あり(金額は雇用形態により異なる)
- 人材開発支援助成金の特定の訓練修了後に正社員化した場合:加算あり(金額は訓練内容により異なる)
また、正社員転換制度や多様な正社員制度を新たに規定し、転換等した場合にも加算措置があります。
3. 主な支給要件
本助成金を受給するためには、以下の主な要件を満たす必要があります:
a) 正社員化制度を就業規則等に規定していること
b) 正社員化後6か月以上継続して雇用し、賃金を支払っていること
c) 正社員化後の賃金が正社員化前と比べて3%以上増額していること
d) 支給申請日において対象労働者が離職していないこと
e) 正社員化した日の前後6か月間に事業主都合による解雇等をしていないこと
これらの要件を満たすことで、第1期目の支給を受けることができます。さらに、正社員化後12か月以上継続して雇用し、賃金を支払った場合には、第2期目の支給を受けることが可能です。
4. 対象となる労働者
本助成金の対象となる労働者は、主に以下の条件を満たす必要があります:
a) 支給対象事業主に、賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を6か月以上受けて雇用されている有期雇用労働者または無期雇用労働者
b) 6か月以上の期間継続して派遣先の同一の組織単位での業務に従事している派遣労働者
c) 正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期雇用労働者等でないこと
d) 正社員化の前日から過去3年以内に、当該事業主の事業所で正規雇用労働者として雇用されたことがない者
また、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、就労経験のない職業に就くことを希望する者で、特定の条件を満たす派遣労働者も対象となる場合があります。
5. 正規雇用労働者の定義
本助成金における「正規雇用労働者」とは、以下の条件を全て満たす労働者を指します:
a) 期間の定めのない労働契約を締結している
b) 所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者と同じである
c) 同一の事業主に雇用される通常の労働者に適用される就業規則等に規定する賃金の算定方法及び支給形態、賞与、退職金、休日、定期的な昇給や昇格の有無等の労働条件について長期雇用を前提とした待遇が適用されている
特に、「賞与または退職金の制度」と「昇給」の両方が適用されていることが重要です。これらの制度は、就業規則等に明確に規定されている必要があります。
6. 賃金増額の計算方法
正社員化後の賃金が3%以上増額していることを確認するための計算方法は、主に以下の2つがあります:
a) 正社員化前後で所定労働時間や給与支給形態に変更がない場合:
(正社員化後6か月の賃金総額 – 正社員化前6か月の賃金総額)÷ 正社員化前6か月の賃金総額 × 100 ≧ 3%
b) 正社員化前後で所定労働時間や給与支給形態に変更がある場合:
(正社員化後6か月の1時間あたりの賃金 – 正社員化前6か月の1時間あたりの賃金)÷ 正社員化前6か月の1時間あたりの賃金 × 100 ≧ 3%
なお、賃金の比較に含めることができない手当(通勤手当、残業代、賞与など)もありますので、詳細は公式のガイドラインをご確認ください。
7. 申請手続きと必要書類
申請手続きは以下の流れで行います:
a) キャリアアップ計画書の作成・提出(取組実施前)
b) 正社員化の実施
c) 支給申請書の提出(正社員化後6か月分の賃金支払い後2か月以内)
主な必要書類は以下の通りです:
- キャリアアップ助成金支給申請書
- 正社員化コース内訳・対象労働者詳細
- 就業規則または労働協約(転換前後)
- 対象労働者の雇用契約書(転換前後)
- 賃金台帳(転換前6か月分、転換後6か月分)
- 出勤簿またはタイムカード(転換前6か月分、転換後6か月分)
8. 多様な正社員制度の活用
本助成金では、「多様な正社員」(勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員)への転換も支援対象となっています。多様な正社員制度を導入することで、従業員のワーク・ライフ・バランスを向上させつつ、人材の確保・定着を図ることができます。
多様な正社員制度を導入する際は、就業規則等に明確に規定し、通常の正社員との違いを明確にする必要があります。また、多様な正社員への転換の際も、賃金の3%以上の増額など、他の要件を満たす必要があります。
9. まとめ:制度活用のメリットと注意点
キャリアアップ助成金(正社員化コース)を活用することで、以下のようなメリットが期待できます:
- 非正規雇用労働者の正社員化に伴う経済的負担の軽減
- 優秀な人材の確保・定着
- 従業員のモチベーション向上とスキルアップ
- 企業イメージの向上
一方で、以下の点に注意が必要です:
- 就業規則等の整備と適切な運用
- 賃金増額要件の確実な実施
- 申請書類の正確な作成と期限内の提出
- 支給後の継続雇用の維持
本助成金を活用する際は、事前に社会保険労務士等の専門家に相談し、自社の状況に合わせた最適な活用方法を検討することをおすすめします。従業員のキャリアアップを支援しつつ、企業の成長につなげていきましょう。